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図書室での調べもの 1
しおりを挟む午前中は座学で、休憩を挟んで午後からはマナー講座とダンスのレッスンを受けて、一日の授業は終わりになる。
私は授業を終えると、アリッサ先生にお礼を言って、図書室に舞い戻った。
五代目の王と王子たちについてもう少し調べるつもりだったからだ。
次々と王子たちの命を奪った病がなんなのか、知りたかった。
再び同じ病がお城で流行るかもしれない。
その場合、危険に晒されるのはゼフィラス様と私の。
ゼフィラス様と、私の子──。
そこまで考えて、急に気恥ずかしくなってしまう。
でも、結婚するというのはそういうことだ。
ゼフィラス様との子供を産むのが、私の役目。
だとしたら少しでも、知っておきたい。病で子供を失うことはおそろしい。
今までは偶然病にかからなかっただけで、私とゼフィラス様の子がもしかしたらと思うと、いてもたってもいられなかった。
私は図書室の奥に進み、王家の家系図や歴史が収められた場所へとたどり着く。
年代別に並べられている分厚い資料が、書架の上の方までおさまっているのを見上げる。
五代目の王の資料は書架の上段にある。図書室の中を見渡したけれど梯子のようなものはないし、踏み台も見当たらなかった。
背伸びをして手を伸ばすと、指先が本の背表紙に触れた。
大切な資料を粗雑に扱うわけにはいかないので、私はそこで一旦諦めて伸ばしていた手を元に戻した。
「何か、踏み台が欲しいわね。私と、ゼフィラス様のためにも」
ゼフィラス様と結婚をして子供がうまれたら、その子は王家の伝統に則って十六までは女性の姿で名前を変えられ、城の奥に隠すようにして育てられる。
私は十八歳。
つまり、私がゼフィラス様だとしたら――二年前まで、満足に外に出ることもできずに、友人も作れずに、楽しいことが何もできないままに閉じ込められていたようなものだ。
ゼフィラス様はそんな環境に身を置きながら、優しく誠実に、立派な王太子殿下としてお育ちになられている。
不自由だっただろう。息が詰まっただろう。
十六までの時間を、しきたりに奪われたというのに。
だからゼフィラス様は、そのしきたりを終わらせたいと考えているのよね。
女性の姿をさせられて名前を奪われることは、とても苦痛だったのだ。
私も、私たちの子供には、自由に育って欲しい。
王家の伝統を否定したい訳ではないけれど。
ゼフィラス様が迷信だとおっしゃっていたように、私もそれは迷信だと考えている。
アリッサ先生の話を聞いて、その思いは余計に強くなった。
王子たちの命を奪った病がなんなのか、知りたい。流行病だとしたら、もっと死者が出ているはずだ。
王子の命だけを奪うなんて、奇妙だ。
それとも、実際はもっと死者が出ているけれど、記録には残っていないだけなのかしら。
「リーシャ。私と君のために、踏み台が欲しいとはどういう意味だろうか」
書架の前に立って思案していたせいか、私は背後に近づいてきた人の気配に気づかなかった。
「ゼフィラス様!」
急に話しかけられてびくりと震えながら、背後を振り向く。
私よりも頭ひとつ分かそれ以上に大きなゼフィラス様が、私の後ろに立っていた。
このところのゼフィラス様は、戴冠式の準備に追われている。
準備をするのは周囲の方々で、ゼフィラス様は可否の決定をするだけだそうだけれど。
お城でのゼフィラス様は、首周りにふさふさのある立派なマントをつけていて、黒を基調としたお洋服に金の飾りが映えている。お城でのゼフィラス様のお召し物も、黒が多い。
あまり派手な服は好まないのだそうだ。昔散々、ごてごてに飾られたせいで、装飾の多いお召し物は苦手になってしまったのだという。
ゼフィラス様はお顔立ちが整っているし、体つきも立派だ。
シンプルな服はかえってゼフィラス様の美しさを引き立てているようで、よく似合っている。
「驚かせてしまったか?」
「ごめんなさい、考えごとをしていたものですから」
「私と君と、踏み台について?」
首を傾げながらゼフィラス様が「踏み台とは、二人が幸せになるための、こう、当て馬のようなものだろうか……?」と、悩ましげに呟いた。
それも踏み台といえば踏み台。恋愛を題材とした演劇などでは、よくある配役よね。
けれど、私の踏み台は違う。普通の踏み台のことだ。
「書架の上段にある、本を取ろうとしていたのです。それで、踏み台です」
「なるほど。私と君のための……」
「それは、その、私とゼフィラス様の子供のために、調べ物をしていました」
「リーシャ……!」
ゼフィラス様には隠しごとをしたくないので素直に口にすると、やや興奮気味に名前を呼ばれた。
腰を抱かれて、背後から抱きしめられる。
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