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1巻

1-3

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「っ、ふ、ぅう……っ」

 あぁ、また。
 またあの感覚が私を襲います。

「っ、ぁ、あああっ、ゃ、あっ、あ、シアン様、駄目です、そこは駄目です……っ」
「ラティス」
「ふぁ、ああっ、んん……っ」

 一度離れた唇が、再び深く重なりました。
 私の中にあるなにかを探るようにして、余すところなくねぶられて、舌を吸われると、閉じたまぶたの裏側にちかちかと星が散るようでした。
 私は再び、高みに押し上げられて――大きく体を震わせて、意識をにごらせました。
 再びあの感覚に襲われて、なにがなんだかわからないままにぐったりと体の力を抜いた私の首筋に、シアン様の口づけが落ちました。
 優しいキスの後に、ちくりとした痛みが走ります。
 首筋をついばむように、ちゅ、と音を立てながら吸われて、鎖骨をかりっと噛まれると、少しの痛みとそれ以上の甘さが体に広がりました。
 唇や舌で体に触れられることはきんのはずなのに、今の私はそれがシアン様からの愛情のように感じられます。

「ラティス、甘いな。君の体は、全て甘い」
「シアン様……汚いです、駄目……」
「君の体に、汚いところなどない。先ほどまで君は罪深いからいけないと言っていたが、俺に触れられるのはもう嫌ではないのか?」
「……っ、それは」
「君をおとしめるようなことを言って、すまなかったな、ラティス。俺は、愛しているから君に触れたい。君の体に余すところなく触れて、めて、君を鳴かせたい」
「……私」
「君が嫌と言おうが、駄目と言おうが、やめるつもりはない。君は俺のものだ。全て俺にゆだねて、俺を感じていればいい」

 全てゆだねていいとは、なんと甘美な言葉なのでしょうか。
 罪深さも罪悪感も全て、シアン様のせいなのだと責任を押しつけて、頭を空っぽにしてただ、与えられるままに、愛されるままに受け入れていればいいのですから。

「シアン様……」

 名前を呼ぶ声に、甘えるような響きが含まれます。
 シアン様は敏感にそれに気づいたようで、口角を笑みの形に吊り上げると、私の頬をでました。

「良い子だ、ラティス。怖いことはなにもない。快楽は、愛の証。存分に乱れるといい」
「愛の、証……?」
「そうだ。愛しく思うからこそ、快楽を感じる。俺が君を愛し、君が俺を愛している証」

 愛しているから、気持ちがいい……?
 その言葉はまるで、はしたない私を全て許してもらえる免罪符のようでした。
 快楽は、きん
 それなのに、これが愛だというのでしょうか。
 だとしたら──なんて、激しくて、苦しくて切なくて、甘いのでしょう。

「可愛い君を、もっと見せてほしい。俺を感じて、快楽に泣く君は、とても可愛い」
「でも……私」
「良い子だ、ラティス。俺の声を聞いて。俺の言うことだけを聞け」

 あぁ、長い間会うことのなかった旦那様に、優しい声で褒められるのは──嬉しい。
 心が震えて、愛しさでいっぱいになってしまいます。
 私は誰に期待をされることもない七番目の末娘でしたから、父母に特別に愛されたという記憶もありません。
 使用人や侍女たちはいましたけれど、城の中で権力を持つこともない私に仕えるのは、どちらかといえばあまり名誉なことではありませんでしたから。
 だからこんなふうに熱を帯びた声で名前を呼ばれると、宝物でも扱うように肌に触れられると、嬉しくて。
 幸せを、感じてしまうのです。

「シアン様……いいのでしょうか……」
「この屋敷に、俺たちの行いをとがめるものは誰もいない」
「はい……」
「俺に君を愛させてくれ。君の深いところに触れたい。ラティス、愛している」

