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進路相談 2
しおりを挟む教員室の座り心地のよさそうな椅子でお昼寝をしていたみたいだ。
ふあっと欠伸をしながら、おいでおいでと私に手招きをした。
「まぁ、とりあえずそこに座りなさい、リーシャ君。今、お茶を出してあげよう」
「ありがとうございます、先生」
先生は机に置いてある花柄のやたら可愛らしいポットから、こぽこぽとお茶をカップに入れてくれた。
カップも花柄で可愛い。
シグルスト先生が持つと、ポットもカップもすごく小さく見える。
ソファに座る私の前にあるテーブルにお茶を置いて、シグルスト先生も対面式ソファの私の前に座ってくれた。
白シャツに黒いベストを着ているけれど、いつも筋肉でベストがぱつぱつしている。
ボタンがはじけ飛びそう。豊満だわ、先生。
ベストのサイズ、間違えているんじゃないかしらって、いつも思う。
「…………その、だな」
「はい」
「…………ええと」
シグルスト先生は困ったような顔をして、視線を彷徨わせる。
「先生?」
「リーシャ君。僕は、男女の問題は苦手でね。可哀想だとは思うが、恋愛相談は別の人に」
私はぬるいお茶を飲んだ。これはカモミールティー。ぬるくても美味しい。
「先生にまでもう噂が広まっているのですね……」
「まぁ……ベルガモルド公爵家のことだから。今日はその話でもちきりだね」
「その話をしに来たわけではないので、大丈夫です、先生」
「よかった」
シグルスト先生はほっとしたように息を吐き出した。
三十代の先生はどうやら独身を謳歌しているらしい。恋人の噂もきかない。
そんな先生に恋愛相談なんかしないし、そもそも私は愛だの恋だのはもう懲り懲りなのだわ。
「私、就職先を探しています」
「就職先を?」
「はい。できることなら王都がいいです。どこかのお屋敷の侍女でもいいですし、お城の侍女……は、無理かも知れませんが、メイドでもいいです。私の成績、そこまで悪くないと思いますので、騎士団の会計係とか、文官の雑用係とか……ともかく、働きたいのです」
「アールグレイス伯爵家の君が、働く必要があるかな」
「あります。私は自立をしたいのです」
「自立……」
「はい。私、ご存じの通り色々ありましたので、卒業後は結婚などしないで、働こうと考えています」
「そうなんだね。別に否定はしないが……この時期から新しい働き口を探すとなると、結構限られてしまうかもしれない。……少し待っていてくれるかい、探してみるから」
「ありがとうございます、先生」
私は深々と頭をさげた。
先生にも頼んだし、あとはお兄様にも相談して――自分でも、探してみよう。
王都には就職斡旋所もあるし。
働き先がみつかってしまえば、忙しいを理由にしてクリストファーたちの結婚式に行かなくてすむかもしれないもの。
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