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白狼のルーグ 1
しおりを挟むミランダ様が「楽しんでいらっしゃい、リーシャ!」と私を見送ってくれて、私は挨拶もそこそこにぐいぐいゼフィラス様に手を引かれて校舎の入り口までやってきた。
ゼフィラス様はハッとしたように私の手を離すと、ガシッと私の両肩を掴む。
「リーシャ、すまない! 強引に君を連れてきてしまった」
「いえ、大丈夫です、ゼフィラス様。……あの」
喉の奥に布が押し込められたような息苦しさや怒りが、すっと体から抜けていく。
ゼフィラス様やミランダ様がいてくれたから。
私はめそめそ泣いてしまうような醜態を晒さずにすんだ。
胸は痛むけれど、大丈夫。
私を蔑む二人の言葉をゼフィラス様は信じるような素振りもみせなかった。
それだけで私は、救われている。
「ありがとうございました。守ってくださって」
「リーシャ……私は、反省している」
「反省?」
「あぁ。もっといい言葉があったはずだと。咄嗟に出てきた言葉は……まるで身分をひけらかすような、嫌味な男のようではなかったか? 私は偉いのだから、跪け! と言っているように聞こえただろう」
「え……あ、あはは……っ」
思わぬ反省の言葉を聞いてしまい、私は口元に手を当てた。
あまり褒められたことではないのに、声をあげて笑ってしまったからだ。
だって──王太子殿下なのだから偉いのは当たり前だ。
この国で一番偉いと言っても過言ではないし、国王陛下がいらっしゃるけれど、偉さで言ったら私から見たらゼフィラス様は雲の上の人だ。
そんなこと言ったら、クリストファーもそうだったのだけれど。
こちらには幼馴染としての気やすさがあった。今はないけど。
「ごめんなさい、ゼフィラス様。真剣、なのに」
「笑顔も可憐だな、リーシャ。君がそうして笑ってくれると、私は嬉しい」
「……あの、恥ずかしい、ので」
「照れている君も、可愛い。……私の身分が役に立って、よかった。あのように人を叱責することなど、ゼフィラスとしてはあまりないのでな。ゼスとしては、かなり場数を踏んでいるのだが」
「ゼス様だったら、なんとおっしゃいますか?」
「そうだな……黙れ、屑が。血を見たくないのなら消えろ、だな」
「ふふ……すごくゼス様という感じです」
私はゼス様が酒場で怖い人たちを倒してくれた時のことを思い出した。
ゼス様はあの時──。
「夜道には気をつけることだな……も、とっても格好よかったです」
「……私は焦っている。ゼスに、リーシャを奪われる」
「ゼス様はゼフィラス様ですよ。……先ほども、王子様のようで……もちろん、王子様ですけれど、素敵でした」
「……リーシャ。期待してしまうな、そうして君が私に微笑んでくれると」
ゼフィラス様は私の指にご自分の指を絡めるようにすると、眉を寄せて切なげに笑った。
それから「行こう。嫌なことは、忘れるといい」と言って、私を寮まで送ってくれた。
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