 私の着ているワンピースの一列に並んだボタンが、ぷつぷつと器用に外されていきました。
 そこには、強引さも乱暴さもまるでなくて。
 けれど私の両手を拘束している柔らかい植物のつるは、解かれることがありません。
 痛みはなく、恐怖もありません。
 その拘束は、いけない行為を受け入れる私の、言い訳になっている気がしました。
 そして──シアン様の強い思いが感じられるようで、今は拒否感よりも喜びに、胸が震えるのです。

「美しいな、ラティス。三年前とは少し変わっただろうか。できればそばで、君を見ていたかった。しかし……」

 服を脱がされ下着だけを身につけた私の皮膚の上を、シアン様の指がいます。
 コルセットのひもが外されてまろびでた胸を、片手ですくうようにして持ち上げて、くるりと薄く色づいた胸の中央に触れました。

「シアン様、そこは……」
「赤子を育てるための場所と、教わっているのだろう。ラティス、君の愛らしい胸の宝石も、いやらしい花芽と同じ。快楽を得ることができる」
「……あ」
「だが……ここを淫らに花開かせるのにはまだ早い。俺は、君と繋がりたい。君が俺のものだと、君の奥深くに、刻みたい」

 シアン様は私の胸の頂にそっと口づけて離れると、脇腹からへそ、下腹部へと音を立てながら口づけました。
 それからするりと、私のしとどに湿ったショーツを脱がせました。
 ひやりとした外気にさらされたそこが、一体どうなっているのか私にはわかりません。
 自分では、見たこともない場所なのです。

「布の上からめただけで達してしまうぐらいに敏感で可愛い小さな芽が、赤く腫れて、めてほしいと震えている。望み通りたくさん可愛がってやろう、ラティス」

 ぞわりとしたものが、背筋を走ります。
 布の上からねぶられた時、おかしくなるぐらいに体中がぞわぞわしたのです。
 それは、快楽と呼ばれるもの。
 布の上からでもあれほど気持ちよかったのですから、直接ねぶられたら、私はどうなってしまうのでしょうか。
 怖いような気がしました。
 けれど、わずかな期待も、私は感じてしまっているようでした。
 シアン様の指が、私のその場所を広げていきます。
 普段は閉じている場所を広げられて観察するようにじっくり見られると、泣き出しそうなほどの羞恥心が湧き上がってきます。
 二回もそうをして濡れてしまった秘裂の先端にある突起に、シアン様はためらいもなく口づけます。
 薄皮を剥くようにぬるりと舌で押し上げられて、ちろちろと舌先で優しく、剥かれた皮の中にある花の芽がねぶられました。

「あっ、あぁっひ、ひい……っや、ああっ、あ!」

 ぴちゃぴちゃとはしたない音を立ててねぶられるたび、体を雷で撃たれ、稲妻が走り回るようでした。
 剥き出しの神経を優しく淫らになぶられるような感覚に、私はす術なく悲鳴を上げました。

「しあ、さ……っ、シア、ああっ、やあっ、だめです、ひっ、あああっ、あっ、ゃああん……っ」

 すぐに逃げ出したくなるほどの切なさが、暴虐に体を暴れ回りました。
 三度目ともなれば、これは快楽なのだと、気持ちいいから私の体はおかしくなっているのだと理解することができます。
 けれど、一度目よりも、二度目よりも、今はずっと、激しいのです。
 じたじたと跳ねる腰を、もがく足をシアン様は押さえつけて、薄皮の中のはしたない突起をちゅると吸って、舌で転がしました。
 素早くつつかれ、下から上へ押し潰すようにねぶられると、腰がびくびくと跳ねてしまいます。
 お腹の奥が、すごく切ないのです。
 きゅうきゅうと体の奥のほうが収縮して、私の中からとろとろと蜜が流れ落ちていくのがわかるのです。

