34 / 162
金貨袋の有効活用 2
しおりを挟む「あ! お姉ちゃん!」
孤児院にたどり着くと、昨日の雰囲気とはまるで違っていた。
メルアが私に気づいて、すぐに駆け寄ってきてくれる。
子どもたちが、シスターたちと一緒に外で遊んでいるし、服装も髪も綺麗に整えられている。
「リーシャ様!」
メルアと一緒に、若いシスターが走ってきてくれる。
昨日、院長の後ろで静かにしていたシスターのうちの一人だ。
「リーシャ様、昨日はありがとうございました」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
何人かのシスターたちも私たちの元へ来て、頭をさげてくれる。
「……いえ、私は何もできませんでした。大丈夫でしたか?」
「この孤児院は……リーシャ様もご承知の通り、まともに運営されていませんでした。院長とその取り巻きたちが私腹を肥やしていて。院長は神殿から派遣されていた人ですから、誰も文句を言えなかったのです」
「そうなのですね。神殿から?」
「はい。ハルマさんに口答えをしたシスターたちは、ここをクビになりました。私も、何度もここを辞めようと思いました。でも、子どもたちが不憫でやめることができなかったのです」
シスターたちが頷き合っている。
子どもたちは、昨日はどこか緊張した面持ちだったけれど、表情が柔らかくなっているようだった。
シスターたちにしがみついたり、手を繋いだりしている。
「昨日、リーシャ様とゼス様がお帰りになってからしばらくして、王太子殿下がやってこられました」
「えっ、王太子殿下が、直々に?」
「はい。ゼス様から連絡が来たとのことで。何人かの兵士と、神官たちを連れて。今までは、王家からの視察が来ると子供たちも私たちも口止めされていたものですから、何も言えなかったのですが」
そもそもその視察者自体、ハルマさんと繋がりのある神官だったりしたらしい。
ゼス様と私が見聞きした証言を元に、子供たちや善意で働いているシスターたちから話を聞き出してくれたのだという。
くまなく孤児院の中を調べて、子どもたちを調べて。
そして、ハルマさんやその取り巻きたちが運営費を着服しているという事実が明るみに出たようだ。
ハルマさんとその取り巻きたちは捕まり、ハルマさんの証言で、ハルマさんから賄賂をもらっていた神官の何人かも捕まったそうだ。
「これでようやく、子どもたちのためにお金を使うことができます」
「私たちも子どもたちを苦しめました。その贖罪だと思って、これから子どもたちを大切にしていきたいと思います」
「そう……よかった」
「ありがとう、お姉ちゃん。シスターたちが、お風呂に入れてくれたの。新しいお洋服も。それから、今日はケーキも食べたの」
「よかったわね、メルア」
私はアルバさんに持ってもらっていた、金貨の入った袋をシスターに差し出した。
それは、クリストファーの家からお兄様がもらってきた慰謝料である。
使うのは嫌だったし、置いて置くのも嫌だった。
だから。
「これ、よかったらみんなのために使って。私には、いらないお金だから」
「こんなに貰えません……!」
「孤児院、屋根も壁も傷んでいるわよ。修繕費にしてもいいし、もうすぐほら、春の祭典があるでしょう? お祝いに使ってもいいわ」
「ですが」
「その代わり、時々遊びに来てもいい?」
「もちろんです!」
「お姉ちゃん、また来てくれるの? 嬉しい」
私はシスターに、金貨袋を押し付けた。
メルアが飛び跳ねて喜んでいる。
それにしても、王太子殿下が直々にハルマさんたちを捕縛しに来るなんて。
王家との繋がりがあるとは言っていたけれど、ゼス様は何者なのかしら。
王太子殿下とは王家のパーティーでご挨拶をしたことはあるけれど。
私から話しかけていいような身分の方ではないから、個人的にお話をしたことはないもの。
王太子殿下が直々に、小さな孤児院のために動いてくれるなんて、とてもいい方なのか。
それとも、ゼス様がすごいのか。
どちらなのかはわからないけれど、とりあえずは、よかった。
59
お気に入りに追加
2,944
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

毒家族から逃亡、のち側妃
チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」
十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。
まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。
夢は自分で叶えなきゃ。
ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる