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残されていた大切なもの 1
しおりを挟む誰もいなくなったメルアの家は、メルアが相続できる年齢になるまでウェールス商会が預かるということになった。
メルアに見せられるような状態ではなかったので、サーガさんの指揮のもと清掃されて、人に貸すことができる程度の清潔さを取り戻した。
私とゼフィラス様は、メルアを連れてメルアの家に来ていた。
メルアにはサーガさんから「メルアが心配で、お父さんとお母さんの幽霊が出てきて、悪い叔父夫婦を追い出した」と説明してある。
メルアは「幽霊でもいいから会いたかった」と。そして「一度家に戻りたい。お姉さんと騎士様に一緒に来て欲しい」と言っていたそうだ。
頼られると嬉しい。お兄様の言葉を思い出す。
メルアとは短いつきあいだけれど――私とゼフィラス様を信頼して、頼ってくれるのだと思うと、嬉しかった。
「お母さんとお父さんの幽霊が出たんだって」
「幽霊とは、女神様の元にのぼるまえに、未練を感じて地上に留まる魂のことだな」
「そうなの? よくわからないけど、幽霊は、幽霊。お化けのこと」
メルアはにこにこしながら、ゼス様の姿をしたゼフィラス様に説明をした。
金目のものは売ってしまったのだろう。多額のお金を手に入れたのに、それでもメルアの叔父夫婦はお金が足りなかったみたいだ。
働かずにお酒ばかり飲んでいたら、お金なんてなくなる一方だから、メルアのお金はほとんど使い果たしてしまっていたようだった。
掃除をしたときにみつけた残りのお金は、本の少しだったらしい。
勤勉に働いていたご夫婦の残したお金と、サーガさんからの慰謝料。その全てがお酒や、恐らくは賭け事などに消えてしまったようだ。
「私に家に帰りたいか、お姉さんが聞きに来たすぐあとに、お父さんとお母さんの幽霊が、おじさんたちを追い出したんだって。お姉さんは、女神様なの?」
「あぁ。リーシャは俺の女神だ」
「騎士様。お姉さんが好きなの?」
「それはもう」
「あはは……お父さんもお母さんに、よく、好きだよって言ってた。好きなときは好きって伝えないと、こうかい? するんだって。お父さんもお母さんも、お仕事に行くときはいつも私に、好きだよって言ってくれた」
好きだと伝えて出かけて行ったご両親が、帰ってこなかった。
どれほど悲しかっただろう。メルアの苦しみを思うと、胸が痛む。
せめて――メルアの大切なものが、この家に残っているといいのだけれど。
メルアはリビングルームを見渡したあと、二階に向かう。
二階の角の部屋は、メルアの子供部屋だったようだ。
ピンク色と白が多く使われていて、子供用のベッドや勉強机、本棚などがおかれている。
「ミミちゃん!」
子供部屋に入ると、メルアはベッドに駆け寄った。
メルアの叔父夫婦は、子供部屋には用がなかったらしい。
もしくは――メルアを捨てた罪悪感を、少しは感じていたのだろうか。
ここには入らなかったか、入ることができなかったようだ。
他の部屋とは違い、綺麗なまま、手つかずの状態だった。
メルアが手にしたのは、ベッドの枕元に置いてある白いウサギのぬいぐるみだった。
メルアの両手にすっぽり入るほどに小さいぬいぐるみだ。
「ミミちゃん、いたよ! よかった!」
「それがあなたの宝物なのね、メルア。よかったわね」
「うん。この子は、お母さんがつくってくれたの。お母さん、おさいほう苦手なんだって。でも、頑張ってつくってくれて……お母さんの匂い、まだするみたい」
メルアは両手に抱いた小さなぬいぐるみを、口元にもってくる。
それから、小さなぬいぐるみを大切そうにポケットにしまって、枕を持ち上げて枕の下を確認する。
「本も、あった……」
枕の下には、分厚い本が一冊埋もれていた。
「……これ、お父さんとお母さんの書いた本。お父さんとお母さん、魔物研究者だったから、本を書いていて……これは、お姉さんにあげる」
「私に……?」
「うん。いっぱい助けてもらったから、お礼がしたいの。でも、何ももっていないから……」
「でも、メルア」
「私が持っているより、お姉さんが持っていたほうがいいと思うの。騎士様は魔物と戦うんでしょう? だから、お姉さんが魔物研究者になって、お父さんやお母さんみたいに、騎士様を助けてあげて」
私はメルアから、魔物研究書を受け取った。
これはご両親の形見だろうから貰うのは申し訳ないと恐縮する私に、メルアは「その本は、あと五冊ぐらいあるの。本棚にあるから、大丈夫」と言って微笑んだ。
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