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デートのお迎え 2
しおりを挟むいつも穏やかな表情ばかり浮かべているのに、目を見開いて、瞳孔が収縮している。
信じられないものを見るような目で私を見つめてくるので、私は俯いた。
「まぁ……リーシャ様……クリストファー様との婚約がなくなった途端に、ゼフィラス様と婚約なさるなんて……リーシャ様もクリストファー様に隠れてゼフィラス様とよい関係にあったのですね? だからあんなにあっさり、クリストファー様との婚約破棄を了承したのですね」
「そうなのか、リーシャ……」
震える声でシルキーが言い、クリストファーが愕然とした顔で呟いた。
「違います。それは、誤解です。私は――」
反論する私の言葉に被せるようにして、シルキーが声を震わせながら、けれど皆に聞こえる様に高らかに言った。
「お可哀想なクリストファー様! リーシャ様はいつも、クリストファー様がいなくても大丈夫とばかり言っていたそうですけれど、そのとおりでしたのね。いなくても大丈夫……むしろ、いないほうが、都合がよかった、と。一体何人の男性とよい関係にあったのでしょう……?」
「リーシャは俺と結婚したいと、俺が好きだと言っていたが、あれは全て嘘だったのだな」
違う。それは、違う。
私もこんなことになるなんて、予想もしていなかったのだ。
そもそも、浮気をしたのはクリストファーで、私からクリストファーを奪ったのはシルキーなのに。
「違います。私は一度も、浮気なんてしたことはありません!」
あなたたちと違って――と、言いかけた。
「リーシャ」
ゼフィラス様が私の名前を呼んで、一歩前に出た。ゼフィラス様は体が大きいので、私の体がすっかり隠れてしまう。
ゼフィラス様一人に任せるのは違う気がして、私もその背中から顔をだした。
秀麗な横顔には、怒りが滲んでいる。私に向けていた優しい表情とは全く違う、冷たさを感じる。
「クリストファー。リーシャを愚弄することは、私を愚弄することと同義と思え。リーシャは私の妻。つまり、王妃になる。お前たちが気安く話しかけていい相手ではない。まして、悪しざまに罵るなど――立場をわきまえろ」
「ゼフィラス様、リーシャは俺の……!」
「お前が捨てたリーシャに、私はずっと恋をしていたのだ。長い、片思いだった。今の私は、リーシャの心を手に入れるために足掻いている恋に溺れた男ではあるが、私がどれほど情けなく見えたとしても、ゼフィラス・エルランジアであることは変わりない。私に気安く話しかけていい許可を、お前たちに与えた覚えはない」
「どうして、ゼフィラス様が……」
「勘違いされても困るが、私がリーシャに婚約の話を伝えたのは、お前がリーシャを裏切った後だ。その前は、会話さえ交わしていない」
ゼフィラス様は誤解を解くためだろう、この場にいる皆に聞こえるように大きな声で言った。
クリストファーはどうしてか、肩を落とした。
私のことなんてもうどうでもいいはずなのに。
ミランダ様が「あんな男のことはもうお忘れなさい」と耳元で囁き、ゼフィラス様が「行こうか、リーシャ」と強引に私の手を引いてこの場から連れ出してくださった。
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