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不思議の国のベリークリームパンケーキ 1

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 可愛い観葉植物にランプに、ハートやスペードが描かれたポット。
 トランプのオブジェに、硝子の薔薇。
 
 ソファとテーブルが並ぶ可愛い店内の窓際の席に座るゼス様は、やっぱりそこだけ亜空間みたいな一種異様な威圧感がある。
 
 不思議の国の騎士みたいで、似合うには似合うのよ。
 リンゴの角切りがたっぷり入ったアップルシナモンティーと、生クリームが森の木ぐらいにもさっと乗った、ベリーいっぱいふわふわパンケーキが目の前におかれているのには、少し違和感を感じるけれど。

 ゼス様は私と同じものを注文した。
 このお店でよかったのかしらと内心びくびくしていた私だけれど、美味しいものは食べたい。

 色々あったけど、食欲が全くなくなるというようなこともなく、胃がキリキリ痛むようなこともなく、私は元気にパンケーキを注文した。
 美味しいって評判だったし、せっかく来たのだから注文したいもの。

 ゼス様はナイフとフォークを使って、美しい所作でパンケーキを一口大に切って器用に食べている。
 生クリームがたっぷりのったパンケーキを一口、口に入れた。

「ん~……美味しい! 思ったよりも甘くないですね。レモンクリームかな。甘酸っぱいです。それにパンケーキ、口の中でしゅわしゅわしてとけていきますね」

「そうだな。もっと、甘いのかと思っていた」

「アップルシナモンティーも、爽やかで美味しいです。はー……来てよかった。やっぱり王都はいいですね……素敵なものが沢山ありますもの」

 私はアップルシナモンティーで喉を潤して、にこにこした。
 それからはっとして、まじまじとゼス様を見つめる。

「ごめんなさい! つい、いつもの調子で食べたり飲んだり話したりしてしまいました……」
「それの何がいけない?」

「それは、その……」

「君が何を気にしているのかはわからないが、俺はそのままの君でいい。嬉しそうに食事をしている君を見ていると、こちらまで嬉しくなる」
「ゼス様は、優しい人ですね。流石は黒騎士ゼス様です」

「その呼び名だが」
「黒騎士、ですか?」
「あぁ。……冒険者なのに騎士とは、妙ではないか?」

 確かに。
 冒険者とは騎士ではない。騎士とは、ゲイル様率いる騎士団の方々のことだからだ。
 そんな疑問をご自身で口にするのがなんだか面白くて、私は口元に手をあてるとくすくす笑った。

「何か、おかしいことを言っただろうか」
「いえ、本当にそうだなって思って。でも、ゼス様は冒険者というよりは、騎士に見えますものね。どことなく、品があるというか、優雅というか……」

「口元しか見えていないのに、そう感じるものなのか?」

「すくなくとも、野蛮には見えませんよ。もちろん、冒険者の方々が野蛮とは思っていませんけれど……! でも、ウェールス商会のサーガさんは、もっとこう、海の男! みたいな感じでワイルドです。ゼス様はワイルドではなく、優雅という感じです」

 サーガさんとはとある事件がきっかけで出会ったのだけれど。
 王都の港の中では一番大きな船を持っている、貿易業をしている大きな商会の社長さんである。
 元々は冒険者をしていて、そこで稼いだお金を元手に商会を立ち上げた若き社長さんだ。

 だから私の冒険者のイメージとは、サーガさんのようなワイルドな男性という感じだった。
 その意味で言うと、やっぱりゼス様は冒険者というよりは騎士様という気がする。

「リーシャは……ワイルドな男が好きなのか?」
「えっ、私? 好きな男性……?」

「あぁ」
「い、いえ、私は……私はもう、恋とかはいいかなって思っていて」

 私はとんでもないと首を振った。サーガさんは知り合いで、好きかどうかなんて考えたこともなかった。
 そもそも私よりもずっと年上だし。
 というか私は――私は、本当に、クリストファーが好きだったのだ。
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