幼馴染の婚約者に浮気された伯爵令嬢は、ずっと君が好きだったという王太子殿下と期間限定の婚約をする。

束原ミヤコ

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 ベルガモルト家からの謝罪 2

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 アシュレイ君を抱きしめて髪を撫でる私から、お兄様はアシュレイ君をひっぺがすと、部屋の外へとポイっと追い出した。

「お父様、ひどい!」
「後できちんと話してあげるから、待っていなさい。リーシャだって女性なのだから、寝起きを見られるというのは恥ずかしいものだよ」

「リーシャ、ごめんなさい」
「大丈夫よ、あとで一緒にお散歩しましょうね」
「やった!」

 素直に謝ってくれるアシュレイ君に微笑むと、お兄様は無情にもパタンと扉を閉めてしまった。
 それから困ったように笑うと、ベッドサイドに腰掛けて足を組んだ。

「ベルガモルド家に行ってきたよ、リーシャ」
「……ええっ、も、もう?」

「何事も、早い方がいいからね。いくら我が家が格下といえども、泣き寝入りするわけにはいかない」
「それで……」

「王都のタウンハウスにちょうど、公爵夫妻も滞在していてね。もうすぐクリストファーがリーシャを連れて領地に戻るから、そのついでに久しぶりに王都で過ごそうということになったらしい。……まぁ、つまりは、ご両親ともクリストファーの不義を知らなかったということだ」
「そうなのですね……」

 公爵夫妻は、優しくてよい方々だ。
 私のことも、実の娘のように可愛がっていてくれた。
 なんだかとっても、申し訳ない気持ちになる。私のせいで、お二人にも悲しい思いをさせてしまった。

「二人とも、真っ青になって、それから真っ赤になって、クリストファーを叱りつけていたよ。いますぐリーシャに謝罪に行って、シルキーとは別れろってね」
「……謝罪ですか」

 気持ちはありがたいのだけれど、クリストファーが謝ってきたとしても、浮気の事実が変わるわけじゃないもの。
 とても、今まで通り、元通りになれるなんて思えない。

「その顔だと、謝罪はいらないという感じかな」
「……はい。婚約は白紙すると言われました。あれはクリストファーの、本当の気持ちだと思います。それを隠して謝ってもらって、私と結婚したところで……シルキーともう一度浮気をするかもしれませんし、他の女性に惹かれるかもしれません」

「リーシャならそう言うと思ったよ。でも、一応リーシャの気持ちを聞いてから、返事をしようと思って」
「ありがとうございます、お兄様。……婚約は、なかったことに。シルキーと幸せになってくださいと、伝えてください」

「それでいいの?」
「はい。……私は、これからどうやって生きていくのか、きちんと考えたいと思います」

 そうよね。
 ちゃんと考えなきゃ。
 今まで私の頭の中は、クリストファーとの結婚でいっぱいだった。
 結婚さえしてしまえば、幸せになれるって思ってた。
 
 そうじゃないわよね。
 男性に寄りかかるような人生なんて、真っ平だ。
 私は、一人が好きだもの。

 だったら一人で生きていこう。お兄様もいるし、アシュレイ君もいるし。
 大切な家族に囲まれているのだから、それ以上の愛情なんて、いらないもの。

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