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 王妃様とのお茶会 2

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 エルナ様は私の話を聞き終えると、悲し気に目を伏せた。

「正妃マルーテの立場に私がいたら、とても苦しいことね。側妃との間に先に男児がうまれてしまったのだもの。王は血を残すのも仕事だから、何人も妻を娶っていいことになっているけれど……理解していても、嫉妬をしてしまうでしょうね」

「はい。それは、分かる気がします。私もゼフィラス様が、私の他にも女性を……と思うと」

 例えそれが、仕方のないことだとしても、
 やはり、痛い。
 口にするべきではないことは理解しているけれど、エルナ様に話すと心の棘が消えるようだ。

「そう思うと、王子の死は、呪いでも病でもなく人為的なものという可能性が高いのではないかしら」

「人為的、ですか」

「ええ。正体不明の疫病で王子が亡くなった――というよりも、側妃……フィオーラに嫉妬して、王妃マルーテが王子を殺すように誰かに命じた……としたほうが、しっくりこない?」

「そんな……で、ですが、それはあまりにも」

「リーシャちゃんの立場からすると、王族間での殺し合いなんて考えるだけで不敬でしょうけれど、実際、後宮ではよくある話なのよ。私の国……オルストニアの後宮では、少なくともよくある話だったわ」

「エルナ様も……怖い思いをしたのですか?」

「女はそんなことはないわよ。姫は、政略につかうことができるから。王子たちは、大変よ。皆、自分の子こそ王に――と、思っているもの。口には出さないけれど、後宮の女なんて野心家ばかりだもの」

「マルーテ様も、フィオーラ様を恨んでいたのでしょうか」

「リーシャちゃんだったらどう?」

「私だったら……そうですね。悲しいですし、苦しいことだと思います」

 私とゼフィラス様の間に子供ができずに、ゼフィラス様の愛情が自分ではない別の女性にむけられて、そちらに先に子供がうまれてしまったら。

 悲しくて苦しくて――その子供を、殺したくなるものだろうか。

 そこまで考えて、私は身震いした。

 心が苦しみに沈んだとしても、子供を殺すなんて――考えたくない。

「リーシャちゃんはいい子ね。想像だけで泣きそうになるほどに優しい子には、そんなことはできないでしょうね。私だって、流石にそこまではしないわ。もし同じ立場だったら、スグルトに枕をぶつけぐらいはするでしょうけれど」

 スグルト陛下の顔を思い出す。
 優しい顔立ちをした、ゼフィラス様に似て美しい方だ。

 エルナ様に枕をぶつけられている姿を想像してしまい、私は口に手を当てた。
 笑いそうになってしまった。

「笑っていいのよ、リーシャちゃん。王族だって、人間よ。リーシャちゃんと同じ。怒ったら枕をぶつけるし、頬をつねったりもするもの。だから……マルーテがフィオーラに嫉妬して、王子を殺したとしても、そんなにおかしいことじゃないとは思うわね」

「だとしたら、病でも呪いでもなく、暗殺、ということになりますね」

「子供を殺されたのだから、フィオーラもやり返すのではないかしら?」

「だから、マルーテ様の王子も、お亡くなりに……?」

「なんて考えた方がすっきりするでしょう。少なくとも、ゼフィラスは元気に育ったわよ。病から身を守るために、真剣に女装させてなんかいないわ。私はあの子を玩具にして、遊んでいたの。それでも、病になんてならなかった」

「……マルーテ様とフィオーラ様について、もう少しよく調べてみます」

 ただ名前だけだった二人の王妃の姿が、目の前に亡霊となって現れたような気がした。

 我が子を抱いて、二人は睨みあっている。
 そして、その果てに、二人とも精神に不調をきたしてお亡くなりに――。

 でも、それは変ではないかしら。
 嫉妬から互いの子を殺し合うような女性たちだ。

 強い意志がなければそんなことはきっとできない。自分こそが、王の寵愛を得るのだという、強い意志。欲望。野望。

 そんな方々が、二人とも心を病んで死んでしまうというのは、どうなのだろう。

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