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 断罪の時間 2

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 クリストファーは、私の行動について調べたのだろうか。
 だとしたら、ゼス様がゼフィラス様だと気づきそうなものだけれど。
 でも、人をつかって調べたとしたら、自分の目で見ているわけではない。
 報告を聞いただけなら、分からないかもしれない。

「自分の浮気を棚にあげて、俺のことだけを糾弾し、我が家を――俺とシルキーを苦しめる、最低な女だ」

 私の隣で、ミランダ様が「よくもまあぬけぬけと……」と、小さな声で呟いた。
 広間がざわめきはじめている。

 集まっている貴族の方々は、アールグレイス家をよく思っていない方々も多い。
 
「王太子殿下も、アールグレイス家に金を積まれて、婚約を受け入れたのでは?」
「あの成金の娘が、王妃になるのか」
「身分が釣り合っていない。だが、金がある。金があるから娘を王妃にすらできるのか」

 非難めいた陰口も、聞こえてくる。

 お父様は、顔色を変えることなく穏やかな表情で成り行きを見守っている。
 アシュレイ君は怒っていて、何も言わないようにだろう、お兄様に口をふさがれていた。
 お兄様の瞳と目があう。私は小さく頷いた。

「我が家を成金と蔑みたいのなら、どうぞ、ご自由になさってください。ですが、私は父や兄を誇りに思っています。商才は、才能。お金を稼ぐことを、私は罪とは思っていません。そして――私を愚弄することは、私を選んでくださったゼフィラス様を愚弄することと同じです。ご理解の上、発言をなさってください」

『商人と渡り合うときは、まずは相手を怒らせないように下手に。強い言葉は必要ない。穏やかに、柔和に。けれど自分が正しいのだという気持ちを曲げてはいけない。まっすぐ前を見て、笑顔で、余裕を持って。そうすれば相手はこちらを侮らなくなる。下手にばかり出ていたら、足元を見られるだけだからね』

 私もお兄様と同じ。立派な商人の、お父様の娘だ。
 お父様の言葉を思い出す。怒らず、優しく、柔和に穏やかに。けれど自分の意思は、曲げてはいけない。

「黙れ、リーシャ! 王太子殿下、目を覚ましてください。そんな女との婚約など、破棄をするべきだ。その女は浮気性で、我が儘で、金があるから世界は自分を中心に回っていると思っている、最低な――」

「黙るのはお前だ、クリストファー」

 ゼフィラス様が一言言っただけで――しんと広間が静まりかえった。
 その言葉は、口調は、温和で優しいゼフィラス様のものではない。
 争いに慣れた、ゼス様のものだった。 


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