属国の姫は嫁いだ先の帝国で、若き皇帝に虐められたい ~皇子様の献身と孤独な姫君~

束原ミヤコ

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番外編

ルル・オリーブ、艶本と遭遇する 2

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 ルルも、最初は驚いたものである。
 ジークハルトは黙っていれば秀麗な見た目と表情の乏しさが相まって、気難しく恐ろしい人に見える。
 そんなジークハルトが、年下であるアルケイドに叱られるなんて想像もできなかった。
 今はもう慣れてしまった。

 いつも怒っているように見えるアルケイドよりも、ジークハルトの方が余程温厚である。
 内面はどうなのかは良く分からないが、少なくとも温厚な人格者ではあるのだろう。

「アルケイド様は誰にでも怒りますよ。私も怒られました」

「ルルも叱られるのですか? いったい、どうして」

「それは……、その、……数日前に、ティア様を救い戻ってきて、人払いをした陛下の様子がですね……、まるで理想の皇子様とお姫様のようで素敵だと言って、侍女たちと騒いでいたのです。そうしたら、陛下の様子を聞きに来たアルケイド様に見つかってしまって、軽率だと言って怒られました。オリーブ家の娘の軽率さは、オズに似たのかという嫌味つきで」

「それは、酷い……、昔の私なら、アルケイド様にときめいていましたわ」

「ティア様は、なんというか、……優しくない男性が好きなのですか?」

「今は違いますわ。ジーク様一筋ですのよ」

「それは良かったです……! 陛下は優しい男性の代表みたいな方ですが、良いのですか?」

「それが、そうでもないのです。ルル、ここだけの話ですが、ジーク様は……、かなり、すごくて」

 思い出すことがあるのか、ティアが甘い溜息をついた。
 ルルもつられて、頬が紅潮するのを感じた。

「それは、……なんとなくわかります」

「ええ。そうなのです」

 哀れなほどに散っている所有の証を見れば、どれほど深くティアが愛されているかが分かるというものだ。
 侍女の在り方としては、己の感情は抑えるべきなのだろう。
 けれど、ティアと話しているとその気安さからか、どうにも感情があふれてしまう。

「それで……ルル、ごめんなさい。ルルの話を聞いていたのに、私の話になってしまいましたわ。ルルは、どうして侍女になってくださいましたの? 城には、来たくなかったのではありませんの?」

「ティア様、謝らないでください。ルルは、ティア様の話を聞くのが大好きです。……私は、ええと、……お恥ずかしい話なのですが、ずっと、復讐心を胸に抱いて生きていました。いつか両親を奪った皇帝と刺し違えてやるなどと思って、オズのお父様に弟子入りをして、剣を振るったり、体を鍛えたり」

「それは、凄い。ルルの話は、悲しい話ですけれど、女性ながらに剣を振るうというのは、格好良いと思います」

「それが、たいしてものにはならなかったのですよ。オズには呆れられていました。姉は、体を動かすことは良いことだと言って、見守ってくれていましたね。……結局、陛下が私の積年の恨みを、晴らしてくださった。私は何もしませんでした。オズが城の制圧に向かったことは知っていましたが、足手まといになると素気無く言われてしまって。実際、その通りなのだと思います」

 それで、とルルは続ける。

「……陛下はそのうちリュシーヌの姫を娶るのだと、姉から話を聞きました。リュシーヌの姫は、辛い事情を抱えている方なのだと。オズは陛下から聞いたことを、姉に話していたようです。私は、……姫様とお会いしたかった。そして、姫様のお世話をさせていただきたいと、強く思いました。陛下は、私の恩人のような方です。そして、その陛下の愛する姫様を守ることなら、私にもできるかもしれないと思ったのです」

「ルル……、ありがとうございます」

「でも、結局守ることができませんでしたけれど……」

「そんなことはありませんわ……! 私、ルルが無事で良かったと、心から思っております。顔に傷が残っていたらどうしようと、心配で……、本当に、よかった」

「ありがとうございます、ティア様……!」

 ティアの瞳が潤み、薄青い透き通る空を思わせる瞳から宝石のような涙が零れた。
 ルルももらい泣きしてしまい、ぐずぐすと目尻を拭う。

 尊い方に心配をして頂けて、泣いていただける自分は――とても、恵まれている。
 少々狡い手段を使ってしまったけれど、オズの口利きで城に来てよかったと、心底思った。

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