フラウリーナ・ローゼンハイムは運命の追放魔導師に嫁ぎたい

束原ミヤコ

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嘘つきには報復を 1

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 フェルラドは肘掛けに肘を置くと、足を組んで頬杖をつく。

「フラウリーナ。神殿で配られる聖水に、病を癒す力や魔を払う力があると民が信じるのはよくある話だ。声を大にして糾弾するものでもあるまい。言うだろう、信じる者は救われる――とな」

「ええ。存じ上げておりますわ。私の両親も、私の病が癒えると信じ公爵領まで温泉をひきましたもの」

「お前はその両親を責めるのか?」

「ありがたいと思いこそすれ、責める気持ちなど微塵もありません。もちろん、聖水を信じるのは信じる者の自由。ですが、私が見過ごせないことが一つございます」

「それは?」

「それは――ルヴィアが、怒っているということですわ」

 シャルノワールたちは明らかに、青ざめて焦っている。
 今頃は、レイノルドを再び追放する時間だったのだろう。
 しかし実際は、その罪を皆の前で詳らかにされているのは彼らだ。

「黙れ、フラウリーナ! 神殿に罪をきせ、私に罪をきせるつもりか!? レイノルドと結託して、国を簒奪しようとしているのだろう! 私たちに、復讐をしようと……!」

「お前たちに、復讐? 俺は罪を犯したのだろう? 罪を犯し、許された。――何故、復讐をする必要がある? 復讐をする必要があるとしたら、それは俺が無実であり、お前たちが嘘つきである場合。それを認めるのか」

「詭弁だ、犯罪者め。女連れだからといい気になるな」

「そうだ! 恩赦を与えられたばかりの身で、陛下の御前で厚かましくも口を開くなど!」

 ディルーグとウィルゼスの声からも焦りが感じられる。
 フラウリーナは瓶をレイノルドに渡して、優雅な仕草で両手を広げた。

「陛下が見たいとおっしゃっていたルヴィアを、皆様にお見せしましょう! 私がルヴィアと契約したのは、国のためなどではありません。全てはレノ様と結婚するため! 見世物にするなど不本意極まりないことです。ですが、ルヴィアが名前を騙られて怒りに満ちているのなら――私はその怒りに、こたえなくてはなりません!」

 ミシミシと、大広間が震える。
 テーブルから皿が落ちる。燭台の蝋燭の炎が揺れる。グラスが割れて、耳障りな不協和音を奏でた。

 ルヴィアが現れるときにこのような異常は起きない。
 小さな精霊さんたちが大広間の至る所でぽんぽんと跳ねて、大広間を震わせ不穏な風を起こしているのだ。

 風は大広間の天井を空高く巻き上げる。
 外れた天井からは夕暮れの空がぽっかりとのぞく。その空を隠すようにして、純白の美しい竜が現れる。
 神々しい光が大広間を満たす。
 貴族たちは床に座り込み、シャルノワールたちは肩を寄せ合う。

「ルヴィア! あなたに問います! 病を癒す聖水などが、この国にありますか?」

『そのようなものはない。妾の名で嘘を騙る者たちに、今ここで神罰をくだしてやろう』

 フラウリーナの問いかけに、ルヴィアはよく響く声でこたえた。
 
 怒りに満ちた荘厳な声音だ。
 実際ルヴィアは怒っている訳ではない。人の営みに関わりたいと微塵も思っていないのだ。
 関わろうが関わるまいが人は生きて死ぬ。
 ルヴィアが関わると、その圧倒的な力によって人の運命が歪む。

 だから関わらないことを選んだ。見守ることを選んだ。
 けれどフラウリーナの説得によって、姿を見せてくれている。
 
 それはルヴィアが、フラウリーナのことを信じてくれているからだ。

「ま、待て、お待ちください、精霊竜様……! 人には、信じるものが必要です! 聖水を、皆が信じているのです!」

『黙れ、小物が。小賢しいことする。妾の名を騙っていなければ、見過ごしたものを』

 何本もの光の柱が、大広間に空から落ちる。
 それは夜空から落ちる星のように、大広間に風穴をあけた。
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