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金貨袋の有効活用 2
しおりを挟む「あ! お姉ちゃん!」
孤児院にたどり着くと、昨日の雰囲気とはまるで違っていた。
メルアが私に気づいて、すぐに駆け寄ってきてくれる。
子どもたちが、シスターたちと一緒に外で遊んでいるし、服装も髪も綺麗に整えられている。
「リーシャ様!」
メルアと一緒に、若いシスターが走ってきてくれる。
昨日、院長の後ろで静かにしていたシスターのうちの一人だ。
「リーシャ様、昨日はありがとうございました」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
何人かのシスターたちも私たちの元へ来て、頭をさげてくれる。
「……いえ、私は何もできませんでした。大丈夫でしたか?」
「この孤児院は……リーシャ様もご承知の通り、まともに運営されていませんでした。院長とその取り巻きたちが私腹を肥やしていて。院長は神殿から派遣されていた人ですから、誰も文句を言えなかったのです」
「そうなのですね。神殿から?」
「はい。ハルマさんに口答えをしたシスターたちは、ここをクビになりました。私も、何度もここを辞めようと思いました。でも、子どもたちが不憫でやめることができなかったのです」
シスターたちが頷き合っている。
子どもたちは、昨日はどこか緊張した面持ちだったけれど、表情が柔らかくなっているようだった。
シスターたちにしがみついたり、手を繋いだりしている。
「昨日、リーシャ様とゼス様がお帰りになってからしばらくして、王太子殿下がやってこられました」
「えっ、王太子殿下が、直々に?」
「はい。ゼス様から連絡が来たとのことで。何人かの兵士と、神官たちを連れて。今までは、王家からの視察が来ると子供たちも私たちも口止めされていたものですから、何も言えなかったのですが」
そもそもその視察者自体、ハルマさんと繋がりのある神官だったりしたらしい。
ゼス様と私が見聞きした証言を元に、子供たちや善意で働いているシスターたちから話を聞き出してくれたのだという。
くまなく孤児院の中を調べて、子どもたちを調べて。
そして、ハルマさんやその取り巻きたちが運営費を着服しているという事実が明るみに出たようだ。
ハルマさんとその取り巻きたちは捕まり、ハルマさんの証言で、ハルマさんから賄賂をもらっていた神官の何人かも捕まったそうだ。
「これでようやく、子どもたちのためにお金を使うことができます」
「私たちも子どもたちを苦しめました。その贖罪だと思って、これから子どもたちを大切にしていきたいと思います」
「そう……よかった」
「ありがとう、お姉ちゃん。シスターたちが、お風呂に入れてくれたの。新しいお洋服も。それから、今日はケーキも食べたの」
「よかったわね、メルア」
私はアルバさんに持ってもらっていた、金貨の入った袋をシスターに差し出した。
それは、クリストファーの家からお兄様がもらってきた慰謝料である。
使うのは嫌だったし、置いて置くのも嫌だった。
だから。
「これ、よかったらみんなのために使って。私には、いらないお金だから」
「こんなに貰えません……!」
「孤児院、屋根も壁も傷んでいるわよ。修繕費にしてもいいし、もうすぐほら、春の祭典があるでしょう? お祝いに使ってもいいわ」
「ですが」
「その代わり、時々遊びに来てもいい?」
「もちろんです!」
「お姉ちゃん、また来てくれるの? 嬉しい」
私はシスターに、金貨袋を押し付けた。
メルアが飛び跳ねて喜んでいる。
それにしても、王太子殿下が直々にハルマさんたちを捕縛しに来るなんて。
王家との繋がりがあるとは言っていたけれど、ゼス様は何者なのかしら。
王太子殿下とは王家のパーティーでご挨拶をしたことはあるけれど。
私から話しかけていいような身分の方ではないから、個人的にお話をしたことはないもの。
王太子殿下が直々に、小さな孤児院のために動いてくれるなんて、とてもいい方なのか。
それとも、ゼス様がすごいのか。
どちらなのかはわからないけれど、とりあえずは、よかった。
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