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縮まる距離 2
しおりを挟むでも、体が勝手に緊張してしまう。
意識してしまっていることに気づかれないように、私は話題を探した。
何か話していないと、感情がむやみやたらと溢れてしまいそうだったからだ。
羞恥も、不安も、緊張も。何もかも。
「あの、ゼフィラス様」
「ん?」
「……一年前も、私はゼス様に助けていただいたのに、……お礼もできずに、申し訳ありませんでした」
「リーシャ。私は君が無事で、本当によかったと思っている。サーガから、高熱が出て家で眠っていると聞いて、不安で仕方なかった。本当は君に、会いに行きたかった」
「……ゼフィラス様は、どうして、助けてくださったことを黙っていたのですか?」
「それは……」
ゼフィラス様は遠慮がちに私の手に触れた。
あたたかい。男性の手。
「助け出したとき、君の呼吸は止まっていた。……蘇生をしたんだ。……唇に、触れた」
「え……」
「唇を、勝手に奪ってしまった。……だから、忘れているのならそのほうがいいと思って」
「……ゼフィラス様!」
私はゼフィラス様に飛びつく勢いで、その顔をじっと見つめた。
クリストファーに裏切られて、私の自尊心は道ばたの雑草のように踏みにじられた。
世界は美しい新雪で覆われているのではなく、大部分が踏み固められた泥と砂利に塗れた黒々としたものなのだと知ってしまった。
私の形は崩れてしまい――もう元には戻りそうにないのだと、勝手に思い込んでいた。
私が悲しくても苦しくても毎日は続いていて――その世界の中で私は拗ね続けて、差し伸べられた手も拒絶し続けている。
けれど、それじゃいけない。
感情を隠して、自分を殺して。震えて怯えて、逃げ続けて。
そんなことをしていたら、私はもっと自分が嫌いになってしまう。
「ゼフィラス様は……私の唇を奪ったことに責任を感じて、求婚をしてくださったのですか?」
もしそうだとしたら――そんな優しさは、辛いだけだ。
ゼフィラス様が優しい方だというのはよくわかる。
けれど、そんなことに、責任を感じなくていい。
「何故そう思うんだ、リーシャ」
「だって……っ、それ以外に、私に求婚をしてくださる理由なんて思いつかないです……」
わからないことは、尋ねなくてはいけない。
ずっと黙って、それが正しいと思って。
何も聞かずに黙り続けていたら、失ってしまった。
このままここでゼフィラス様に聞いておかなくては、私はずっとその疑問を抱えたまま。
小さな溝がいつしか大きな海峡となり、深みにはまって呼吸さえできなくなってしまうだろう。
「もし、責任を感じてくださっているのなら、もう、大丈夫ですから……」
「責任を感じているわけではない、違うんだ……!」
重なっている手が引かれる。
私はゼフィラス様に強く、抱きしめられた。
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