「あっ、ひぁっ、いやです、しあんさま……っ、やっ、ん、ぁああ、あ、ふぁああっ」

 ともすれば苦しいぐらいの強すぎる刺激から逃げ出そうと、私はベッドの上で身をよじりました。
 ぼろぼろ涙が溢れて、はくはくと、多くの酸素を求めるようにして荒い息をつきました。
 声を堪えたいと思いましたが、甘い悲鳴が唇から勝手に溢れてしまいます。
 シアン様は私の哀れな様子に気づいたのか、一度唇をその場所から離してくださいました。
 私の男性を受け入れるための場所の入り口に、シアン様の指が入ってきます。
 ぬかるんだその場所は、ごつごつした長い指を簡単に受け入れました。
 やや圧迫感を覚えましたが、それだけでした。
 内壁を優しくでられ、奥にある行き止まりの場所を指先でつつかれると、違和感とともに妙な甘さが体を支配して、私は新しい涙をこぼしました。

「ラティス、痛くは?」

 気遣うような言葉と、心配そうな赤い瞳には、私への愛が溢れているようでした。
 この場所でシアン様と繋がることができるのかと思うと、子種を頂くことができるのかと思うと、私の胸は喜びに満ちました。
 早く欲しいとさえ、思うほどに。

「ないです……大丈夫、です、シアン様……」
「だが、もう少し解さないといけないな。痛い思いはさせたくない」
「あっ、も、もう、そこは……っ、いけません、シアン様、わたし……っ、だめなのです、そこは、ゃう……」

 私の中に入っている指を動かしながら、シアン様は再び私の花の芽を口に含みました。
 優しく舌ででるようにねぶりながら、蜜口の奥を掻き回されると、違和感よりも快楽が勝ってしまいます。
 もう駄目だと思うのに、私の体はどこまでも高い場所へ押し上げられていくようでした。

「ラティス、どうして駄目なんだ?」
「私、へんになって、しまいます……っ、考えることが、できなくなって……」
「それでいい。俺がそうしている」
「で、でも、ゃ、あああっ、あっ、あぅう……っ」

 大きな波に、何度も襲われるようでした。
 どうしようもないぐらいに耐え難い排泄感が、お腹の底から湧き上がってきます。
 快楽の罪深さを抜きにしても、とても恥ずかしく、人に見られていい姿ではないのに。

「しあんさま、ごめんなさい……っ、ご慈悲を……私、っ、あ、あああ……」
「ラティス。愛している。怖がらなくていい。俺に、ゆだねて」
「ひぅ、あああっ、こわい、シアン様、いやぁ……」
「ラティス。気持ちいいと言え。ほら、気持ちいい」

 皮膚を通して、シアン様の声が体に染み込んでいくようでした。
 これは、怖くないこと。気持ちいいこと。
 気持ちいい。気持ちいい。

「気持ちいい、です、シアンさま、気持ちいい、いい、です……っ」
「良い子だ、ラティス。もう、達しそうか?」
「わかりません……きもちい、あ、あっ、噛んだらだめ、ああっ、シアンさま、シアンさまぁ……」
「ラティス。達する時は、イク、と。俺に教えるんだ」
「は、はい……シアンさま、いく、イきます、私、っ、あああっ、いく、いく……ぁあああっ!」

 内壁を押し上げる手の動きが激しさを増し、ぐちゅぐちゅと恥ずかしい音が聞こえてきます。
 シアン様が私の敏感な場所を吸い上げて、こりこりと甘く噛んで、私は高い声を上げながら達しました。
 私の中から迫り上がってくるものが、行き場を失って噴き出してしまったように、透明な液体が激しく溢れて、シアン様の口元を濡らしました。
 なんてことをしてしまったのだろうと思ったのですが、私はもうお話しすることも、まともに考えることもできなくて。
 陸に打ち上げられた魚のようにベッドの上に体を投げ出したまま、シアン様が口元をめ取って、やや乱暴にシャツで顔を拭く姿と、熱が灯る肉食獣のような瞳を見つめていました。
 慈しむような口づけが、何度も唇に落ちます。
 優しいのか、ひどいのか、気持ちいいのか、つらいのか。
 わからない、です。けれど、繰り返し唇に触れるだけの口づけをされるのは、優しくでられて目尻や頬やにそっとキスをしていただくのは、愛されているようで、甘やかされているようで、とても心地いいのです。

