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歩み寄るのも大切です
しおりを挟む私の手を握って、すまなそうに目を伏せるシルディスを見つめながら私は考える。
諸々の怒りが、喚き散らしたらスッと引いていったし、この方はもしかしたらお馬鹿さんなのかもしれないと思ったら、若干優しい気持ちも湧いてきたような気もする。
「あの……つかぬことをお聞きしますけれど」
「ミエレ。先ほどお前は俺を、シルディスと。それから、遠慮のない言葉遣いで話してくれただろう。俺は、嬉しかった。レーヴェも俺にあのように話す」
なぜこの方の人間関係の基準が全部レーヴェ様なのかしら。
ご友人とは聞いているし、仲良しなのでしょうけれど。
「先ほどは私、腹を立てておりましたの。皇帝陛下に向かって、あのような口のきき方、普段ならしませんのよ」
「あれで良い。むしろ、あれが良い」
「シルディス様」
「シルディス、と。お前と仲良くなれて、俺は嬉しい。……俺はお前が好きだ。それに俺は、何というか、怖いだろう? 俺に遠慮なく話をするのはレーヴェぐらいのものだ。そして、お前で二人目だ、ミエレ」
シルディス様──そこまで言うのなら、シルディスで良いか。
シルディスは、私の手を握りながら、きらきらした視線を私に向けてくる。
嬉しそうね。犬みたい。
「……じゃあ、シルディス」
「あぁ。ミエレ」
「あなたは私のことが好きだから、妻にしようとしたのね?」
「そうだ。……なかなか口に出せなかったのだがな。花嫁選定の場でお前を見た時から、好きだった。しかしお前は、その……花嫁選定には乗り気ではないようだったし、俺のことを嫌がっているようだから……思いあまって閉じ込めてしまった」
「思いあまって」
「あぁ。レーヴェに怒られたから、鎖は外したのだが……初夜についても、それはもう怒られた。ミエレが可哀想だ、海に沈め暴力男と、罵られた」
「それはそう。本当にそう」
私はシルディスを睨みつけながら、こくこくと頷く。
シルディスの友人なのだから、ろくでなしに違いないって思っていたけれど、レーヴェ様は女性の気持ちが理解できる良い方なのかもしれない。
清廉潔白で皆に平等で優しい神官長様だと評判ではあるので、その通りの方なのかもしれない。
良かった。
レーヴェ様とルナリアさんが仲良くしているというシルディスの言葉は、本当だったのね。
私のせいでルナリアさんが不幸にならなくて本当によかった。
「だから、謝罪をしようと……贈り物さえしていないことに気づいて、ナイフを贈ってみたのだが、駄目だったのだな。これからは気をつけるようにする」
「是非気をつけて頂戴」
「ナイフは駄目だと理解したが、それでは、ミエレは、何が欲しい?」
「欲しいものは特にないわ。私、マルベリ公爵家で何不自由なく暮らしてきたもの」
少し落ち着いてくると、心に余裕が出てきた。
シルディスの顔を見るたびになんだこいつって思っていたけれど、レーヴェ様ぐらいしか親しいご友人のいない世間知らずの方と思うと、心なしか、優しくできそうな気がしてきたわね。
もちろん、私にひどいことをした罪が消えるわけじゃないけど。
でも、そういえば私も。
シルディスのことを深く知ろうともしなかったわよね。
「……私も、ごめんなさい」
「なぜ謝る?」
「花嫁選定に呼ばれた時から、数々の女性たちの中から、身分や見栄えで花嫁を選ぶ嫌なやつって思ったの、あなたのこと。その上、ルナリアさんに対してきついことを言う姿を見て、相手の事情も知らないのに印象だけで罵る、偉そうな奴って思ったのよ、あなたのこと」
「確かにあの時はそうだった。そもそも花嫁選定などしたくないと思っていた上に、着飾った女性というのも苦手でな。俺はあの時不機嫌で、ルナリア嬢にひどいことを言ったと思う。ミエレ、お前に注意をされて、目が覚めたようだった」
シルディスは反省をしていた。
私の注意ですぐに反省をして、ルナリアさんにはレーヴェ様という素敵な方を紹介してくれていた。
それなのに、私はシルディスのことを嫌がって、結婚なんてしたくないと、言い張って。
もちろんそれで、閉じ込めて鎖に繋ぐのが良いことだとは思わないし、私は怒って良いと思うけど。
でも、私も、頑なだったわよね。
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