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シルディス・サティスクワイド(25)初恋をする 2
しおりを挟む皇帝として、褥教育も必要だといわれて、そういった教育に長けた女と同衾をした。
名前も顔もよく思い出せない。
やる気もなかったので横になっていたら、気付いたら終わっていた。
そのことについてもレーヴェにはすでに話してある。
「贅沢を言うな愚か者め、湖に沈め」
などと罵倒されたことを覚えている。
「だいたい、君のまわりには君と結婚をしたい貴族令嬢が、蝶のようにとびまわっているだろう。誰か、良い相手はいないのか?」
「いない」
「選り好みが激しいだけでは?」
「女は苦手だ。戦場に立っていた方がずっと気が楽だ」
「意味が分からないね。そろそろ帰れ、暇人め」
レーヴェは自分から何かを話すことはあまりないが、俺の話を聞いて、ひとしきり罵倒すると、俺を護国の間から追い出す。
いつものことである。
そんな毎日を送っていたが、皇国の端の領土を占領している部族との諍いが激化したため、俺は嬉々として城を出て、戦場に向かった。
そうして数年。
父上から帰って来いと何度も手紙を貰っていたが、城に帰ったら誰かと結婚させられるかもしれない。
皇帝になどなりたくない。子をつくるのが仕事など、俺には向いていない。
俺のことは諦めて誰か他の者を皇帝に選んでくれないだろうか。
そう思いながら、城に帰ることを先延ばしにしていた。
部族との争いのあと、話し合いをしたり、停戦協定などをむすんだりしていたら――気づけば二十五歳になっていた。
そして俺は今、とても困っている。
父上が亡くなり、皇帝を継いだ。
それは、仕方ない。戦争に立ち戦争を終わらせた俺は、英雄として迎えられてしまったし、俺が皇帝を譲ると言っても、俺のことを怖がって、頷くものは誰もいなかった。
そして、良い年なのだからと、花嫁選定の場がもうけられ――。
そこで俺は、運命の出会いを果たした。
ミエレ・マルベリ公爵令嬢。
花嫁選定の場で、ずっと黙り込んで、俺になどまるで興味がなさそうに、窓の外を見ていた。
飾り気のまるでない黒いドレスに、化粧さえしていない。
髪も簡素にまとめただけで、俺の知る女性とは何もかもが違っていた。
その上――何も知らなかった俺が罵倒してしまったルナリア嬢を守る、正義感と、俺に意見をする勇気。
完璧だと、思った。
俺の求めていた理想の女性は、ミエレなのだろう。
ミエレを俺のものにしたい。
なんとしても、逃がさないようにしなければ。
ミエレほど美しい女性なら、他に好きな相手や、恋人もいるかもしれない。
俺は、どうしたら良い。
ミエレを選んだ俺を、ミエレは心の底から嫌がっているようだった。
ならば、閉じ込めておくしかない。
戦の場では、捕虜を捕まえると、牢に閉じ込めたものである。
牢に閉じ込めておけば――牢というわけにはいかないが、どこかの部屋に、繋いでおこう。
そうすればミエレは逃げられない。
逃げられなければ、そのうち、会話もできるだろう。
良い考えだと思ったのだが――レーヴェに話をしにいくと、心の底から罵倒をされた。
レーヴェは、ルナリア嬢の胸を模した何かを持ち歩く変態だというのに、ルナリア嬢はレーヴェに惚れているのだという。
解せない。
解せないが、俺も、ミエレと良い関係になりたい。
ミエレを見ると、胸が高鳴る。
クッションを投げつけてくる姿は愛らしいし、頬を紅潮させて怒る姿も愛らしい。
触れたい。
触れて――愛してみたい。
そう思ってはいるものの、俺とミエレの関係は、悪くなる一方だった。
◆◆◆◆
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