幼馴染の婚約者に浮気された伯爵令嬢は、ずっと君が好きだったという王太子殿下と期間限定の婚約をする。

束原ミヤコ

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 不思議の国のベリークリームパンケーキ 2

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「十八年間、ずっと好きだった幼馴染みに裏切られて、振られてしまいました。……だから、もういいんです。人を好きになると、また苦しい思いをするかもしれませんし」
「君を裏切るような男ばかりではないだろう」

「ゼス様は誠実そうですね。あっ、まさか恋人はいませんよね……? 恋人がいるとしたら、食事を一緒にするのはよくありません」

「いない。……恥ずかしい話だが、女性は苦手だ。二十五年間、ずっと一人だ」
「そうなのですね、ではよかったです。ゼス様、人気があるのですから、恋人なんてすぐできるんじゃないでしょうか」

 よく考えたら、私、ゼス様のことをなにも知らないのよね。
 今のはよくなかったと反省して、あわてて訂正した。

「ごめんなさい。軽率でした。女性が苦手だとおっしゃっていたのに。私、適当なことを……」
「いや。俺も君の傷をえぐるようなことを言ってしまった。すまない」

「そんなことはないですよ。こうして、話ができるとすっきりしますね。ゼス様、もしかして私を心配して昼食に誘ってくだったのですか?」
「……心配と言えば、心配だな」

 私はもう大丈夫だからと微笑んだ。
 ゼス様と話をして、笑うことができている。
 もちろん、クリストファーやシルキーについては、やってられるかという気持ちが強いのだけれど。

「もう大丈夫です。私、負け幼馴染みとして強く生きていきます。物語の中でも、幼馴染みとは得てしてふられるものなのです。そういう風に、世界はできているのですね」
「そうなのか?」
「はい」

 すごい自虐だわ。
 でも、そうでも言わないとまた落ち込んでしまいそうだし。
 半分元気で、半分まだ駄目で。悲しいを怒りに変えて、怒りを、どうでもいいものとして飲み込んで。

 少し時間がかかるかもしれないけれど、忙しく働いていればきっと忘れることができる。
 ゼス様とも、話をすることができたし。
 
 ゼス様は「それなら、よかった」と、それ以上何も聞かなかった。
 私の分の会計も一緒に支払ってくれるゼス様に、慌てたりお礼を言ったりしながら店を出る。
 
 これできっと、ゼス様と会うことももうないわね。
 アシュレイ君に、ゼス様は本当にいい方だと教えてあげなきゃ。
 
 そんなことを考えながらふと視線を巡らせると、女神の噴水の前で泣いている女の子に気づいた。
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