「君を愛さない」と言った公爵が好きなのは騎士団長らしいのですが、それは男装した私です。何故気づかない。

束原ミヤコ

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クラウス様のご趣味について

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 ディアブロの騎士団本部までの護送を、エニードが引き受けると申し出た。
 だがそれはクラウスによって拒否され、数日ルトガリア家の牢に投獄して、週明けに共に王都に連れていこうということになった。

 この際、ランスリアも共に王都に向かうということに決まった。
 ランスリアはきちんとした教育を受けていない。
 竜たちを騎士団本部で預かり、ランスリアはラーナと共に王都の学園に通うことになる。

 一先ずは──そういうことで、話がまとまった。
 ディアブロは大人しく投獄され、ランスリアはぼさぼさの髪も、ぼろぼろの服も徹底的に綺麗にしますと侍女たちが宣言して、屋敷の中へと連れていかれた。

 竜たちは、広大な公爵家の敷地でいったんは飼うことになったが、週明けには王都だ。
 騎士団本部で一時預かることになれば、デルフェネックを預かるときにも喜んでいたエヴァンが、それはそれは喜ぶだろう。

 レミリアは「エニード様、また会いに来ますね。今度は手製の菓子を持ってきます。是非召し上がっていただきたいのです。エニード様、レミリアはいつでもエニード様を想っています」と何度も言って、エニードの手を握って涙ながらに別れを惜しみ、マリエットと共に帰っていった。
 マリエットは別宅を整理して、ルトガリア家に戻ってくるらしい。

 エニードは「一人では寂しいですからね、ぜひいらしてくださいお義母様」とにこやかにそれを受け入れたが、クラウスはレミニアのこともマリエットのことも「もう来なくていい。そうだ、塩をまこう」と言って、嫌がっていた。
 確執は中々に、根深いものである。 

 嵐のような出来事が通り過ぎ、落ち着いた時には既に夕方近くなっていた。
 すっかり静かになった庭には、アイスドラゴンと翼竜たちが体を丸めて休んでいる。
 実家に来たような落ち着きをみせている竜たちは、ルトガリア家は自分たちにとってもランスリアにとっても安全な場所だと判断したようだった。

「アイちゃん。角を切り落として悪かったですね」
「ぐるる」

 エニードは、アイちゃんに謝った。
 アイスドラゴンも翼竜たちも、エニードの前に頭をさげている。
 王者の威嚇──ではなく、アイスドラゴンの角を簡単に切り落としたことで、エニードのほうが強いのだと、彼ら、もしくは彼女たちは、悟ったようだった。
 アイちゃんは怒っていない。角ぐらいはべつにいいと言っているように思える。
 アイちゃんの角はランスリアが「竜の角ですから、何かに使用できるかなとも思いますので、さしあげます」と、エニードにくれた。

 野良犬が食べかけの骨を持ってきてくれたような愛らしさを感じながら、エニードはありがたくそれを受け取った。
 竜の角からは剣や盾を作ることができる。エニードはどんな剣でも使いこなせるのであまり剣に拘ることはないのだが、強い装備を求める者にとっては希少価値が高い高級品である。

 両手で抱えてやっと持つことができる大きさの角は、一先ずは使用人たちがルトガリア家の中に運んでくれた。
 クラウスやキースが、エニードに相応しい剣をつくると勢いよく言っていたので、そのうち剣に加工されるのかもしれない。

「それにしても、飛竜やアイスドラゴンをこんなに近くで見たのははじめてです。ディアブロは背に乗っていましたね。馬のように背に乗れるというのは素晴らしい。なんせ、移動が速くなります」
「エニード、いや、セツカ殿……ではなく、エニード」
「エニードです、クラウス様。セツカはあだ名です。本名ではありません。ですが、クラウス様の呼びやすいほうでかいませんよ」
「エニード……」

 エニードがセツカだと気づいてから、クラウスはエニードから一定の距離を保っている。
 アイスドラゴンを撫でていたエニードは、少し離れた場所にいるクラウスの正面へと、ずいっと体をすすめた。

「え、エニード、その、突然近寄られると、心の準備が……!」
「クラウス様。婚礼の儀式をすませてから、色々ありましたが、今更初対面のような反応をするのはおやめください。私はあなたの妻、エニードです。そして、騎士団長セツカでもあります。それだけのことではないですか」
「し、しかし、初恋の人が妻だったのだ……そんな、私にとって都合のいい偶然はあるだろうか。私はエニードを愛しているのに、君がセツカ殿だと思うととても尊く……私は今すぐにでも、フィロウズに殴ってもらう必要が……」
「国王陛下は定期的にクラウス様を殴っているのですか」
「そういうわけではないが、私を殴れるのは彼ぐらいだからな」
「では今後は私がその役目をしましょう。殴るのは得意です」
「い、いや、その、それではご褒美になってしまう」

 殴られるのが、ご褒美。
 不思議なこともあるものだと、エニードは首をひねる。
 それにしても、クラウスは──。
 エニードは大切なことを確かめなくてはいけないと思い、きょろきょろと周囲に視線を送った。
 ここにはエニードとクラウスと竜たちしかいない。
 だから問題ないだろう。

「クラウス様は私を愛しているとおっしゃいますが、私は女です」
「あぁ。女性だ」
「セツカのことは男だと思っていましたね」
「そうだが」
「私は女です、クラウス様」
「エニード。勘違いを訂正しなくてはならないな。私は男が好きというわけではないのだ」
「……そうなのですか?」

 クラウスは大きく息を吸って、それから心を落ち着かせるように吐き出した。
 そして、エニードの手を握ると「座って話そう」と、エニードを庭園のガゼボに案内した。

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