美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ

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1巻

1-2

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 私の存在がシアン様の迷惑になるのなら、私は静かにいなくなりたいのです。
 ウェルゼリア家の方々には、よくしていただきました。
 シアン様に欲しいと請われたことも、不思議には思いましたが嬉しかったのです。
 感謝をしています。だから私は、シアン様の邪魔をしてまで、必要とされていないのに、妻の座にしがみつく気にはなれませんでした。
 シアン様の顔を見ると、その気持ちはいっそう強くなりました。
 恋しいと思うからこそ、あなたの邪魔はしたくないのだと。

「君は、ラティスではない? 俺が君を見間違えるとでも?」

 ぎりりと、私の腕を掴む手に力がこもりました。

「君の気配が、ウェルゼリアの家から消えた。家の者たちには、君を外に出してはいけないと伝えていたにもかかわらずだ」
「私の、気配……?」
「ミュラリアの将の首を、いくつかとった。ミュラリアは引いたが、戦後の片づけが残り、なかなか戻ることができなかった。だが、俺にとっては戦などより君のほうが大切だ。だから、急ぎ帰還した」
「シアン様は……」

 踊り子の女性のもとに、身を寄せていたのではないのでしょうか。
 尋ねたくても、言葉が喉の奥に張りついてしまったかのように、なにも言うことができません。

「は、離してください……私は、ラティスではないのです」
「そうか。ならば君の体に直接尋ねよう。来い、ラティス。……やっと手に入れたんだ。俺は君を逃すつもりはない」

 私は首を振って、シアン様の手を振り解いて逃げようとしました。
 けれど逆に引き寄せられて、軍服をまとった硬い体に抱きしめられてしまいました。
 軍服からは、深い森のような香りがします。爽やかで澄んでいて、けれどどこか湿っていて、雨に濡れた土のような──うっそうと茂った森の中に咲いた大きな赤い花の花弁に、雨のしずくが落ちて、しっとりと湿る花弁の上をつるりと流れていくみたいな。
 深く、甘い、くらくらするような香りです。

「シアン様……離してください……!」
「二度と俺から逃げようと思わないよう、俺は君をしつけなくてはいけないようだな」

 シアン様の身にまとった黒いマントが、足元から燃え上がるように蒼炎に包まれました。
 熱くはありません。けれど、私は皮膚が焼けるような錯覚に、「ひ……っ」っと、小さく悲鳴を上げました。
 シアン様は、幻獣の民。魔法と呼ばれる不思議な力を使えます。
 炎に包まれた私たちは、次の瞬間、見慣れたウェルゼリアのお屋敷の、寝室のベッドの前に立っていました。
 シアン様は私から荷物を奪うと床に投げ捨てて、私の体を抱き上げました。
 そして、ベッドにやや乱暴に私を横たえました。
 てんがいのあるベッドの頭側、両角の支柱から、植物のつるのようなものが私の腕に伸びて巻きつき、私の体を拘束しました。
 シアン様が魔法を使う姿を見たのは、これが初めてでした。
 それぐらい私は今まで、シアン様と関わることがなかったのです。
 シアン様はマントを乱雑に床に落として、軍服の上着を脱いでそれも床にばさりと落としました。
 白いシャツに包まれた筋肉質な体があらわになります。
 太い首に、くっきり浮き出た喉仏。太い腕と、引き締まった腰、厚い胸板。
 男性を男性だとこれほど意識したのは、初めてのことかもしれません。
 シアン様は美しい方です。そのお顔だけ見ていると、どこか浮世離れしていて神秘的で、この世の人とは思えないぼうに、私はただ圧倒されるばかりでした。
 だから、男性だとそこまで意識したことはなかったのだと思います。
 今は、少し、怖いのです。

「あぁ、姫。俺の、ラティス。あなたをめとることができて夢のようだった。それなのに、戦が始まりあなたの顔を見ることも声を聞くこともできず、俺はずっと、地獄の業火に焼かれるほどに、あなたを求め、焦がれていた」

 両手を拘束されて動けない私を見下ろしながら、シアン様は美しい顔に暗い笑みを浮かべました。




   第一章 不死鳥の欲


 ベッドのスプリングが沈み、大きなベッドが揺れました。
 シアン様が私に覆い被さるようにして、私を見下ろしています。
 以前よりも伸びた黒髪が私の頬に触れました。

「ラティス、君は俺のもの。逃げるなど、許さない」

 私の耳元で、シアン様はささやきました。少しかすれた声音が鼓膜を揺らして、とくんと、心臓が跳ねました。
 射抜くような瞳が、拘束されて動くことのできない私の隅々までを観察するように、め回します。
 香り立つような色香をまとったシアン様の姿を見ているだけで、おそろしさとは違うぞわりとしたなにかが、私の体を駆け上がりました。
 それは──今まで味わったことのない感覚で、ただ怖いだけではなくて、わずかな期待をはらんでいるように、頭の奥が熱くうずくようでした。
 私はついさっきまで、一人で生きていかなければと、思っていたのです。
 シアン様にはもう二度とお会いすることはなく、身分を捨て名前も捨て、どこか遠くの小さな街で、誰も私を知らない場所で、細々と生きていかなければと。
 心細くて、不安でした。
 そして、寂しかったのです。
 けれど今は──シアン様を怒らせてしまったことが、とても苦しいのです。
 私はどうすればよかったのでしょう。
 オランジットのお腹には、シアン様との子が──
 オランジットがお腹をでる手が、あなたは邪魔なのだという声が、頭の中によみがえりました。

「シアン様……なにを、なさるのですか……?」
「君をめとった時、君はまだ十五。幼くあどけなく、清らかで純粋で、君に触れるのはまだ早いと堪えていた。だが」

 シアン様の指先が、服の上から感触を確かめるように、私の肌に触れていきます。
 首筋、鎖骨、脇腹、腰をでて、閉じていた足をやや乱暴に開きました。
 スカートが捲れ、ショーツがあらわになります。
 それはいつも侍女が選んでくれているもので、美しいレースの装飾が施された白いショーツです。
 ガーターベルトと、膝上まである薄い白の靴下。全て、私が不自由しないようにと、シアン様が使用人の方々に命じて私の体に合わせて作ってくださった物でした。
 ご不在の時でさえ、シアン様に私は、大切にしていただいていたのです。
 私は──どうして、シアン様を信じることができなかったのでしょう。
 使用人の方々は、シアン様が心変わりをするはずがないと、言っていたのに。

「美しいな、ラティス。幾度も夢で見た。俺の手で、君をけがす夢を」

 男性に、そんな場所を見られるのは初めてでした。
 逃げ出したくなるほどの羞恥心が湧き起こり、私は足を閉じようとして体をひねりました。

「ゃ、……いや、シアン様、お許しください……」
「許す? 俺は君を責めていない。自分のかつさを呪いたいとは思うが。……ラティス、ずっと触れたかった。俺の、姫。美しい足も、可憐な花も、俺のものだ」

 シアン様の唇が、私の下腹部に触れました。
 柔らかくあたたかく、湿った軟体動物のようななにかが下腹部から私の両足の間に降りていきます。
 薄衣の上から足の間を、シアン様のぬるりとして柔らかい──舌が辿りました。
 私の誰にも見せたことのない不浄の場所を、シアン様がめているのです。
 私はあまりのことに、大きく首を振りました。

「駄目です、駄目、シアン様、やめてください……っ」
「王国の経典では、快楽は悪、だったか」

 からかうように、シアン様はおっしゃいました。
 そんな場所に、一体なにがあるのか私にはよくわかりません。
 ただ、舌先でつつくようにねぶられると、体が熱く、腰が浮き上がるような奇妙な感覚が私を支配しました。

「ひ……ぅ……」
「男女の交わりは子作りの時のみ。体に触れることはせず、ただ、性器を入れ、果てる。女性はただ静かに受け入れる。君もそのように教わっているのだろう?」
「だ、男女の交わりは、情を交わし、子供をもうけるための、神聖なものです……」
「では何故、君の体には、ただ快楽を得るためだけの場所があるのだろうな」

 私には、シアン様のおっしゃっている言葉がよくわかりません。
 ただ、シアン様の吐息がその場所に触れ、その場所を指先でかりかりとひっかくたびに、体の奥がとろけるようななんとも言えない感覚が私を襲いました。

「シアン様……っ、どうか、ご慈悲を……駄目です、やぁ、あ……」
「あぁ、可愛いな、ラティス。俺の名を呼んで、泣き叫ぶといい」
「やぅ……あ、シアン様、いやぁ……」

