フラウリーナ・ローゼンハイムは運命の追放魔導師に嫁ぎたい

束原ミヤコ

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フラウリーナ、買い出しに行く 1

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 眩しい朝の光と共に、フラウリーナはぱちっと目覚めた。

 いい奥さんとは早起きなのだ。そう、フラウリーナは思っている。
 特に誰かに教わったわけではないけれど、フラウリーナの母親も早起きである。父親の話では、母親の寝起きを見たことがないらしい。目覚めると美しく整えられた姿で「おはようございます旦那様」と挨拶をするのがフラウリーナの母である。

 フラウリーナの両親はとても仲がいい。
 それなので、理想とするべきはやはり自分の母ということになる。

 レイノルドはまだ眠っている。クマのある瞳は閉じられていて、規則正しく胸が上下している。
 すうすうと穏やかな寝息が聞こえるのを確認し、レイノルドにピッタリ張り付いて眠っていたフラウリーナは幸せを噛み締めながら、そろそろとベッドから抜け出した。

 朝食の支度をしなくてはいけない。そのためには買い出しをしたい。

 精霊さんたちの力であらゆる食材を手に入れることができるフラウリーナだが、精霊さんたちによる食材召喚はフラウリーナにとっては緊急の奥の手のようなものだ。

 確かに魔法は便利ではあるが、自ら買い物に行き食材を吟味し、手に入った食材で料理を作るのもまた愛情ではないかと思うのだ。

 人間が苦手そうなレイノルドに変わってご近所付き合いをするのも、妻の務めである。

 フラウリーナは屋敷から一番近い小さな町に向かうことにした。

 町の名前はウィスダイル。山から吹きおろす冬風という意味である。
 川が流れていて粉挽小屋の水車が回っている。主な産業は小麦と葡萄。その他の野菜。
 それから、牛や羊を放牧している。

 街の周囲には魔物よけの柵が張り巡らされているが、魔物にとっては木でできた柵など何の意味もない。
 フラウリーナは町に入る前に軽く柵に触れて、加護の有無を確認する。

(やっぱり、こんな辺鄙な村までは神官も魔除けの加護を施しに来ないのね)

 フラウリーナは魔力を持たないが、精霊さんたちの力で加護の有無を調べることが可能だ。
 精霊さんたちが団子のようにさくに並んで、プルプルと体を震わせながら「あー」「うあ」「うぱ」と言っている。
 ふるふる首を振るので、加護がないと言っているのだろう。はいか、いいえぐらいは意思の疎通が可能だ。

 加護とは、それぞれの街や村を巡って神官の方々が張り巡らせてくれる、魔物よけの魔法のこと。
 魔除けの加護と呼ばれているそれは、大抵の場合は街を囲む柵や、外壁の施されている。
 後で町長か誰かに掛け合って、加護を貼り直しましょうと考えながら、フラウリーナは町の中へと向かった。

 公爵家からレイノルドの屋敷まで、フラウリーナは乗合馬車を乗り継いでやってきた。
 公爵家の馬車を使用しなかったのは、フラウリーナなりのケジメのようなものである。
 優しい両親の元から飛び出してレイノルドに嫁ぐのだ。それはフラウリーナのわがままでしかない。
 
 王国にはレイノルドの悪評が響き渡っていた。フラウリーナは信じていないが、大多数の人々はレイノルドのことを国を乗っ取ろうとした犯罪者の元宰相だと考えている。

 そんな男の元に嫁ぐといえば、当然反対される打ろうと思っていた。
 フラウリーナは公爵家の一人娘である。

 けれど両親は、フラウリーナの好きにさせてくれている。
 何かを咎められたこともなければ、何かを強いられたこともない。
 フラウリーナは、自分のわがままを押し通すことがどれほど両親に迷惑をかけるのかを理解している。

 だからこそ、公爵家の力には頼らずに一人でレイノルドの元を訪れたのだ。

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