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王子様の告白 1
しおりを挟む仮面とローブで姿を隠して街に溶け込んだ(溶け込めていたのかは謎だけれど)ゼフィラス様は、街での肩書きというものが必要だと考えたらしい。
たしかに、何者かわからない仮面とローブの男の人がうろうろしているよりは、出自が確かな仮面とローブの男性のほうが安心感があるものね。
幸いなことにゼフィラス様は腕に自信があった。
早い話がお強かった。
それなので、冒険者ギルドに登録して――魔物討伐や人助けをしながら過ごす日々。
気づけばXランクの冒険者『黒騎士ゼス』として、名前が広く知られるようになってしまったらしい。
蓋を開けてみたら単純な話。
確かにゼフィラス様の声まで記憶している人は少ない。
ゼフィラス様と直々に会話ができる人が少ないという意味で。
だから私も気づかなかった。この声、聞き覚えがある――というほど、ゼフィラス様と言葉を交わしたことがなかったからだ。
「リーシャ、私の事情はこんなところだが、説明になっていただろうか」
「はい。ありがとうございます、色々とお話ししてくださって」
「君を騙していたことを、怒ってはいないのか?」
「騙されたとは思っていませんし……でも、どうしてゼス様がゼフィラス様だと教えてくださったのですか? 隠しておくこともできたのではないかと思うのに」
私の恥ずかしい姿を知っていることを隠しておくのが、心苦しいと思ってくださったのかしら。
侍女として雇い入れてくださる前に、秘密を明らかにしておこうという心遣い?
不思議に思って尋ねると、ゼフィラス様はどこか苦しそうに眉を寄せた。
「それは──」
なにか重大な秘密を打ち明けられるような雰囲気に、私の体にも勝手に緊張が走る。
「このままでは、ゼスに君を、奪われてしまうと、焦った」
「……え?」
――ん?
よくわからないわ。だってゼフィラス様はゼス様。同一人物だもの。
それに、奪われるもなにも私は──。
「私は君ときちんと言葉を交わしたこともないのに、ゼスは君を酒場で助け、腕に抱き、カフェでパンケーキを食べて君にプレゼントを貰った。私は、ゼスが羨ましい」
「待ってください、ゼフィラス様……落ち着いて、落ち着いてください……」
「私は落ち着いているよ、リーシャ」
いえ、確かにその振る舞いや言葉使い、表情は落ち着いているのだけれども。
言動が落ち着いていないというか、どうしましたゼフィラス様……という感じだ。
だから、それは全てゼス様であって、同時にゼフィラス様なのよね?
そういう話よね。双子の兄弟、とかではなくて。
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