フラウリーナ・ローゼンハイムは運命の追放魔導師に嫁ぎたい

束原ミヤコ

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 結婚の約束 2

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 けれど、倒れ込みそうになるフラウリーナを抱き抱える人物がいる。
 とてもいい香りがした。爽やかな森の香りだ。

「この子は、病気ですね。突然眠ってしまう病気。とても珍しい症例です。耳にしたことはありましたが、実際見たのははじめてです」

「これは魔力なしの呪いなのだろう、レイノルド卿」

 父親と若い男性が話しているようだ。眠りの底に落ちる前に、フラウリーナはその声を聞いていた。

「呪いなど、馬鹿馬鹿しい。そんなものは存在しません。魔法による呪いなら魔法によって解けるが、これは生まれつきの病気だ。もしよければ、私にお嬢さんを見せてくださいませんか?」

 フラウリーナはレイノルドの研究室に預けられた。
 
 何日もかけて、レイノルドはフラウリーナの体を調べた。
 魔力がないとはどういう状態なのか、どうして眠ってしまうのか。

 そして、その天才と呼ばれる聡明な頭で調べ尽くして、そして原因を見つけたのだ。

「眠り病の原因は、魔力がないことにあります。この国には魔力が満ちています。精霊竜や精霊たちがこの国を守護しており、土にも水にも木の葉にも、全てが魔力を帯びている」

「それは、知っているが……」

 レイノルドはフラウリーナの両親を呼んで説明をした。
 
「もともと魔力を持たないで生まれたフラウリーナ嬢のような子供は、時折魔力酔いを起こすのです。まだ幼い体が外部からの魔力の刺激に耐えられず、体を癒すために眠りにつくことを選ぶのです。いわば、防衛本能のようなものですね」

「……では、どうしたら」

「成人になるまで魔力の負荷に耐えられず、多くの魔力なしのものが命を落としてきたのだと、城の記録室の資料に残っていました。成人すれば体が慣れて問題なく暮らせるようになるのでしょう」

「その前にフラウリーナは死んでしまう可能性があるのだろう?」

「そのようです。ですので、治療薬を作りました。これは、体に溜まった魔力を除去する薬。いわば、解毒剤のようなものです。一日一度飲めば、突然眠りにつくことはなくなり、魔力の体への負担もなくなります。定期的に公爵家に届けさせますので、フラウリーナが十八になるまで飲ませてください」

 フラウリーナは寝台の上でその話を聞いていた。
 レイノルドはフラウリーナを嫌わなかった。
 両親や使用人以外誰も触れようとしなかったフラウリーナに触れて、助けてくれた。
 フラウリーナが普通に生きられるように、薬を作ってくれるのだという。

 フラウリーナにとってレイノルドは、フラウリーナを救ってくれた王子様に見えた。

「……あの、魔導師様」

「どうしましたか、フラウリーナ嬢。もう家に帰れますよ、見知らぬ場所で一人きりで、怖かったですね」

「怖くはなかったのです。私は寝ていましたし、目覚めると、魔導師様がいてくれましたから」

「そうですか。君はとても強い子です」

「ありがとうございます。魔導師様は、私の恩人です。もしよければ、私が十八歳になったら結婚してくれますか? 十八歳まで、生きていられたら」

 フラウリーナは真剣だった。
 レイノルドはおや、というように、秀麗な顔に僅かに驚いたような表情を浮かべた。
 そして、優しく微笑んだのだ。

「ええ。もちろんいいですよ。君が十八になったら結婚しましょう」

 そうして、レイノルドはフラウリーナの運命の人になったのである。

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