百鬼夜行祓魔奇譚

束原ミヤコ

文字の大きさ
上 下
22 / 34
支配の蠱毒

遺物回収

しおりを挟む


 呂希さんは辰爾先生の横に落ちている小さな壺を拾った。

 それから、「じゃ、帰ろう」と私に手を伸ばした。
 私はその手をとって、恐る恐る辰爾先生を見下ろした。

 齧られた指先は傷もなく、痛みもない。
 なんとはなしに、ほろ甘い喪失感だけが残っている。

「大丈夫、生きてるよ」

「呂希さん、助けに来てくれてありがとうございました」

「うん。遅くなってごめんね」

 申し訳なさそうに眉根を寄せながら、呂希さんは私の目尻を拭ってくれる。
 もう涙は止まっていた。

「話はあと。早く逃げよう。ここに残ってると、うるさいのに捕まる」

 私と呂希さんが学校から出ると、校門の前に黒い車が何台か停まっていた。
 車から神社の祭礼の時の神主さんの衣装のような姿をした方々が何人か降りてくる。

 その方々は、皆一様に陰陽の模様の描かれた白い布地で顔を隠している。

「回収お疲れ様です、呂希・アルカード」

 その中の一人が、呂希さんに声をかけた。低く落ち着いた男性の声だった。

「摂理様に連絡をとりますか?」

「うん。仕方ないね。……杏樹ちゃん、もう少し頑張ってくれる?」

「私は大丈夫です」

「じゃあ、行こうか。こんな気持ち悪いもの、持っていたくないし」

 呂希さんは片手に持った小さな壺を、目の前に掲げてみせた。

「回収完了。摂理に、いつもの場所で待っているように言って」

 小さな壺を呂希さんが手のひらの中で握りつぶすようにすると、その壺はどこかに消えてしまった。
 呂希さんは私の手を引っ張って、校門の横に停めてある大型バイクに跨る。
 ヘルメットを渡してくれたので、私は初めて被るヘルメットに戸惑いながらもなんとか被り、バイクの後ろのシートに跨った。

 そういえば、携帯電話も鞄もなにもかもを、教室に忘れてきてしまった。

 でも、鞄の中には何一つ大切なものなんかないことに気付いて、私は小さく笑った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗
キャラ文芸
西暦1998年、日本。 とある田舎町。そこには、国の重大機密である戦闘魔法使い一族が暮らしている。 その末裔である中学3年生の主人公、羽黒望は明日から夏休みを迎えようとしていた。 盆に開催される奇祭の係に任命された望だが、数々の疑惑と不穏な噂に巻き込まれていく。 穏やかな日々は気付かぬ間に変貌を遂げつつあったのだ。 戦闘、アクション、特殊能力、召喚獣的な存在(あやかし?式神?人外?)、一部グロあり、現代ファンタジー、閉鎖的田舎、特殊な血統の一族、そんな彼らの青春。 章ごとに主人公が変わります。 注意事項はタイトル欄に記載。 舞台が地方なのにご当地要素皆無ですが、よろしくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...