 ねっとりと、唾液を染み込ませるようにして、シアン様の舌が私のそこをねぶり、私は涙をこぼしました。
 じゅる、じゅぷ。
 と、耳をふさぎたくなるような小さな水音が、鼓膜を揺らしました。
 シアン様の舌が、まるで私を食べるようにその場所を下から上へねぶります。
 そのたびに、ざわざわして落ち着かなくなるなにかが、下腹部から足先までを走り抜けました。
 こんなこと、いけないのに。
 これは、罪深い行いだと、頭では理解しています。
 けれど両手は拘束されて、両足はシアン様が押さえつけるようにして開かせているので、私は腰を浮かせることしかできません。
 そうするとまるでシアン様の唇にはしたない場所を押しつけているような姿になってしまいます。
 泣き出したくなるほど恥ずかしいのに、体が切なくて、どうしてもびくびくと腰が跳ねてしまうのです。
 初めての感覚に、私はただ堪えるしかありませんでした。

「ラティス、まだほんの少し触れただけなのに、物欲しそうに腰が揺れている。俺の姫は、清純でありながら淫乱の素質があるのかもしれないな」

 淫乱とは、最もむべき罪の一つです。
 シアン様の言葉が、私の心臓にとげのように突き刺さりました。
 私にはシアン様のお心がわかりません。
 私をおとしめたいのでしょうか。私を、憎んでいるのでしょうか。

「ふ、ぁ、あ……」

 シアン様の舌で、その場所をこりこりと下着の上からまれ、舌先で押し潰されると、甘えた声が勝手に唇から溢れてしまいます。
 堪えようとしているのに。
 その場所には、触れられると全身にしびれが走る、よくないなにかがあるようでした。

「やぁ、あっ、あっ、だめ、だめです……」

 言いようのない甘い感覚と、いけないことをしているおそろしさで、私はうわごとのように拒絶の言葉を口にしました。
 私の言葉がシアン様に届いて、ご慈悲を頂ければどんなによかったでしょう。
 こんな罪深い姿を見られるのは、とても苦しくて。
 でも──

「ラティス、俺は幻獣の民。その本性は獣だと──王国の者たちは言う。だが、快楽はきんだと教えられてきた君も、すぐに頬を染め、愛らしくあえぎ、淫らな露をこぼすのだな。君も俺と同じ。快楽の前には、獣の本性が現れる」

 シアン様が私のその場所を包み込むようにして口に含み、じゅ、と、強く吸いました。
 たったそれだけのことなのに、全身がひりつくようなしびれに襲われます。
 それは甘く、淫らで、強く奥歯を噛み締めていたはずなのにそくはくとした呼吸とともに、声にならない声が喉の奥から溢れ出ました。

「あっ、あっ、ゃあああっ、あああっ」

 見開いた瞳から涙が溢れて、髪やシーツを濡らしました。
 助けを求めるように、拘束されている両手でシーツを掴んでひっぱりましたが、逃げられないように腰を掴まれて、シアン様の口の中で私のその場所は、ちゅる、じゅ、と、小さな音を立てながら下着ごと強く吸われています。
 全身がひりつくようなしびれは収まらずにずっと続いて、私ははあはあと荒い呼吸を繰り返し、悲鳴のようなか細い声を上げながら両足をばたつかせました。

「シアン、さま……もう、やめてくださ……っ、ぁああっ、ゃ、吸わなっ、で、お願いです……っ、おかしくなって、しまいます……っ」
「あぁ、ラティス。このまま君のこの可愛い場所を、食べてしまいたい」
「っ、は……ひっ、あ、ああっ、ゃ、あぁあぅ」

 低くかすれた声でシアン様が言って、残酷なぐらいに強くもう一度その場所をじゅるじゅると吸いました。
 美しいシアン様がそのようなはしたない音を立てていることが信じられなくて、これはなにかの間違い、夢かなにかなのではないかと思いました。
 けれど体に与えられる感覚だけは本物で、私は本当に体の一部がなくなってしまうのではないかというぐらいの、四肢がばらばらになってしまって、自分の居場所がどこにあるのかわからないぐらいの激しい衝撃に、体をじたじたと動かしました。
 私を拘束するシアン様の大きな手のひらの感覚と、シアン様の熱く湿った口腔内と舌の感覚だけが、私の全てでした。

