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属国の姫は皇帝に虐められたい
ドレスは全裸よりも大切
しおりを挟むジークハルト様の手が遠慮がちに私の胸へと触れる。
私はこのまま横になっていれば良いのかしら、どうすれば良いのかしらと思いながら、切なげなその顔を見上げた。
私の着ているドレスは美しいけれど、それはそれは脱がしにくそうだわ。
協力した方が良いのかしら。起き上がらないと、背中側にあるリボンの結び目に手が届かないのよね。
それを解かないと脱ぐことができないし、その下にはコルセットもあるし。
大丈夫なのかしら、引きちぎったり穢して欲しい欲はあるのだけれど、でもドレスは高級だし、勿体ないわよね。
私が読んだ艶本の中で御令嬢の皆様は結構ドレスを引きちぎられていたのだけれど、ドレスって高いのよ。
私のドレスに民の皆様の血税が使われていると思うと、無暗にひきちぎるのはいけないわ。
「……ジークハルト様、待ってくださいまし」
ドレスの上から私の胸に手を這わせ、首筋に口づけていたジークハルト様に、私はちょっと待ったをかけた。
あまりよろしくないのは分かっているのだけれど、どうしても気になる。
ドレスが汚れたり、破れたりすることを考えると、折角の新婚初夜だというのにとても集中できない。
「どうした、ティア。やはり、嫌、か」
すっと、私から手をどけて、ジークハルト様は悲しそうにうつむいた。
私は横になっていた姿勢からがばっと起き上がると、ジークハルト様の手をぎゅっと握って首を振った。
勘違いされてしまうのはいけないわ。私のせいでジークハルト様に悲しい思いをさせたくない。
「違いますわ!」
思いのほか大きな声が出てしまった。気合が入りすぎてしまったわね。
ジークハルト様は驚いた表情で私を見つめる。
「このドレス、とても美しくて、きっと高価ですわよね。生地が破れたり、汚れたら嫌ですの。だから、先に脱がせてくださると嬉しいですわ。背中にリボンがありますのよ。解いてくださいまし」
「……無理はしなくて良い。今宵は何もせずに過ごそう。隣で眠ることは、許してくれるだろうか」
「何もしないだなんてとんでもありませんわ。私はジークハルト様の手籠め……ではなくて、ジークハルト様に身を捧げる覚悟はできていますのよ。ただ、私が横になったままだと、ドレスは脱がせにくいでしょう? なので、立ち上がりますので、どうぞ脱がせてくださいまし」
「しかし」
「ジークハルト様、高価なドレスを汚したらいけませんわ。気になって気になって、仕方ありませんの。もし破れたらとか、汚れたらとか、考えてしまうと……、だから、先に脱ぎたいのです」
「ティア、良いのだろうか。すべて脱がせてしまえば、私はあなたの……その、……一糸纏わぬ姿を見ることになる。それでは恥ずかしいだろうと、このまま最後まで、と思っていた」
「そんな……駄目ですわ……! せっかくのドレスを汚すだなんて……、ドレスに比べたら私の裸体など安いものですわ。ささ、どうぞ、さくさくっと脱がせてくださいまし」
私はあわてて言った。
そして、自分の失言に気づいて青ざめた。
なんてこと。こういう時に淑女というのは恥じらわなければいけないのに、脱がせろ脱がせろと、声を大にして要求してしまったわ。
これではいじめられるどころか、なんてはしたない女だと呆れられて、興味を失われてしまうかもしれない。
それはそれで悪くないかもしれないけれど、私はできればジークハルト様じきじきに虐めていただきたくて、ですね……!
でもなんか違うのは重々承知なのだけど、でもやっぱりドレスが気になる。
「ティア……、婚礼の衣装を大切に思ってくれているんだな。ありがとう」
ジークハルト様は私の必死さに呆れた様子もなく、優しく微笑んでくれた。
どことなく言葉のニュアンスの違いを感じたのだけど、この際ドレスが無事ならそれで良い。
私の手を引いて、ジークハルト様は立ち上がらせてくれる。
日が落ち始めたけれど十分に明るい室内で、私は窓に向かって立った。
背後にジークハルト様が立っている。
「それでは、脱がせるが、良いか?」
「はい。遠慮なさらず、どうぞ!」
あぁ、また場違いな元気な声が出てしまった。
魚市場の店員ぐらい元気だわ。
「あなたは、本当にいじらしい方だ」
ジークハルト様は夢を見るようにうっとりとした甘い声で言った。
どのあたりがそう思うのかしら。脱がせろと元気に言う私から感じるいじらしさとは、いったいなんなのかしら。
背中のリボンを解かれると、ドレスがするりと床に落ちる。
剥き出しの皮膚に僅かばかりひやりとした冷気を感じた。
コルセットの紐も、丁寧な外される。
緩んだコルセットも床に落ちた。
そこそこに大きい胸や、小さな桃色の胸の飾り、くびれた腰や薄く平い腹にあいた臍が外気に晒される。
「美しいな、ティア。あなたの前では女神の美貌さえ霞んでしまうだろう。あなたの肌は絹のように艶やかで、私の手が触れることが罪深く感じる」
私の腹の上に、ジークハルト様の手がそっと置かれる。
背後から抱きしめられて、私はその大きさやあつさに心地良さを感じた。
私の白い肌に重ねられると、ジークハルト様の褐色の肌の色合いがより際立つようだった。
美しいのはジークハルト様だと思う。私はそこそこな容姿ではあるけれど、全体的に白いから儚く見えるだけなのよね。
健康だし、元気だし、結構力持ちで頑丈だわ。
「ジークハルト様の手は、硬くておおきいのですね」
私はジークハルト様の手に自分の手を重ねた。
「剣を持つ手ですわ。お兄様と、同じ……」
背後で息を呑む音が聞こえる。
私は再び抱き上げられると、ベッドにそっと降ろされた。
私の上に覆い被さるジークハルト様の赤い瞳は暗闇を照らす炎のように赤い。瞳の奥に、獣欲が灯っているようだ。
期待に体が火照る。さぁ、酷いことをしてくださいましと、私はジークハルト様の顔を見つめた。
「ティア、愛している。どうか、私にあなたの慈悲をくれないか」
「私……、わたくし、ジークハルト様の、っ、あ、」
ジークハルト様の性奴隷にしてくださいと、言いかけてしまった。
台無しにするところだったわ。
性奴隷とは、なれ、と言われて泣きながら「なります、なりますからぁ……」と許しを懇願するものである。
違うわ、私。先走ってはいけない。
ジークハルト様の大きな手のひらが、私の胸をやんわりと揉みはじめる。
手のひらが胸の飾りをかすめると、落ち着かないような慣れない感覚が体に走る。
舌が首筋をぬるりと這う。
鎖骨の窪みや肩口を丁寧に舐られながら、指先が胸の飾りを扱きはじめる。
親指の腹でくりくりと刺激されると、逃げ出したくなるような熱が下腹部に溜まる。
「っ、あ、ぁう、……っ」
どうしよう、気持ち良い。
予定と違うし、妄想ともまるでちがうけれど、丁寧で優しい愛撫がもどかしく、気持ち良い。
「可憐な声だな、ティア。もっと聞かせて欲しい」
「ふ、ぁあっ」
もう片方の胸の飾りを、ジークハルト様の舌がちろちろと舐りはじめる。
爪弾くように指先で何度も刺激され、指の腹で挟み込まれて転がすようにされた私の小さな突起は、いつもよりも赤く色づいて充血し、肥大しているように見えた。
大きな手の中で形を変える胸が卑猥だ。私の手にはややあまる大きさの胸は、ジークハルト様の手にはすっぽりと収まった。
「っ、ぁ、ん……」
舌で押しつぶすようにされると、勝手に腰がゆらめく。
触られていないのに、下腹部が疼いている。
私は知識はあるけれど経験はないし、自慰もしたことがない。
だから、体の変化が奇妙だった。
自分の体なのに、別の何かに作り替えられていくようだった。
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