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レーヴェ様からのお願い 1
しおりを挟むレーヴェ様は、年末の式典のためのドレスを、それはもう何着も作ってくださった。
毎日のように私に着せては、「やはりこちらの方が」「いや、やはりこちらの方が可愛い」「いやいや、やはり、こっちか……!?」などと言いながら、全方向から私を眺めることを繰り返していた。
高級なドレスをたくさん作ってもらったのは初めてだし、取っ替え引っ替え着せられた挙句、綺麗に髪をゆったり、それはそれは高級そうなアクセサリー類で飾られた経験ももちろんない私は、着せ替え人形のように大人しくなすがままになりながら、体をかちかちに固めていた。
ダイヤの首飾りとか、アメジストの耳飾りとか、ルビーの髪飾りとか。
ともかくどれもこれもとてもとても高級そう。
身につけるだけで震えるし、もしどこかに引っ掛けたらとか、転んで破損してしまったらとか思うと、かちかちに固まっている体がさらにがちがちになってしまう。
「ルーナ、表情が硬いのが気になるのだけれど、ドレス、嬉しくない?」
「嬉しいです、とっても嬉しいです、レーヴェ様。でも、高級なものを身につけたことがなくて……この首飾りひとつで、クリーチェ伯爵家の一年間どころか、数年間の生活資金になると思うと、体が、かちかちに、固くなってしまって……」
「なんて可愛いんだルーナ、どんな宝石よりも可愛くて美しい私のルーナ……できれば、その言葉は私を誉めるときに使ってほしいものだね」
「どの部分を……? 生活資金とか、高級、とか、褒め言葉でしょうか……」
「可愛い、ルーナ」
レーヴェ様がすごくにこにこしている。
私はレーヴェ様のことが大好きだけれど、やっぱり時々、よくわからないのよね。
今日もお仕事が終わって屋敷に戻ってきたレーヴェ様は、私にドレープを重ねたような薄桃色のドレスを着せて、パールの中心に大粒のルビーのある首飾りをつけて、リビングルームで眺めている。
年末の式典を目前に控えた今は、外はもう寒い。
リビングルームは暖炉の炎がパチパチと燃えていて、暖かい。
レーヴェ様の魔力で安定した気候がもたらされているこの国でも、四季というものは多少は存在している。
雪に閉ざされるほどに寒くなったりはしないし、耐えられないほど暑くなったりもしないのだけれど、冬となれば少しは肌寒いし、ごく稀にちらちらと雪がちらつくこともあるし、積もることもある。
レーヴェ様の話では「年中春とか、風情がないしね」ということだった。
季節の移り変わりもレーヴェ様の魔力が齎してくれるものだと思うと不思議。
それに、とっても大変な役割をされているのだなと、尊敬するばかりだ。
「私のルーナ、もうすぐ君を皆に見せびらかせると思うと、うきうきしてしまうね」
「見せびらかされるほど、大した女ではないですよ、私」
「世界一可愛くて可憐だよ、ルーナは。今日のドレスも、可愛い。やっぱり悩んでしまうね。どのドレスも可愛い」
「ありがとうございます、レーヴェ様。私、高級なものばかり、着させていただいて……勿体無くて」
「お金というものはね、あれば、使った方が良いのだよ。もちろん、必要以上に使用して、国を傾けたりするのはよくないことだけれど、ルーナのためにドレスを数着作ったり、装飾品を揃えるぐらい、なんでもないのだから」
「はい……」
「装飾品も、購入したのだから、これはルーナのもの。いらなかったら、たとえば投げ捨てても、別に構わないのだよ」
「そんなことはしません……っ、レーヴェ様にいただいたものを、投げ捨てるなんて……」
「それでは、堂々と身につけていて。私の送った装飾品を身につけたルーナは、私のものという感じがして、とても良い」
レーヴェ様はソファから立ち上がると、暖炉の前に立っている私の体をぎゅっと抱きしめた。
今日のレーヴェ様は尻尾がある。背中に腕を回すと、ふさふさの九本の尻尾が手に当たる。
ふかふかしていて気持ち良い。
「……あのね、ルーナ」
「はい、どうしました、レーヴェ様?」
「私は、とても悩んでいて……ルーナのドレスも、そうなのだけれど、それ以外にも」
「何か悩みがあるのですか? 私でよければ、お話ししてくださいませんか……? 私、レーヴェ様のお役に立ちたいと、いつも、思っています」
いつもよりも真剣な声音に、私は心配になりながら、レーヴェ様を見上げた。
美しい長い銀の髪が、私の顔に触れる。
憂を帯びた金の瞳が、私の瞳を覗き込むようにして見つめている。
「ありがとう、ルーナ。愛しているよ」
「は、はい……私も、レーヴェ様が大好きです。だから、悩んでいらっしゃるの、心配です……」
「可愛い、可愛い、ルーナ、可愛い……こんなに可愛いルーナを、見せる、とか、私には耐えられない、いや、でも、しかし……」
「レーヴェ様、もしかして、……やっぱり、式典への参加を悩んでいらっしゃるのでしょうか……? 私、大丈夫です。レーヴェ様が、しきたりを気にされているのなら、屋敷から出たいなんて我儘、言いません。ここにいる私は十分満ち足りていて、……それは確かに、レーヴェ様と一緒にパーティに出てみたいと、思いますけれど、どうしてもというわけではなくて……」
レーヴェ様は私を連れて、年末の式典に参加するとおっしゃってくれたけれど。
でも、長年の神官家のしきたりを変えるのはよくないことかもしれないし。
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