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カフェデートみたいな 1

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 ゼス様はしばらく沈黙していた。
 他になにか用事があるのかしらと思いながら、私は辛抱強く沈黙の終わりを待った。
 
 はからずしも、女神の噴水の前で見つめ合うみたいになっている。ゼス様、目は隠されてるけど。

 ゼス様は目立つし、有名人なので、道ゆく人たちの視線が私たちに向けられている。
 そんなには気にならないけど。
 でも、どこのだれともわからない女と見つめあってた、とか、噂が立ったら申し訳ないわよね。

 なんてことをぼんやり考えていたら、やっとゼス様が口を開いた。

「リーシャ……もし、よければ。昼食でも、一緒にどうだろうか」
「お昼ごはんですか?」

「あ、あぁ。君が嫌でなければ」
「嫌ではないですが、私と、ですか」

「君と」
「……はい」

 まさかのお誘いに、私は少し考えて頷いた。

「このような風体の男と食事はしたくないだろうか」
「このような……仮面のことですか、それともフード?」
「両方だが」

 気にしているのね、ゼス様。
 なにか、脱げない理由があるのかしら。

 呪われた仮面、みたいな。
 聞くのは失礼だし、そっとしておこう。

「よくお似合いになっています。ゼス様こそ、私のような女と食事をしていいのでしょうか。私、ゼス様には情けない姿しか見せていませんし、迷惑ばかりかけているのに」

「迷惑はかけられていないし、情けないとも思っていない」
「では、よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」

 私は深々と頭を下げた。
 とくに断る理由もないし。お誘いをしていただけるのはありがたいことよね。
 どうして誘ってくれたのかはわからないけれど、ゼス様は見た目とは違って皆にフレンドリーなのかもしれない。

「リーシャ、君は何を食べたい? 君の好きなものはなんだろうか」
「ゼス様の好きなものを食べに行きましょう」

「いや、君の好きなもので」
「私のですか……」

 どうしよう。
 よくよく考えたらここ一年以上、誰かと出かけることってなかった。
 一人を楽しみすぎていて、男性とお食事に行くのにふさわしいお店って、何も思いつかない。

 オシャレカフェ? 
 食堂、屋台、あとはなにかしら。レストラン。
 わからないわ、ただでさえ経験に乏しいのに。

 ゼス様をどこに誘えばいいの?
 仮面とローブの男性の私生活、謎すぎる。

「え、ええと、では……やた……ではなくて、か、カフェに行きましょうか!」

 屋台と言いかけて、私は言い直した。
 せっかくのお食事だもの、屋台は失礼よね。

 遊覧船を見ながらとろとろ角煮饅頭を食べたい気分だったのだけれど。
 タルタルフィッシュサンドでもいいわね。

 でも、女性が大きな口を開けてファストフードを食べるのはいけないわよね、私、クリストファーに一人で生きていけそうなところが嫌いって言われたばかりだし。

 ゼス様にまで嫌な思いをさせたくないもの。

「中央街のアリスカフェ、新作のパンケーキが人気で……ぱ、パンケーキ……」

 いや、駄目でしょ。
 パンケーキは無いわよね……!
 私は好きだけど、ゼス様は……どう考えてもパンケーキが似合わないもの。

「では、そこに」
「え……っ、あっ、はい……」

 やっぱりレストランに、と、言えなかった。
 ゼス様があっさり頷いてくれたので、今更意見を変えるのもな、ということもあったし。
 ゼス様がパンケーキ好きの可能性も捨てきれなかったからだ。
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