「ラティス、良い子だ。気持ちよかった?」
「……シアン様……」

 深く響く声に名前を呼ばれて、多幸感が胸に溢れます。
 もう、どうなってもいいと思いました。
 私は、シアン様の言葉に従って、シアン様に身を任せていればいいのだと。
 そうすれば、なにも怖いものはありません。
 優しい言葉で、声で、褒めていただけるのです。
 それはとても幸せなことだと感じました。
 どんなに恥ずかしいことも、きんでさえ、受け入れられてしまうような気がしました。

「これは、愛の証……気持ちいいこと、なのですね……」
「あぁ。俺の手で君が快楽に染まる姿は、愛しい」
「シアン様が、喜んでくださるのなら……私、どんな恥ずかしいことも、大丈夫、です」

 拘束された腕を動かすと、私の意志が通じたように、腕に巻きついたつるが少したわんでわずかに手を伸ばす余裕ができました。
 手首につるまとわりつかせながら、力の入らない手でなんとかシアン様の頬に触れると、シアン様はにわかに目を見開きました。
 それからとても嬉しそうに、愛おしげに目を細めます。

「可愛い、俺のラティス。君のそばにいれば、まだ幼かった君を傷つけてしまっていただろう。戦場に立った三年、君と離れるのは辛かったが、俺にとってはぎょうこうだった。君と離れていれば、傷つけることもない」
「……十五の私は、十分大人でした。この国では、十五で嫁ぐことはそう珍しくありません」
「そうだとしても、君の心や体を傷つけるのは本意ではない。俺は君をずっと、手に入れたかった。誰かに取られるよりも先に、俺が。この日をどんなに待っていたことか。ラティス、君は成熟し、俺は行儀よく待つ必要がなくなった」

 シアン様が私の耳元でささやき、カチャリとベルトを外す音が聞こえました。
 私の入り口に、熱く硬いなにかが擦りつけられるのがわかります。布越しではなく、直接皮膚が、粘膜同士が擦り合わさるあまりにも生々しい感覚に、くらくらまいがするようでした。

「愛している、ラティス。俺には君だけだ。ラティス、ラティス……」
「シアン様……っ、あ、ああっ」

 つぷりと、私の中になにかが押し入ってくるのがわかります。
 それは指よりもずっと大きくて、太くて。硬い、熱杭のようなものでした。
 シアン様のお体にそんな場所があって、それが私と繋がっているのが信じられませんでした。
 驚きと衝撃で見開いた目から、新しい涙がこぼれます。
 強い圧迫感はありましたが、シアン様が十分に私の体に快楽を与えてくださったからでしょうか、痛みはありませんでした。

「ラティス、わかるか? 君の中に俺がいる。もう少し、耐えていろ」
「ふ、ぁ、あ……っ」

 膨らんだ先端が私の中に押し入り、やや強引に腰を打ちつけてきました。
 なにかが破けるような衝撃とともに、シアン様が私のはらの底を押し上げるような、私の中に熱い楔が打ち込まれたような感覚に、脳髄が焼けるようでした。

