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大神殿での祈り 1
しおりを挟む魔物研究書を読みふけっていたら、すっかり日が昇っていた。
文字を追っていたからだろうか、悪夢を見た恐怖は消えて、気怠い眠気だけが残った。
身支度を整えて、ゼフィラス様の迎えを待つ。
大神殿に行くためにだ。
大神殿というのは祝日こそ忙しい。
お休みの日はないし、工事をしていても礼拝をしにくる方々のために門戸を開いている。
懺悔室などは行列ができていると聞いている。
多忙な中アルゼウス様もゼフィラス様も、時間を作ってくださった。
何か――過去の出来事の手がかりがあればいいのだけれど。
そう思いながら、私は馬車に乗ってゼフィラス様と共に大神殿へ向かった。
街の中央から東に進んだ場所にそびえている大神殿は、お城を一回り小さくしたぐらいの大きさである。
外壁には動物や人や草花の姿が彫られている。想像上の動物の姿も沢山ある。
中央の門は常に開かれていて、中には美しいランプがいくつも天井から吊られて輝いている。
礼拝の人々が多いため、椅子などは置かれていない。真っ直ぐにホールを進んで、最奥にある三女神の像に祈りを捧げて、皆戻っていく。
入り口付近には神殿に心付けを渡す場所、それから護符などを買う場所もある。
礼拝堂の中には懺悔室があり、行列ができていた。
「懺悔室で懺悔すれば、少し心が軽くなるものでしょうか」
礼拝堂の中は私語厳禁というわけではないが、厳かな雰囲気に飲まれてだろうか、皆あまり声を出さない。
会話を交わす人々も、耳打ちのように微かな声で話をしている。
何を言っているのか分からない程度の小さなさざめきは、海辺で拾った巻き貝を耳につけて聞く音に似ている。
私もゼフィラス様の傍で、小さな声で囁いた。ゼフィラス様は姿勢を低くすると、軽く頷いてくれる。
「懺悔をすることで、許された気になる。裁かれるほどではないが、些細な罪が許されて、気が楽になる」
「例えば、寝る前に甘い物を食べてしまった、とか」
「あぁ、そうだな」
ゼフィラス様は私の髪を撫でた。私は頭を押えると、俯いた。
「リーシャ、寝不足だろうか。少し、元気がない気がするが」
「遅くまで本を読んでいたせいかもしれません」
「勤勉で真面目なのはいいことだ。だが、あまり無理はしないで欲しい。眠れないわけではないのか?」
「いえ……大丈夫です」
「私が共にいることができればな。毎日、君をきちんと寝かせて……いや、どうだろうか。自信がないな」
密やかな声音で交わす会話がくすぐったい。
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