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ルティエラ、男の腕の中で目覚める 1
しおりを挟むずいぶんと、体がすーすーする。
そして頭がごりごりする。
ベッドはいつもよりも硬くてギシギシで、シーツが湿っているような気がした。
ルティエラは痛む頭をおさえて目を覚ました。
頭も痛ければ、体も妙に痛い。
豪奢な金の髪は寝乱れていて、肩や背中にくるくるとウェーブを描きながら落ちている。
最近は手入れが滞ってはいるものの白く美しい肌に、豊かな胸に引き締まった腰。すらりと長い足。
ややつり上がり気味の青い瞳をぱちりと瞬いて、ゆっくりとベッドから起き上がった。
「……?」
ここはどこで、私は誰で、今は何時なのだろう。
こんなに何もかもが分からない目覚めははじめてだ。
昨日――久々の休みを貰えた。半年ぶりの休みだった。
懲罰官からお許しが出たのだ。
明らかに王国の労働基準からは逸脱した働き方をしているルティエラは、半年の労働で疲れ果てていた。
けれどせっかくの休みである。給金も、少しだけれど貰えた。
それなので、本当に久々に外の空気を吸いに街へと繰り出した。
あぁ、自由のなんと素晴らしいことか──と感動しながら、生まれてはじめて酒場に入った。
酒でも飲まなくてはやっていられないという言葉を、城ではよく聞く。
ルティエラの立場は特別だが、それ以外にも城では激務で死にかけている者が多いのだ。
文官や武官も、多忙のために二日寝ていないやら、二日風呂に入っていないなどという話もよく聞くし、掃除をしていると床に生きる屍が落ちていることも多い。
生きる屍は、文官の方々が主だ。文官の方々というのはいつも忙しいのである。
そんな彼らが「酒でも飲まないとやってられない」とたまに言う。
なるほど、それは私もそうだ――と、ルティエラは心のノートに書き足しておいた。
そんなわけで、酒でも飲まないとやっていられないルティエラは、はじめて酒場の扉をくぐったというわけである。
(そうだったわ。私、お酒を飲んだ)
ルティエラは十八歳だ。もう酒を飲むことができる。
ただ、飲んだことはなかった。飲んだことがなかったのに、口にしてみたら思いのほか美味しくて、懲罰官からもらった給金を全て使い果たす勢いで酒を飲んだ。
そこまでは――覚えている。
「……ん?」
ベッドの上で起き上がり、つらつらと記憶を辿ると、途中で途切れた。
お酒が美味しかったよりも後の記憶がどうにも曖昧だ。
飲み過ぎて倒れたのだろうか。
ふと視線を落とすと、豊かな二つの胸が見える。
胸のあちこちに、小さなうっ血の後がある。
「ぶつけた……?」
ずいぶん特殊なぶつけ方をしたものだ。それに、すーすーするはずである。
全裸だった。もしかして、酔った勢いで脱いだのだろうか。それとも暑かったのか。
全裸で寝る習慣があるわけでもないし、昨日の私はどうしたのだろうと首を傾げる。
徐々に覚醒してくると、頭の痛みもおさまってきた。
部屋を見渡す。小さな窓が一つだけあり、カーテンがかけられている。部屋はまだ薄暗い。
壁掛けの時計は、午前五時を示していた。
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