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白狼のルーグ 2
しおりを挟む学園寮では、一緒に寮についてきてくれているグエスが、いそいそと私にデート用の服を着せてくれる。
夕方お兄様と会うので遅くなると告げると、「お気をつけてお嬢様。お泊まりしてきてもいいんですよ。ゼフィラス様と二人でどこかに」と、熱心に言っていた。
まさかそんなことはしないと首を振ったけれど、グエスは本気みたいだった。
寮の前で待っていてくれるゼフィラス様の姿に、女子寮の生徒たちは騒然となっていた。
どうして王太子殿下がここにいるのだと聞いてくるまだ事情を知らない方々に愛想笑いをして、私はいそいそとゼフィラス様の元へと向かった。
「リーシャ! とても可愛いよ。君の秋空みたいな色の髪に、群青色のドレスがよく似合っている。私の瞳の色の髪飾りをつけてくれているのを見ると、男として誇らしく感じるな。もっと君に何か、贈りたくなってしまう」
「……ありがとうございます、ゼフィラス様。……私、こんなに褒められたこと、なくて。なんて言っていいのか」
「君を褒めない男は愚かだ。私の言葉はお世辞でも誇張でもないよ。本当にそう思っている。君を面と向かって可愛いと言うことができるなんて、私は幸せだ」
ゼフィラス様は私を抱き上げてぐるぐる回りそうな勢いで褒めてくださる。
それから、手を繋いで学園の外へと連れて行ってくださった。
てっきり、馬車が待っているのかと思った。
けれど学園の外でお行儀よく座って待っていたのは、大きくて毛並みも立派な白狼だった。
我が家にいるハクロウよりも一回り大きいだろうか。
ふさふさの白い毛並みが風に揺れていて、ゼフィラス様が近づくと、賢そうな金色の瞳を私たちに向けた。
「これは、ルーグ。私の白狼だ」
「とっても可愛いです。可愛いというのはよくないでしょうか。勇ましくて、素敵です」
「グオン」
ルーグは挨拶をするように低い声で鳴いてくれた。
おすわりの態勢から、立ち上がるルーグの上に、ゼフィラス様は私を乗せてくれる。
「馬車の方がよかっただろうか」
「白狼、好きです。馬車よりも好きです。我が家にも、ハクロウという名の子がいるのですよ」
「君ならそう言ってくれると思っていた。リーシャ、そういうところが、好きだよ」
「……っ、ありがとうございます」
ゼフィラス様もルーグに跨ると、手綱を軽く引いた。
ゆっくりした速度から徐々にルーグが走り始める。
風に髪が揺れる。新緑の香りがする。
ふさふさの獣毛が体に触れる。ゼフィラス様の力強い手が、私の腰を支えている。
──楽しい。
さっきまでの最低な気分が、嘘みたいに消えていった。
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