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保健室での邂逅
しおりを挟むアダムとはじめて言葉を交わした日のことはよく覚えている。
あれは、夏の終わりのことだ。フェルマー公爵家に呼び出されていたシャロンは、オリバーの浮気について両親にあれこれと聞かれていた。
父は「まだ殿下は子爵令嬢などに熱をあげているのか」と言い、母は「そんな娘の家など、潰してしまえばいい」と怒りを露わに父に進言していた。
そして最終的には、シャロンが全て悪いという結論になった。
シャロンはひたすらに謝っていた。その時点でシャロンの心は限界を迎えていて、心の不調が体に出るようにまでなっていた。
夜は眠れず、食欲もなくなった。時折、耳鳴りがして、体には常に倦怠感がつきまとっていた。
更に追い打ちをかけるように、秋のはじまりを祝う舞踏会で、オリバーはシャロンとは踊らずに、エミリアと何曲も踊っていた。
表向きは何でもないような顔をしていたシャロンだが、口にできない感情が胸にあふれて、ふとした瞬間、緊張の糸が切れるように――目眩がして、倒れてしまいそうになる時があった。
人前ではそのような無様をさらせない。
そうなってしまう前に、少しだけ休ませて貰おうと、保健室に向かったのである。
保健室を任されている保健医には「月の障り」だと嘘をついた。
そう言っておけば、体調不良の理由をあれこれ尋ねられずにすむ。
保健室にあるベッドにしばらく横になっていると、保健医は「模擬試合中に怪我人が出たらしいので行ってくる」と行って、保健室からいなくなった。
保健室にはベッドが数台ある。ついたてがおかれて、ベッドの間は区切られている。
今のところ、横になっているのはシャロン一人きりのようだった。
他に誰もいなくてよかったと思いながら目を閉じていると、保健室の扉が開いた。
中に入ってきたのは、具合の悪そうな少年だった。
彼がアダムだと知っていたシャロンは、ベッドから起き上がってアダムの元に向かう。
「先生は、怪我人の元に行ってしまって。今は私しかいないのです。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。少し横になれば、よくなりますので」
今にもアダムが倒れそうに見えたので、シャロンはその手をひいてベッドまで案内した。
シャロンも体調が悪かったのだが、少しばかり横になったので、目眩はおさまっていた。
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