「あっ、あぁ、シアン様、あ、ひ……っ、ぅうう」
「痛くはないか、ラティス」
「しあ、……っ、あぁ、奥に、あなたが……っ、嬉しい、です、しあ、さま、……好き……」

 こつんと、最奥にシアン様のたかぶりの先端が当たったのがわかります。
 それは、すっかり理性の溶けてしまった私にとって、ほんの少しの違和感とそれ以上に胸が震えるような幸せが広がっていくものでした。
 まるで体を糖蜜につけられたように、私とシアン様との境目が曖昧になってとろけていくようで。
 シアン様と私以外の、このベッドの上の私たち以外の全てが、遠く消えていくような感覚でした。
 私は、シアン様が好きです。
 シアン様は私の、旦那様で、私を欲してくださった方ですから。
 シアン様は私をきつく抱きしめてくださいました。飽きもせずに、何度も唇が重なります。
 愛していただいている。大切に、していただいている。
 その仕草だけで──それが伝わってくるのです。
 何故、王国ではこれをきんとしていたのでしょうか。
 こんなにも、胸がいっぱいになるほどに、幸せを感じることができるのに。

「ラティス……あぁ、ラティス。愛している。可愛い俺の妻。もっと、気持ちよくしてやろうな」
「あ、あっ、ひっ……あぁあっ、あ、はげし、しあ……っ、ああああっ」

 こつこつと、私の奥に熱杭の先端が押しつけられました。
 それは次第に激しさを増して、私の中を捲り上げるようにして手前まで引き抜き、再び奥まで、ぐじゅぐじゅと音を立てながら穿うがちます。

「シアン様っ、そこ、へんです……あっ、ああっ、だめ、だめ」
「教えただろう、ラティス。気持ちいい。気持ちいいな、ラティス」
「気持ちい、シアン様っ、気持ちいいです、あぁ、ああ、いい、気持ちい……っ」
「良い子だ」

 一番奥の肉壁を、がつがつと突き上げられると、どこまでも深く落ちていくような快楽がお腹の奥から体中に広がります。
 体がとろけて消えてしまうのではないかというぐらいに気持ちよくて、私はただ、悲鳴を上げることしかできません。

「ああっ、あああっ、あ、あッ……んん、ひ、……ッ、ああっ、ああ」
「ここが好きか。ラティス。ここを突き上げると、君の中は震えて、よく締まる」
「あ、ああっ、しあんさま、気持ちいい、です……っ、ゃあああっ、あ……っ」

 ばちゅん、と、肌のぶつかり合う音と、濡れた音、はあはあと荒い息遣いときょうせいが、部屋に充満しました。
 これは、精の匂いなのでしょうか。甘く淫らな香りが鼻腔をついて、さらに体を熱くさせました。
 もっととねだるように、私は自然と両足を広げていました。
 シアン様に両足を掴まれ、体を畳むようにされると、さらに奥まで熱楔が届きます。
 誰にも触れられたことのないお腹の中を掻き回されているようなおそろしさがあります。
 同時にとても、気持ちいいのです。頭がおかしくなりそうなほどに。

「ああっ、すき、しあんさま、すき……っ、気持ち、い、です……っ」
「ラティスは物覚えがいいな。本当に良い子だ。愛しているよ、ラティス」
「嬉しい……っ、あっ、ああっ」
「もう達しそうか? 堪える必要はない。何度でもイけ、ラティス」
「あっ、あああっ、いく、イク、いってしまいます、シアン様……っ」

 何度も突き上げられて、頭が白くにごりました。
 達する感覚に身をゆだねて、私は大きく体を震わせます。
 それでも律動は止まず、かすみがかった視線の先に、シアン様の背中から大きく広がる蒼炎の翼を見ました。
 蒼炎は、優しく私の体をでます。
 それは私をさらなる高みに導いているようでした。
 蒼炎にでられた体は甘く熱くとろけて、シアン様に内壁を擦られ、中を突き上げられるたびに感じる快楽が、もっと強く、激しくなっていくようでした。

「ああっ、ゃあああっ、あっ、あっ、シアン様、イく、私、また、イきます、もう……っ」
「あぁ……俺も、君の中で果てたい」
「嬉しい、シアン様……っ、あああっ、くださ、シアン様、しあ、さ……ッ」
「ラティス……!」

