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真夜中の襲撃 2
しおりを挟む一体何が起こっているの?
「君を迎えに来たんだ、リーシャ。俺は怒っていないよ。君は被害者だ。ゼフィラスに無理やり、婚約者にさせられたのだろう? 相手は王太子だから断れずに、逃げることもできなかったんだな、リーシャ。かわいそうに」
「何を言っているの……?」
「本当は俺のことが好きなのに、可哀想なリーシャ。まるで籠の鳥だ。俺と逃げよう」
「どうしたの、クリストファー……あなたにはシルキーさんがいるじゃない。私のことは嫌いでしょう?」
「嫌いなわけがない。リーシャは大切な幼馴染で、昔から俺たちは仲がよかっただろう? リーシャは俺のお嫁さんになりたいと、ずっと言っていた。ずっと一緒にいたから、君が大切だったことを忘れてしまったんだ、俺は。シルキーなど、あんな女。俺は騙されていたんだ。だから、やり直そう、リーシャ」
甘い声で、優しい声でクリストファーはおかしなことを言った。
まるで、現実と夢の区別がついていないような表情で。
その間にも私の手首は締め上げられるように、ぎりぎりと強く掴まれている。指先に感覚がなくなるぐらいに、折れてしまうのではないかというぐらいに、強く。
「クリストファー、私は無理やり婚約者になんてされていない。私はゼフィラス様が……」
「その名を呼ぶな」
「痛……っ」
「さぁ、行こうかリーシャ。俺が君を助けてあげる。約束通り、結婚しよう。君は俺のことが好きなんだ。ずっと好きだと言っていた。今も好きでいてくれる。そうだよね、リーシャ」
幼い頃のクリストファーの話し方が、口調に混じっている。
「こんな危ないもの、持ってはいけないよ」
震える手で掴んでいたナイフを、手から外されて投げられる。ナイフはサクリとベッドに落ちて突き刺さった。
抵抗しようとする私の口を、大きな手が塞ぐ。
くぐもった声が漏れて、息をすることができずに私は手足をばたつかせた。
ようやく手が離れて、私はゼエゼエと促迫した呼吸を繰り返す。空気が足りない。頭が、手足がピリピリする。
動けないでいる間に、ひとまとめにされた両手を縄できつく縛りつけられる。
これは、夢なのだろうか。
私はまた、悪夢を見ている――?
けれど、痛みがある。嫌悪感と恐怖で、喉がはりつく。上手く声がでない。
それでもなんとか、声をはりあげる。
「誰、か……っ」
「無駄だよ、リーシャ。さぁ、行こうか」
クリストファーは悠々と私を抱き上げて、窓からではなく部屋の扉から外に出る。
屋敷の中を、口を黒い布で隠した男たちが我が物顔で支配している。
階段下の一階のホールでは、青ざめた表情のお兄様と、泣き出しそうなグエス、それから、床に倒れて男の一人に足で踏みつけられているアルバさんの姿がある。
その前には、男にナイフを突きつけられているアシュレイ君の姿。
クリストファーは満足気に笑いながら、お兄様たちの元へと私を連れて降りた。
「アシュレイ君……!」
思わず悲鳴のような声をあげる私を、アシュレイ君は泣き出しそうな顔で見た。
ハクロウがグルグルと唸り声をあげている。今にも男たちに襲い掛かろうとしている様子だけれど、お兄様に動くなと、首輪を掴まれていた。
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