「あっ、ああっ、シア……さ……っ、ああああっ……! あっ、だめ、だめです……いやぁ……っ!」

 頭の中が真っ白に染まります。見開いた瞳に映っているはずの景色を、私は理解できなくなっているようでした。
 体の奥からとろりとした液体がたくさん溢れて、シーツや太腿をぐっしょりと濡らしていくのがわかりました。
 私はなにが起こったのかわからず、じんじんしびれる体を持て余しながら、はあはあとただ呼吸を繰り返していました。
 体がしっとりと汗ばみ、足にも手にも力が入りません。
 まるでそうをしてしまったように、ショーツやスカートが濡れてしまっています。
 シアン様は私の髪をで、涙に濡れた頬をでて、呆然としている私の顔に熱心に視線を注いでいました。
 シアン様の瞳に映る私は、どんな顔をしているでしょうか。どんな姿を、しているでしょうか。
 高いところから突き落とされたような衝撃が収まると、少しずつ意識が明瞭になってきました。
 夢の中にいるように、柔らかくぼんやりしていた世界から、現実に引き戻されるように。

「……ラティス、上手に気を遣ることができたな。良い子だ」
「……シアン様……」

 やめてと言ってもやめてくださらなくて、残酷なことをなさったシアン様なのに、その口調はどこまでも優しく、まるで幼子をあやすようでした。
 私はかすれた声でシアン様を呼びました。
 先ほどまで、自分のものではないような甘く高い声を上げていたなんて信じられないのに、甲高い悲鳴を上げたせいでしょうか、私の喉は少し、ひりついていました。
 ひりつきが、あれは夢ではなかったのだと私に現実を突きつけます。

「わ、私……こんな、酷い……あまりにも、残酷です、シアン様……」

 はらはらと涙がこぼれました。
 シアン様は私の目尻に口づけて、大切そうに涙をすすりました。
 残酷なことをされたはずなのに、たったそれだけのことで私の心は歓喜に震えました。
 それはまるで、私がシアン様に愛されているようで──
 勘違い、してはいけないのに。
 シアン様には愛する女性がいます。私をこうして連れ戻したのは、私が王家の娘だからなのでしょう。幻獣の民であるシアン様が王家の娘である私を捨てることは、許されないのです。
 それが王家に知られれば、シアン様は今までのお立場や功績がどうであれ、きゅうだんされるでしょう。
 だからシアン様は私が逃げたことをお怒りになって、私を連れ戻したのです。
 そして、このような罪深いことをなさったのです。
 私が二度と、明るい陽の光の下を、歩くことができないように。

「ラティス、あぁ、泣かないでくれ、ラティス。俺の姫、俺の宝物。君の瞳を、悲しみにくもらせたいわけではなかった」
「……そんな、嘘を……」
「嘘などつかない。愛している、ラティス。……ずっと、こうして触れたかった。俺のもとから逃げようなどと思えないぐらいに、俺に君を深く愛させてくれ」
「シアン様……」

 愛しているという言葉に、心が震えました。
 本当なのでしょうか。
 わずかな混乱を感じました。
 けれど、残酷な目に遭って、誰にも見せたことのない恥ずかしく淫らで、罪深い姿を見せてしまった後では、シアン様の言葉はまるでのように私の心に染み込んでいきました。
 ──嬉しい。
 そう、思ってしまうのです。

「シアン様……でも、シアン様には……」
「ラティス、俺をおとしめようと画策する愚か者は多い。幻獣の民である俺が騎士団に所属していることが気に入らないのだ。ここに来た女も、くだらない策の一つなのだろう」

 忌々いまいましそうにシアン様は言って、それからとろけるような甘い口づけを、私の額や、頬に落としました。

「俺がかつだった。屋敷の守護は万全にしていたのだが、悪意を持たない客人にまでは効果をさない。俺の愛人をかたるなど忌々いまいましいことだが……」
「私……シアン様に、愛されていなかったのだと、思って……酷いことをなさるのも、私がお嫌いだからなのかと」
「そんなわけがない。俺のもとから去ろうとする君を見て、頭に血が昇ったのは確かだが」

 シアン様は私の乱れた髪をでて、そっと唇に触れるだけのキスをしてくださいました。
 どこまでも優しく、愛に満ちた仕草に、私は──許されたのだと思いました。

「ラティス。可愛い、俺のラティス」
「ん……」
「愛している。俺なしでは生きていけなくなるほどに、朝も夜も、俺を欲しがるぐらいに、快楽で染めてやろう」

 密やかにささやかれた言葉を理解するより前に、噛みつくような口づけをされて、私は切なく眉を寄せました。
 触れるだけのキスはとても優しくて、慈愛に満ちたものでした。
 けれど二度目のそれは、私の唇が食べられてしまうように深く、私の体の上にシアン様の大きな体が乗る重みをわずかに感じました。
 私の唇の狭間を、ぬるく湿ったなにかがつつきます。それは、先ほどまで私の罪深い場所をめていたシアン様の舌だとすぐにわかりました。

