11 / 34
支配の蠱毒
当然のように一緒に帰る
しおりを挟む呂希さんがバニラアイスの乗ったメロンソーダを飲み終わる頃、私のアルバイトも終了の時間になった。
夜の時間帯は、それなりに忙しい。
お水を出したり、注文をとったり、お食事を運んだり、空になったお皿を運んで洗ったり。
呂希さんと話す時間もないぐらいで、呂希さんはカウンター席に静かに座っていた。
暇を持て余しているのか私を見ていることが多かったので、時々目があった。
どうして良いのか分からずに私が曖昧な笑みを浮かべると、嬉しそうに目を細める。
何を考えているのかよくわからない。
わからないけれどーーでもなんとなく、くすぐったいような気持ちになった。
「杏樹、お疲れ様。気をつけて帰ってね。夜道、心配だったけど、今日は呂希君が一緒だから大丈夫ね」
メイド服から制服に着替えてお店の中に戻ると、雛菊さんが声をかけてくれた。
「僕がいるから大丈夫だよ、雛菊さん。杏樹ちゃんのことは、僕が守るから」
「頼りにしているわね。この子、人にあまり頼らないところがあるから」
「杏樹ちゃんが頼らない分、僕が構い倒すから大丈夫」
「それなら良かった」
私が口を挟む暇もなく、雛菊さんと呂希さんの会話が弾んでいる。
呂希さんとはそういう関係じゃないとか、会ったばかりだとか、色々説明したほうが良いのだろう。
けれど結局何も言うことができないまま、雛菊さんに挨拶をすると、私は呂希さんと一緒に家路についた。
呂希さんは、着痩せをするのか、服を着ているとなんとなく体が薄いように見える。
顔を見るためには見上げなければいけないほどに背は高くて、少しだけ猫背だ。
月明かりと心許ない外灯に照らされた白い髪や肌は、どことなく幻想的で、隣を歩いているのに別の世界の人のように感じられる。
「呂希さん、あの、呂希さんの家は、どちらなんですか?」
私と同じ方向に躊躇いなく歩いていく呂希さんに尋ねてみる。
送ってくれるのは嬉しい。
夜道を一人で歩くのは慣れているけれど、一人よりも二人の方が、やっぱり心強い。
でも、呂希さんには服があるし、もう体も大丈夫そうだし。
帰らなくて、良いのかしら。
「何言ってるの、杏樹ちゃん。杏樹ちゃんの家が僕の家だよ?」
「呂希さん、家がないんですか?」
どことなく浮世離れした雰囲気のあるひとなので、決まった定住地などもないのかもしれない。
呂希さんの話をどこまで信じて良いのかわからないけれど、どうにもやっぱり現実味が薄い。
住所不定無職、と言われた方が、まだ納得できる。
「そうそう、家がないんだよ」
「普段はどうしているんです?」
「公園のベンチとかで寝ているね」
「それは、大変ですね……」
私は俯いた。
なんとかしてあげたいけれど、私もお金はない。
「ごめんなさい、私、お金がなくて。今月はもうお財布に五千円しかないんですけれど、呂希さんが困っているなら、あげます」
「まさかこんなにあっさり信じちゃうなんて……。杏樹ちゃん、路上でいかがわしいお兄さんに捕まって、幸運のお守りとか買っちゃうタイプ?」
「いえ、買えるほどのお金がないので」
「大丈夫だよ。僕のお仕事、結構儲かるから。信じてないでしょ、杏樹ちゃん」
「なんだか、現実味がなくて」
「それじゃ、今から一仕事しようか。杏樹ちゃん、アルバイトしてみる?」
良いことを思いついたように呂希さんが言った。
私は何のことかと首を傾げる。
呂希さんは私の姿を上から下まで見下ろして「せっかくなら、メイド服の杏樹ちゃんを連れて帰ってくればよかった」と心底残念そうに呟いた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜
羽瀬川璃紗
キャラ文芸
西暦1998年、日本。
とある田舎町。そこには、国の重大機密である戦闘魔法使い一族が暮らしている。
その末裔である中学3年生の主人公、羽黒望は明日から夏休みを迎えようとしていた。
盆に開催される奇祭の係に任命された望だが、数々の疑惑と不穏な噂に巻き込まれていく。
穏やかな日々は気付かぬ間に変貌を遂げつつあったのだ。
戦闘、アクション、特殊能力、召喚獣的な存在(あやかし?式神?人外?)、一部グロあり、現代ファンタジー、閉鎖的田舎、特殊な血統の一族、そんな彼らの青春。
章ごとに主人公が変わります。
注意事項はタイトル欄に記載。
舞台が地方なのにご当地要素皆無ですが、よろしくお願いします。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


第一機動部隊
桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。
祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる