属国の姫は嫁いだ先の帝国で、若き皇帝に虐められたい ~皇子様の献身と孤独な姫君~

束原ミヤコ

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番外編

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 ジークハルト様は、お仕事でいつも忙しそうだ。
 私にも何かできることはないかしらと考えに考え抜いて、侍女の皆さんと相談をした結果、昼休憩の時間に手作りの軽食を持っていく、ということになった。

「それでしたら、簡単に食べる事ができるサンドイッチなどが良いかもしれませんね。片手で食べることができるので、お忙しい文官の皆様にはとても喜ばれるのですよ。あのひとたちは食事をとりながらでも仕事をしようとしますからね」

 最近、ルルのお休みの日に、ルルのかわりを務めてくれるようになったミーニャが言う。
 ミーニャは、ミーニャ・ロレンス。ロレンス伯爵家の三女で、ルルよりも年若い。
 名前の響きが猫みたいで可愛いと、私は密かに思っている。
 癖のない黒髪も、三白眼の吊り上がり気味な瞳も、首が長くすらりとした細身の体つきも、なんとなく猫に似ている。
 ルルは二十一歳、ミーニャは十九歳。二人とも私よりも少しだけお姉さんだ。

「料理番に頼んだらどうですか?」

 ミーニャと共に相談に乗ってくれていたルルが言う。
 私たちは今、オズさんによる兵の訓練を見学しながら、話をしている。
 クライスのこともあり、しばらく私は部屋から外に出ずに過ごしていた。
 後宮にばかり籠るのは良くないと、ルルがジークハルト様にお願いをしてくれたようだ。
 城の中なら自由にして良いと許可を得てくれた。
 そんなわけで、ルルの義理のお兄様になる予定のオズさんからの誘いもあり、訓練の見学に来たのである。

「ルルはわかっていないなぁ。手作りの料理を食べて欲しいのが乙女心というものだよ」

 涼やかな声が会話に加わる。
 いつの間にか、オズさんが私たちのすぐそばまで来ていた。
 ジークハルト様と同じぐらい背の高い方だ。
 顔は女性のように綺麗なのに、体つきはとてもしっかりしている。
 先程まで兵士の方々の剣の相手をしていたのに、息を乱している様子は全くなかった。

「女同士の会話に入ってこないでよ、オズ」

「ルル、ダメじゃない? それ。ティア様の前で、俺を呼び捨てするとか、弁えてないよね、礼儀を」

「いつもどおりで良いですわ。私に気を使って頂かなくても……、むしろ、いつもどおりの方が嬉しいです」

 オズさんに嗜められて青褪めるルルに、私は慌てて言った。
 むしろ私の事も、もっと粗雑にあつかってくれても良いのにと思う。

「そういうわけには……、ミーニャ、今のは聞かなかったことにして」

「ティア様が良いというのですから、良いかと思います。主人の希望を叶えてこその従者です」

「ミーニャは若いから柔軟ね……」

「ルルさんとそう歳は変わりませんよ。ところで、オズ様の意見に私も賛成です。ルルさんは、ティア様の本をもう少し読み込んで、乙女心について学んだ方が良いですね」

「だよね、ミーニャ。ルルは昔から花より剣、恋愛より暴力という有様でね。シェーラも、ルルは結婚しないのかと心配しているよ」

 ルルが、ミーニャとオズさんから総攻撃を受けている。
 
「ルルにも、好きな男性の一人や二人いますわ。剣術も素敵だと思います……!」

 私はなんとかルルを総攻撃から守ろうとして、自分の失言に気づいた。
 両手で口を押さえて小さくなる私をまじまじと見た後、オズさんがにこにこ笑った。

「ルルは、ジェイクが好きらしいねぇ」

「違うわよ……! ティア様、その、あっ、言ってしまったわ……! みたいな反応、本当っぽくなるのでやめてくださいよ」

「ごめんなさい、ルル……! 私ったら、口が軽くて……」

「だから違いますって。謝らないでください、ティア様……!」

 わたわたする私とルルをよそに、どこまでも落ち着いているミーニャが口を開く。

「ルルさん、だから最近、伯爵の男性が出てくる話を……」

「わぁい!」

 ルルが奇声をあげた。

「そ、そそ、それより、それより、サンドイッチですよ、ティア様! 早速調理場を占拠しにいきましょう!」

「はい!」

 なんだかよくわからないけれど、私たちはサンドイッチを作ることになった。
 面白そうと言って、オズさんもついてきたけれど、訓練は途中だったのに良いのかしら。
 まぁ良いか。
 私はジークハルト様の役に立てることに、うきうきと気持ちを弾ませていた。


 
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