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血吸い花
アルカード家の屋敷
しおりを挟むクラウスさんは荷物をアパートの前に停めてあった黒いセダンに乗せて、運転席に乗り込んだ。
私は呂希さんのバイクの後ろに乗せてもらい、慣れ親しんだ――けれど思い入れが少しもないアパートを後にした。
アパートからはそこまで遠くはない、駅を挟んで反対側にある、立ち並ぶ民家を抜けた更に奥の、鬱蒼と木々が茂った森を背後に背負った大きな御屋敷へと私はやってきた。
鉄製の柵で周囲は覆われていて、入り口には自動開閉式の門がある。
開かれた門に呂希さんのバイクが入って行く。
お屋敷まで歩くと数分はかかってしまうぐらいに、距離がある。
石畳で覆われた広い通路の横には背の高い木々が鬱蒼と茂っている。
お屋敷の前に呂希さんはバイクを止めた。
「ようこそ、僕の家に。杏樹ちゃんが気に入ってくれると良いんだけど……」
「おおきいです、呂希さん」
「急におおきいとか言われると、さすがの僕でも照れちゃう……」
呂希さんは、口元に手を当てて、良く分からないことを言った。
あたりはもう真っ暗で、黒々とした森の中にお屋敷が建っているように見える。
街のあかりが遠いせいか、街中では空がいつもぼんやりと白んでいるせいで良く見えない星が、夜空にくっきりと浮かんでいる。
お屋敷は、私の住んでいたアパートよりも大きい。
古めかしい洋館で、呂希さんと一緒にアパートのお部屋で見た、映画に出てくる吸血鬼が住んでいる古城そのものに見えた。
玄関の扉を呂希さんがあける。
南京錠とか、古い鍵を想像していたけれど、差し込むタイプのカードキーだった。
「なんだか、イメージと違いますね……」
「使用人がずらっと並んで出迎えてくれそうでしょ。あと、馬車とか」
「ええと、はい」
「昔はそうだったんじゃないかな、知らないけど。門や玄関は、クラウスがリフォームしたんだよ。新しい物が好きなんだよ、クラウス。顔に似合わず」
「新しい物?」
「家電も家具も車も、新しいに越したことはありません。古びたものよりもよほど電気効率が良く、また、便利なものが多いものです」
車から荷物を持って降りてきたクラウスさんが、私と並んで言った。
呂希さんが扉を開くと、明りが勝手に灯った。
とっても明るい。
シャンデリアとかではなくて、普通の丸形蛍光灯が天井についている。
広い玄関を抜けると、リビングルームにはソファセットと、大きな壁かけテレビがあった。
リビングルームの机には、パソコンが何台も置かれている。
「広いけど、ここにいるのは僕と、おまけのクラウスだけ。家事はクラウスの仕事だから、杏樹ちゃんは何にもしなくて良いから。自由に過ごしてね」
呂希さんは私の手を引っ張って、ふかふかの黒いソファに座らせてくれた。
それから自分も私の隣に座ると、にこやかに言った。
「杏樹様の荷物を運びましょう。本当に呂希様と同じ部屋でよろしいのですか?」
私の荷物を持ってくれているクラウスさんが尋ねる。
私も手伝おうと思って立ち上がろうとしたけれど、呂希さんが手を離してくれないので、立ち上がることはできなかった。
「ありがとうございます、一緒で、良いです」
「杏樹ちゃん、嬉しい……!」
「すごく広いから、ひとりだとどうして良いかわからなくなってしまいそうで……でも、迷惑じゃないですか?」
「迷惑なわけないよ。やっぱりこれはもう、結婚だよね、事実婚」
「……その、この大きな家に、ずっと二人で?」
「ずっと、っていうわけでもないんだけど、……何年前かな。あれは、僕が五歳の時だったかな。クラウスと二人でここにきて、それからはここで暮らしているよ」
「私、邪魔じゃないですか……?」
「邪魔なわけない。良い、杏樹ちゃん。杏樹ちゃんがいて嬉しことはあっても、迷惑とか邪魔なんてことはいっさいないから」
「……ありがとうございます」
私は、呂希さんの言葉に恐縮して体を小さくした。
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