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偽りの婚礼 2
しおりを挟む私はここから生き延びなくては。少しでも、時間を稼ぐために、クリストファーを愛しているふりをして、会話を続けよう。
その体に、腕を回した。強く掴まれ縛られた手首には、赤い跡が残っている。
ゼフィラス様の体とはまるで違う、細い骨ばった体だ。クリストファーも痩せたみたいだ。痩せて、窶れている。
細い生気のない体に、瞳だけが不自然に爛々と輝いていた。
「悲しい思いをさせてごめんね、リーシャ。俺はやっと気づいたんだよ、リーシャは俺のことを本当に好きだったんだって。俺は、リーシャと幸せになるべきだったんだって」
「クリス……迎えにきてくれてありがとう。私、ずっと待っていた」
心にもないことを言わなくてはいけないのが、苦しい。
嘘に気づかれないように、笑みを浮かべる。あなたが愛しいと、熱心にクリストファーの瞳を見つめる。
「一緒に、辺境に行くの? 私を連れて、逃げてくれるの?」
「まさか! あんな不自由な場所には行かない。汚い何もない田舎だ」
「でも、あなたは……」
「俺は何も悪いことをしていないだろう、リーシャ。何かしたのだとしたら、君を傷つけたことぐらいだ。馬車が人を撥ねた時、あの場から立ち去るように俺に言ったのはシルキーだ。俺はあの女の指示に従っただけ。俺を騙した悪女を殺した。ただそれだけだ。俺は何も悪くない。そうだろう、リーシャ」
「……そうね。あなたは、何も悪くないわ、クリス」
「リーシャ! 君ならそう言ってくれると思っていたよ。二人でベルガモルト家に戻ろう。もし両親が俺を許さないというのなら、二人は消してしまおう。俺を見捨てた親など、親ではない。俺があの家の当主だ。ベルガモルト家で一緒に暮らそう、リーシャ」
クリストファーはご両親までその手にかけようとしているのか。
このままベルガモルト家に連れていかれたら、きっと大変なことが起こる。
公爵夫妻はメルアを引き取って育てていると聞いた。
メルアには二度も悲劇はいらない。
できる限り時間を稼がなくては。ゼフィラス様がきっと来てくれる。
もしそれが叶わなかったら、私が……クリストファーを、止めなくてはいけない。
何をしても。どんな目に、遭ったとしても。
「クリス、ゼフィラス様がお怒りになる。私、怖いの……クリス、助けてくれるの? 相手は、王太子殿下よ」
「初めて俺に頼ってくれたな、リーシャ。あぁ、可愛い。俺が必ず君を助ける。王国の民を皆敵に回しても、俺が助けるよ。何が英雄だ。権力でリーシャを好きなようにした最低なクズのくせに。俺のリーシャを」
「怖かったわ、とっても……とっても、怖かった」
「大丈夫だよ、リーシャ。俺が守ってあげる。必ず守るよ。あんな男が王になるなど間違っている。リーシャを奪われないためにも、俺があの男を殺す。大丈夫、大丈夫だ。もう二度とリーシャに触れられないように、殺してあげるからね」
怖い。
どうして笑顔で、そんなことが言えるのだろう。
体が勝手に震えてしまう。愛していると伝えなくてはいけないのに。
クリストファーはそれをゼフィラス様を怖がっていると理解したらしく「辛かったね、リーシャ」と言うと私を撫でて、トルソーから剥がした婚礼着を私の体の上に被せた。
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