 私たちの体は、蒼炎に包まれて、シアン様は炎の翼で私を包むようにしながら、私を抱きしめました。
 私の奥に、熱い液体がほとばしるのがわかります。
 深く暗い奈落の底に落ちていくように淫らで暴虐で、甘い眠りに誘われるように心地よくて、私は目を閉じました。
 シアン様が愛しげに、私の下腹部に触れるのを感じながら、私は眠りの底へ落ちていったのです。


   ◇◇◇


 完全に意識を失ってしまったのだろう。ゆっくりと深く上下する胸と、閉じたまぶたと、長いまつに絡まる涙のしずく、薄く開いた唇を、一つひとつの形をじっくり観察するように眺めて、シアンはラティスの体の中に埋めた己自身を名残惜しく思いながらも引き抜いた。

「あ……ん……」

 薄く開いた桜色の唇から、甘えるような声が漏れる。
 意識をなくしているのに、シアンの存在を感じてくれているのが愛しく、もう一度その柔らかい場所に己を突き入れて、酷くしたいと思ってしまう。
 何回でも、ラティスの中で果てたい。
 何時間も、何日もずっと、繋がっていたい。

「……愛している、ラティス」

 シアンの背には、未だに蒼炎で形作られた翼がある。それはシアンが幻獣の民である証だ。
 シアンの体には、幻獣種の一種である不死鳥の血が流れている。
 シアンの父が不死鳥というわけではない。人が幻獣種とつがったのは過去の話だ。今はそんな人間はいない。幻獣も人と関わることなどほぼない。
 過去、幻獣と交わった人々の血の中に混じり込んだ幻獣種の血は強く、脈々と受け継がれている。
 だからといって全ての者にその力が現れるわけではない。
 幻獣の民であることに誇りを持って血を繋いでいる者たちも存在するが、シアンの生まれた家はそうではなかった。
 両親は己の中に幻獣の血が混じっていることなど知らなかったのだろう。
 黒い髪と赤い瞳、幻獣の民特有の見目で生まれてきたシアンを見た時、とても驚き、そしておびえた。
 そして、シアンは捨てられた。

「やっと、君に刻めた」

 愛しくささやきながら、ラティスのへその下、薄い下腹部に浮かび上がった翼の紋様をでる。
 赤く浮き出たそれは、幻獣種とつがった印である。
 ラティスが己のものだと、証明するものだ。
 この印がある限り、ラティスはシアン以外の精を受けつけない。
 とはいえ誰にもラティスの体に触れさせるつもりはないのだが。

「ラティス、俺の姫。君が俺を救った時からずっと、君が欲しかった。これからはずっと一緒だ」

 ラティスの腕を未だ拘束している魔法のつるをするりと解いて、シアンはくたりとして動かない、柔らかく頼りない、きゃしゃな体を抱きしめた。
 ベッドが乱れているのも、体に残る体液のざんも気にせずに、ラティスを抱きしめたまま横になり目を伏せる。
 どれだけこの日を夢見ただろう。
 ラティスは覚えていないだろうが──今よりもずっと、もっと幼かったラティスはシアンを救っている。
 あの日から、シアンは己の全てをラティスに捧げた。
 騎士団長になったのも、この家も、使用人たちも、全てラティスのためのもの。
 シアン一人ならば、使用人などは必要ない。広い家も、地位も名誉も必要ない。
 けれどラティスを手に入れるために、それは全て必要なことだった。

「……君を失わずに済んでよかった。やはり、念には念を入れておくべきなのだろうな」

 隣国の者たちが王家の馬車を襲ってくれたのは、素晴らしい偶然だった。
 シアンにとって、ただの兵など子供と同じだ。同じ幻獣の民であればそうもいかないが、百程度の兵なら一人でなんとでもなる。
 もちろんシアンも完璧ではないので、物量にものを言わせて攻め立てられたら、体力が尽きてしまうこともあるだろうが。
 王を守った褒賞としてラティスが手に入るとは思っていなかった。
 本当はもっとそれは先になるはずだった。


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