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番外編
お役に立ちたい! 4
しおりを挟む私達はサンドイッチが乗った皿を食事を運ぶための木製の大きな御盆の上に置いて、埃が入らないように銀の蓋を被せた。
四人分がぎりぎり乗った御盆を、オズさんが持ってくれた。
「オズ、ティア様が心を込めて作ったはじめての手料理なのよ、絶対に、絶対に落としたりとか、御盆を傾けて崩したりとかしないでよね」
「ルルは心配性だなぁ。これでも騎士団長なんだよ、俺は。武人というのは、体幹がしっかりしているんだよ」
何度も注意するルルに、オズさんは笑いながら答えていた。
「そういえば、ミーニャには婚約者がいるのですね。どなたですの?」
オズさんとルルが並んで歩いている後ろをついていきながら、私はミーニャに尋ねる。
「私の婚約者なんて知っても、面白くないと思いますよ、ティア様」
「婚約者というのは面白がるようなものではありませんわ。ミーニャの愛する方はどんな方なのか知りたいのです」
「ティア様は、結構恋愛の話が好きですよね。……少し、偏っていますが」
「私、最近きちんと理解しましたの。私の趣味の艶本の中に出てくる男性たちと、実際の男性は違うということ。実際の男性……、ジーク様の方がずっと素敵だということ。だから、偏らない方向で、恋愛の話に勤しむことができると思いますの」
私は指を折りながら、最近気づいたことについてミーニャに説明をした。
ミーニャはとても微笑ましそうな表情で、にこにこ笑いながら私の話を聞いてくれている。
「それは良いことです、ティア様。陛下は艶本の中に出てくる男性たちなど足元に及ばないぐらいに素敵でしょう。なんせ陛下ですから」
「ミーニャもジーク様が好きですの?」
「城勤めをしている者たちは、皆陛下を尊敬しておりますよ。ティア様、ご心配なさらず。陛下はティア様を愛していることは、皆承知しております。尊敬とは、恋愛感情とは全く違う感情です」
「そうなのですね、……難しいですわ。でも、私はルルも、ミーニャも好きです。そういうことですのね?」
「はい、ティア様。私も、ティア様が好きです。ひとつひとつ、覚えていってください。ティア様には、沢山の時間があるのですから」
ミーニャは、ルルよりも年下なのだけれど、どちらかというと大人びていて、落ち着いていて、まるでお姉さんみたいだ。
私にはお姉様がいない。年上の親しい人といえばお兄様だけなので、お姉様というよりは、お兄様を思い出してしまう。
オズさんと話していた時もお兄様を思い出していた気がする。
もしかしたら、少し寂しいのかもしれない。
ジークハルト様の傍にいるのに、寂しいなんて、間違っているような気がした。
「ティア様、私の婚約者は医者をしています。王都の診療所で働いているのですよ。時折、城にも来ます」
「まぁ……! お医者様ですのね。素敵ですわ」
「医者が素敵かどうかは分かりませんが、良い仕事だとは思います」
「ティア様、ミーニャの婚約者の方は、とても立派なお医者様なのですよ。貧しい人たちのことを、無料で見てくださるような方で、街の人々からはとても信頼されています」
ルルがこちらを振り向いて言った。
「ミーニャは、まだ結婚しませんの?」
「まだ、国も、街も、落ち着いていませんからね。それに、私はティア様が御子を御産みになられたときに、乳母になる予定ですので。丁度良い頃合いを見計らっているんですよ」
「それは……、ありがとうございます」
ジークハルト様は、子を成せないかもしれない。
そう言っていたけれど、私はあまり心配していなかった。
私自身はどちらでも良いと思っていた。
けれど――大丈夫だというような、根拠はないけれど、予感がしている。
「ミーニャ、それはずるいわ。私も、私も……!」
「ルルは、それじゃあまずは相手を見つけないと。手作りの差し入れでジェイクの心を鷲掴みしておいで」
「だから、違うってば」
オズさんに言われて、ルルは顔を赤くした。
なんだかだんだん、満更ではなくなっているようにも見えるのだけれど、どうなのかしら。
私たちはまず、ジークハルト様がお仕事をしていらっしゃる政務室に向かった。
とんとん、とルルが扉を叩くと「入って良い」という声が聞こえてくる。
いつも聞いている声なのに、お仕事中にお邪魔することが滅多になかったせいか、妙に緊張してしまう。
いつもよりも平静な、感情のあまり籠らない声音が素敵だ。
私と話すときは、もっと甘くて優しい。
それはそれで素敵。どちらも、素敵。
「ルル・オリーブです。入ります」
ルルが扉を開くと、部屋の奥の政務机に座っているジークハルト様が顔をあげた。
室内には、アルケイド様と、ジェイクさん、テオドール様がいらっしゃった。
話し合いをしていた最中らしく、皆さん政務室の長机に座っていた。
「ティア……、どうした、何かあったのか?」
がたりと、椅子から立ち上がり、ジークハルト様が私の元へやってくる。
私を見つめるルビーのような赤い瞳が、心配そうに揺れている。
無事を確認するように頬や髪に触れられて、私は嬉くて、にこにこした。
「ジーク様、お会いしたかったです!」
「私もだ、ティア」
「あの、あのですね、今日は、その……、お仕事、お疲れかなと思いまして……、皆で昼食を作ってきたのですが……」
差し出がましいことをしているのではないかしら。
お仕事を、邪魔してしまったのではないかしら。
そう思うと、急に不安になって、声が小さくなった。
誰かのために何かをした経験が――そういえば、私にはあまりない。
喜んでいただきたいと思うけれど、それと同じぐらい不安が湧き上がる。
「皆で? ティアが、料理を?」
「は、はい……! 私、上手くできたかどうかは分かりませんが、オズさんが褒めてくださったので、多分、大丈夫だと思いますわ……!」
「ありがとう、ティア。……それでは、休憩にしようか」
ジークハルト様が私の頬を撫でて、微笑んでくださる。
オズさんの背後に隠れるようにしながら、ルルが両手を握りしめて私たちの様子を見ている。
ミーニャは嬉しそうに微笑み、オズさんは御盆を長机の真ん中に置いた。
「丁度良かった。陛下の分はティア様が作ったんだけど、皆の分もあるんだよ?」
そう言いながら、銀の蓋をひらく。
そして、それぞれの前にサンドイッチの乗った皿を並べ始める。
「ちょっと、オズ。陛下とティア様を二人きりにするべきだわ……! 何で並べてるのよ」
怒っているルルに私は、「皆一緒の方が嬉しいです」と伝えた。
ジークハルト様の顔をうかがうように見上げると「そうだな、二人きりの食事はいつでもできる。今日は皆で食事をとろうか」と優しく言ってくださった。
会議用の長机には皆で座るには十分な椅子があったので、私はジークハルト様と並んで座った。
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