20 / 162
進路相談 2
しおりを挟む教員室の座り心地のよさそうな椅子でお昼寝をしていたみたいだ。
ふあっと欠伸をしながら、おいでおいでと私に手招きをした。
「まぁ、とりあえずそこに座りなさい、リーシャ君。今、お茶を出してあげよう」
「ありがとうございます、先生」
先生は机に置いてある花柄のやたら可愛らしいポットから、こぽこぽとお茶をカップに入れてくれた。
カップも花柄で可愛い。
シグルスト先生が持つと、ポットもカップもすごく小さく見える。
ソファに座る私の前にあるテーブルにお茶を置いて、シグルスト先生も対面式ソファの私の前に座ってくれた。
白シャツに黒いベストを着ているけれど、いつも筋肉でベストがぱつぱつしている。
ボタンがはじけ飛びそう。豊満だわ、先生。
ベストのサイズ、間違えているんじゃないかしらって、いつも思う。
「…………その、だな」
「はい」
「…………ええと」
シグルスト先生は困ったような顔をして、視線を彷徨わせる。
「先生?」
「リーシャ君。僕は、男女の問題は苦手でね。可哀想だとは思うが、恋愛相談は別の人に」
私はぬるいお茶を飲んだ。これはカモミールティー。ぬるくても美味しい。
「先生にまでもう噂が広まっているのですね……」
「まぁ……ベルガモルド公爵家のことだから。今日はその話でもちきりだね」
「その話をしに来たわけではないので、大丈夫です、先生」
「よかった」
シグルスト先生はほっとしたように息を吐き出した。
三十代の先生はどうやら独身を謳歌しているらしい。恋人の噂もきかない。
そんな先生に恋愛相談なんかしないし、そもそも私は愛だの恋だのはもう懲り懲りなのだわ。
「私、就職先を探しています」
「就職先を?」
「はい。できることなら王都がいいです。どこかのお屋敷の侍女でもいいですし、お城の侍女……は、無理かも知れませんが、メイドでもいいです。私の成績、そこまで悪くないと思いますので、騎士団の会計係とか、文官の雑用係とか……ともかく、働きたいのです」
「アールグレイス伯爵家の君が、働く必要があるかな」
「あります。私は自立をしたいのです」
「自立……」
「はい。私、ご存じの通り色々ありましたので、卒業後は結婚などしないで、働こうと考えています」
「そうなんだね。別に否定はしないが……この時期から新しい働き口を探すとなると、結構限られてしまうかもしれない。……少し待っていてくれるかい、探してみるから」
「ありがとうございます、先生」
私は深々と頭をさげた。
先生にも頼んだし、あとはお兄様にも相談して――自分でも、探してみよう。
王都には就職斡旋所もあるし。
働き先がみつかってしまえば、忙しいを理由にしてクリストファーたちの結婚式に行かなくてすむかもしれないもの。
57
お気に入りに追加
2,944
あなたにおすすめの小説
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!

不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる