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支配の蠱毒
遺物回収
しおりを挟む呂希さんは辰爾先生の横に落ちている小さな壺を拾った。
それから、「じゃ、帰ろう」と私に手を伸ばした。
私はその手をとって、恐る恐る辰爾先生を見下ろした。
齧られた指先は傷もなく、痛みもない。
なんとはなしに、ほろ甘い喪失感だけが残っている。
「大丈夫、生きてるよ」
「呂希さん、助けに来てくれてありがとうございました」
「うん。遅くなってごめんね」
申し訳なさそうに眉根を寄せながら、呂希さんは私の目尻を拭ってくれる。
もう涙は止まっていた。
「話はあと。早く逃げよう。ここに残ってると、うるさいのに捕まる」
私と呂希さんが学校から出ると、校門の前に黒い車が何台か停まっていた。
車から神社の祭礼の時の神主さんの衣装のような姿をした方々が何人か降りてくる。
その方々は、皆一様に陰陽の模様の描かれた白い布地で顔を隠している。
「回収お疲れ様です、呂希・アルカード」
その中の一人が、呂希さんに声をかけた。低く落ち着いた男性の声だった。
「摂理様に連絡をとりますか?」
「うん。仕方ないね。……杏樹ちゃん、もう少し頑張ってくれる?」
「私は大丈夫です」
「じゃあ、行こうか。こんな気持ち悪いもの、持っていたくないし」
呂希さんは片手に持った小さな壺を、目の前に掲げてみせた。
「回収完了。摂理に、いつもの場所で待っているように言って」
小さな壺を呂希さんが手のひらの中で握りつぶすようにすると、その壺はどこかに消えてしまった。
呂希さんは私の手を引っ張って、校門の横に停めてある大型バイクに跨る。
ヘルメットを渡してくれたので、私は初めて被るヘルメットに戸惑いながらもなんとか被り、バイクの後ろのシートに跨った。
そういえば、携帯電話も鞄もなにもかもを、教室に忘れてきてしまった。
でも、鞄の中には何一つ大切なものなんかないことに気付いて、私は小さく笑った。
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