属国の姫は嫁いだ先の帝国で、若き皇帝に虐められたい ~皇子様の献身と孤独な姫君~

束原ミヤコ

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番外編

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 ミーニャとルルはお茶を準備すると言って、一度部屋から出て行った。
 オズさんはアルケイド様の横に座って、皆の様子を眺めている。

「ティア、私のために、ありがとう。……嬉しいよ」

 ジークハルト様はサンドイッチの乗ったお皿をじっと見つめながら、お礼を言ってくださった。

「食べるのは勿体ないな。そうだ、机の上に飾っておこう。腐敗予防の魔法をかければ、永久に保存できるのではないかと思う」

 それから、ごく真面目にそう言った。
 どうしよう、冗談なのか本気なのか良く分からないわ。
 けれど、かなり本気っぽい。

「あ、あの、召し上がってくださいまし。……頑張って作ったので」

「飾ってはいけないだろうか」

「食べ物なので……」

 本気っぽいというか、本気だったわ。
 喜んでくださるのは嬉しいけれど、できれば召し上がってほしい。

「お二人とも、とても仲良しで良いですね。独身の身には少々堪えますが。それにしても、ティア様の手料理はとても良くできています。……僕の分は、やたらと赤いんですが、これは一体……」

「ルルがね、ジェイクに精力をつけて欲しいという願いを込めて、赤いものを中心に使ったようだよ」

 目の前に置かれたそれはもう赤い具材が山のように乗っているサンドイッチを見ながら、ジェイクさんは首を傾げた。

「それは、有難いことですね」

 良かった。ジェイクさん、喜んでくれているわ。
 ルルが帰ってきたら、もう一度伝えてくれると良いのだけれど。

「……失礼ながら、……私も、このような奇妙な食べ物ははじめてみたのですが」

 テオドール様が遠慮がちに言う。
 テオドール様の前には、それはもう黒いイカ墨のパスタが乗せられたサンドイッチが置かれている。

「それはね、テオドール。ミーニャの手作りなんだ。ミーニャの家に伝わっている、伝統料理で、イカ墨のパスタが挟んであるんだよ。見た目は奇妙だけれど、美味しいと思うよ」

 オズさんがにこやかに言う。
 テオドール様は「そうですか、それでは、感謝しなくてはいけませんね」と生真面目に言った。
 ジークハルト様以上に真面目な方という印象の強い方だ。
 テオドール様は冗談を言って笑ったりするのかしら。

「……僕のものは、随分とまともですね。料理人の手製ですか」

 アルケイド様が眉間に皺を寄せながら言う。
 私とお話をしてくださるときは笑顔を浮かべているアルケイド様だけれど、こちらの方が本来の姿なのだろう。
 アルケイド様はいつも大抵不機嫌で、笑顔の方が違和感があるとルルが教えてくれた。

「うん。アルケイドは変わったものを食べさせたら怒りそうだからねぇ。気を使っているんだよ、これでも」

 オズさんがまた嘘をついている。
 なんの違和感もなく嘘をつけることに感心していると、ルルたちが戻ってきた。
 ルルとミーニャが協力して紅茶の準備をしてくれて、とても和やかな昼休憩を過ごすことができた。
 ジークハルト様は何度も「美味しい」と言って褒めてくださった。
 ルルたちの作ったサンドイッチも美味しかったようで、皆綺麗に食べてくれた。
 ジェイクさんにお礼を言われて、ルルは恥ずかしそうにしている。
 テオドールさんに「伝統料理だそうですね」と言われて、ミーニャは不思議そうにしながらも「まぁ、そんなところですね」と頷いた。
 そして全て食べ終わった後に、オズさんがアルケイド様に「それ、実は俺の手料理」と、嬉しそうに伝えた。
 アルケイド様は眉間の皺を更に深くしながら「食事を終えた後にそれを教えるとは、どんな魂胆があるのですか、まさか毒入りですか」などと言って怒りはじめる。
 アルケイド様の血管が切れそうになっていることを察知した私たちは、あまり長居するのは悪いと部屋からさがることにした。

 それにしても――ジークハルト様に喜んでいただくと、私も幸せな気持ちになるのだわ。
 私はふわふわした気持ちのまま後宮に戻って、――もっと喜ばせてさしあげたいと、考えていた。
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