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奪われたものを取り戻すために 2
しおりを挟む以前孤児院を訪れたときには、荒れ放題の庭や汚れた子供たちの服や、どこか元気のない子供たちの姿が気になった。
けれど、その次にベルガモルト家からの慰謝料を渡しに行った時は、子供たちの顔にはいきいきとした生気に満ちていた。
そして、あれからしばらく。
庭は綺麗に整備されて、破れていた服は新しいものへと取り替えられている。
体はまだ細いけれど、血色はよくなっているようだった。
「お姉さん! 今日は、騎士様は……サーガさん?」
シスターたちに頼んでメルアを呼んで貰うと、庭で他の子供たちと遊んでいたメルアが孤児院の入り口にいる私たちの元へ駆け寄ってくる。
サーガさんにお辞儀をしたメルアの頭を、サーガさんは撫でた。
「今まで、顔も見に来なくて悪かったな、メルア。お前の両親にはよく働いてもらったってのに、俺は金を渡したきりで、お前に会いに来ようともしなかった。ごめんな」
「大丈夫です。……お父さんとお母さんが、お世話になりました。お父さんとお母さん、サーガさんにはよくして貰っているって、話していました」
「メルア、お前の叔父夫婦のことなんだが」
「おじさんと、おばさん……?」
サーガさんが口にすると、メルアは青ざめてシスターの後ろに隠れるようにする。
シスターは困ったように微笑んだ。
「申し訳ありません。リーシャ様もご存じの通り、この孤児院はまともな運営状況ではありませんでした。メルアは何度か逃げ出して……無理もないことなのですが、そのたびに私たちが探して、連れ戻していました。この子の叔父夫婦がこの子の面倒を見る気がないことを、私たちは知っていましたから」
「……おじさんとおばさんの所に行けば、ご飯がもらえるかもしれないって思ったの。でも、もう帰りたくない。ごめんなさい、サーガさん。帰りたくない、ここにいたい。連れ戻さないで」
私はしゃがむと、メルアと視線を合わせる。
「大丈夫よ、メルア。連れ戻したりしないわ。……少しだけ、聞かせて欲しいのだけれど」
「うん」
「あなたのおじさんとおばさんは、今、あなたの家に住んでいるのよね?」
「うん。……今日からここは、自分たちの家になったって。私は、ここに連れてこられて……」
「あなたのご両親の家は、あなたのものよ。おじさんとおばさんは、間違っている」
「……でも、そうなんだって。私の、大好きなうさぎさんも、持って来れなかった。お母さんから貰った本も。何も、持ってこれなくて……」
悲しい記憶を思いだしてしまったのだろう、メルアの瞳に涙がにじんだ。
「お父さんもお母さんもいないから、お家はいらない。でも……うさぎさんや、本、捨てられちゃったのかな。……お母さんに買ってもらったのに」
「私たちも、せめてメルアの服や靴を届けて欲しいと何度かお願いしたのですけれど。……あのご夫婦は、聞く耳を持っていなくて。あまりしつこいと、人を雇って痛い目をみせると。孤児院の子供たちに何かあったら困るだろうと脅されて、何もできませんでした」
「……そうなのですね」
「そりゃ、穏やかじゃねぇな。メルアの両親は、真面目で働き者だったと記憶してるが、血が繋がってても性格ってのは全く違うもんだな」
サーガさんが腕を組んで、不愉快そうに言った。
「お姉さん、皆に何かあったら嫌なの。だから……私は何もいらない。皆優しくしてくれるから、もういいの。大丈夫」
「メルア……でももし、家からあなたのものを奪った人たちを追い出せるとしたら、そうしたい?」
「レーンメンの楽隊みたいに?」
「ええ、そうよ」
「なんだそりゃ」
「童話の一つですね。ロバやにわとりや、猫なんかが、盗人に支配されていた家から盗人を追い出す話なんです」
「へぇ。どうやって?」
「夜に、太鼓をならして、鳴声をあげて、大騒ぎして……化け物がきたと思わせるのです」
お話しを思い出しながら私が説明すると、サーガさんが「人を追い出してくれる化け物か。そんなものが本当にいたら話が早いんだがな」と、苦笑交じりに言った。
「仮面のヒーローなら……おじさんたちを追い出してくれるかな。怖いことが、もう起らないかな……」
「ゼス様ね。……ええ。そうね。きっと、そう」
「私、本当は……もう一度家に、帰りたい。大切なものが、たくさんあったから」
私はメルアの手を握ると、「教えてくれてありがとう」と微笑んだ。
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