「ふ……っ、う、ぅ」

 シアン様は私を愛してくださっていて、私は――許していただいたはずなのに。
 どうしてこんなことをなさるのかわからず、私は再び混乱しました。
 シアン様は私の口の中に、シアン様の舌を押し込もうとしているようなのです。
 キスとは、唇を重ねること。それは愛し合う者同士の、愛を確認するための挨拶のようなもの。
 王家の姫として、誰に嫁いでも恥ずかしくないようにとしとね教育を受けていた私は、そう教わってきました。
 シアン様のおっしゃっていたように、交合とは子を成すための神聖な儀式で、女性は動かず声を出さず、ただ粛々しゅくしゅくと男性の精を受け入れます。
 男性は、女性の中に性器を入れて、子種を注ぎます。
 快楽とは罪深いものなので、それは静かな儀式のように、行われるものでした。
 交合で快楽を感じることは罪であると――私は教わってきたのに。
 交合の最中に許されるのは、触れ合うだけのキスと、子種を注ぐ目的の、挿入だけ。それ以外は大罪であり、快楽のために交合を行ったことが日のもとにさらされれば、投獄されてしまう場合もあるのです。

「……ん、んぅ」

 いやいやと顔を背けても、シアン様は強引に唇を合わせ続けました。
 何度も唇の間を舌ででられると、先ほどいけない場所をねぶられていた時に感じたものと同じような、ぞわぞわした感覚が私を襲います。
 息苦しさとともに、体をよじりたくなるような切なさが体を支配しはじめて、私はもうどうしようもなくて、薄く唇を開きました。

「ふぁ……」

 ぬるりと私の口腔に入り込んできた舌が、私の口蓋をざらりとねぶります。

(あつい……なに、これ……っ)

 どうしてなのかわからないけれど、その場所をねぶられるとなにかのスイッチを押されたように、体から力がくたりと抜けました。
 さざめきが強くなり、お腹の下のほうが、切なくうずきはじめます。
 口の中に、舌を入れることなど、私は知りませんでした。
 ぬるぬると口蓋をねぶられて、大きくて長い舌が、なにかを探すように私の口の中をいじりはじめます。
 言いようのない感覚と、まるで紅茶に溶けだした蜂蜜のように甘いシアン様の味に、頭がくらくらしてきます。
 私――なにも、考えられなくなってしまいます。

「は、ぅう、ん、ん……っ」

 くちゅりと、奥にひっこめていた舌を絡め取られました。
 とがった舌先でゆっくりと舌の裏側や、奥をねぶられて、舌を擦り合わせられます。
 これも、いけないことのはずなのに、たまらなく気持ちがいいのです。
 本当はいけないのに。気持ちよくて、切なくて。
 先ほどまでねぶられていた私のはしたない場所がきゅんとうずき、触れられてもいないのに、じくじくとした切なさが広がっていきました。

「ん、ん……」
「可愛い、ラティス、なんて甘いんだろう。ラティス、舌を出せ。もっと君を、食べさせてくれ」
「っ、は、……いけません、シアンさま……こんなの、駄目」
「いけないことなどなにもない。俺は君を愛している」
「でも……」
「ラティス、俺は君の夫だ。俺の言うことが聞けないのか?」

 あぁ――駄目です。
 息継ぎの狭間に、愛しげに名前を呼ばれて、拒否など許されないように、低い声で命じられると――私は。
 まるで、体がとろけていくようです。
 嫁いでから三年、シアン様に会えず、声も聞けず、私は寂しかったのです。
 そして――妻という立場を諦めたつもりでいても、心にぽっかりと穴が空いたように、悲しくて、苦しかったのです。
 愛しているという言葉と、触れ合う体温と、それからまるで心の底から欲しいと想われているような、このふしだらな行為が、いけないとわかっているのにたまらなく、幸せだと感じてしまうのです。

「シアン様……っ、あ、あっ、ん……んぅ……っ」

 おずおずと舌を差し出すと、シアン様は長い舌で私のそれを絡め取り、ちゅる、と強く吸いました。
 それと同時に、私の切ない場所に、硬くて熱いなにかが擦りつけられました。
 舌を擦り合わせながら、切なく膨れるはしたない場所に、硬いものがこりこりと押しつけられて、擦られます。
 一度高められて引いていった熱が、体中を暴れ回るようにして、暴虐に高められていきました。


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