25 / 162
カフェデートみたいな 1
しおりを挟むゼス様はしばらく沈黙していた。
他になにか用事があるのかしらと思いながら、私は辛抱強く沈黙の終わりを待った。
はからずしも、女神の噴水の前で見つめ合うみたいになっている。ゼス様、目は隠されてるけど。
ゼス様は目立つし、有名人なので、道ゆく人たちの視線が私たちに向けられている。
そんなには気にならないけど。
でも、どこのだれともわからない女と見つめあってた、とか、噂が立ったら申し訳ないわよね。
なんてことをぼんやり考えていたら、やっとゼス様が口を開いた。
「リーシャ……もし、よければ。昼食でも、一緒にどうだろうか」
「お昼ごはんですか?」
「あ、あぁ。君が嫌でなければ」
「嫌ではないですが、私と、ですか」
「君と」
「……はい」
まさかのお誘いに、私は少し考えて頷いた。
「このような風体の男と食事はしたくないだろうか」
「このような……仮面のことですか、それともフード?」
「両方だが」
気にしているのね、ゼス様。
なにか、脱げない理由があるのかしら。
呪われた仮面、みたいな。
聞くのは失礼だし、そっとしておこう。
「よくお似合いになっています。ゼス様こそ、私のような女と食事をしていいのでしょうか。私、ゼス様には情けない姿しか見せていませんし、迷惑ばかりかけているのに」
「迷惑はかけられていないし、情けないとも思っていない」
「では、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
私は深々と頭を下げた。
とくに断る理由もないし。お誘いをしていただけるのはありがたいことよね。
どうして誘ってくれたのかはわからないけれど、ゼス様は見た目とは違って皆にフレンドリーなのかもしれない。
「リーシャ、君は何を食べたい? 君の好きなものはなんだろうか」
「ゼス様の好きなものを食べに行きましょう」
「いや、君の好きなもので」
「私のですか……」
どうしよう。
よくよく考えたらここ一年以上、誰かと出かけることってなかった。
一人を楽しみすぎていて、男性とお食事に行くのにふさわしいお店って、何も思いつかない。
オシャレカフェ?
食堂、屋台、あとはなにかしら。レストラン。
わからないわ、ただでさえ経験に乏しいのに。
ゼス様をどこに誘えばいいの?
仮面とローブの男性の私生活、謎すぎる。
「え、ええと、では……やた……ではなくて、か、カフェに行きましょうか!」
屋台と言いかけて、私は言い直した。
せっかくのお食事だもの、屋台は失礼よね。
遊覧船を見ながらとろとろ角煮饅頭を食べたい気分だったのだけれど。
タルタルフィッシュサンドでもいいわね。
でも、女性が大きな口を開けてファストフードを食べるのはいけないわよね、私、クリストファーに一人で生きていけそうなところが嫌いって言われたばかりだし。
ゼス様にまで嫌な思いをさせたくないもの。
「中央街のアリスカフェ、新作のパンケーキが人気で……ぱ、パンケーキ……」
いや、駄目でしょ。
パンケーキは無いわよね……!
私は好きだけど、ゼス様は……どう考えてもパンケーキが似合わないもの。
「では、そこに」
「え……っ、あっ、はい……」
やっぱりレストランに、と、言えなかった。
ゼス様があっさり頷いてくれたので、今更意見を変えるのもな、ということもあったし。
ゼス様がパンケーキ好きの可能性も捨てきれなかったからだ。
36
お気に入りに追加
2,951
あなたにおすすめの小説
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
【完結】政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる