清廉潔白な神官長様は、昼も夜もけだもの。

束原ミヤコ

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 皇帝陛下からの贈り物 2

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 私は、箱をあけた。
 箱の中には――箱におさまる程度の大きさの、煌めく刀身の、凶悪な、ナイフが入っていた。

「……あの、くそやろう」

 私は、ぷちん、と、頭の血管が切れる音を聞いた気がした。

「ナイフ! ナイフ……! ナイフを、送るとか……! 私に死ねと、死ねと言うの……!」

「ミエレ様、落ち着いてください、ミエレ様……!」

「落ち着けるものですか! アイシャ、私は昨日、あの鬼畜男に穢されたのよ……! そのうえ、ナイフを贈ってくるですって! 死ねと言われているようなものよ……!」

「た、確かに、ナイフですけれど……それに確かに、皇帝陛下は、ひどいことをなさると、思っていましたけれど、でも、ミエレ様、何か事情があるのかもしれません……」

「事情なんて知るものですか、今すぐ、シルディスの元へ行って、一発殴ってやるわよ……!」

 私、今までどうして大人しくしていたのかしら。
 大人しく、していたかしら……?
 枕とかクッションを投げつけたりはしたけれど、でも、うん、結構大人しくしていたわよね。

 もう限界よ。耐えられない。一発殴って、今すぐこの城を逃げ出してやる。
 そうして私は自由の身よ。
 シルディスの友人だというレーヴェ様も、こうなってくるとあやしいわよ。

 あのひとでなしの友人だもの。ひとでなしの友人は、ひとでなしに違いないわよ。
 お城から逃げるついでに、大神殿に寄って、ルナリアさんを救わなくてはいけないわよ。

 ルナリアさんがレーヴェ様などという、ろくでなしの友人のろくでなし(暫定)と結婚しなくてはいけなくなったのは、私のせいだもの……!

「シルディス様……! じゃなくて、シルディス、この、屑男……!」

 私は、シルディスがいるという政務室まで走った。
 ノックもせずに扉を開けて、中に怒鳴り込む。
 政務机の椅子に座っていたシルディスは、目を見開いて、鬼のような形相だろう私を、じっと見つめた。

「ミエレ、贈り物は、受け取ってくれただろうか……」

 どうしてそわそわしているのよ。
 私に死ねと、ナイフを贈った癖に、どうして少し照れているのよ。
 意味がわからない。

「私、自ら命を絶つような弱い女ではなくてよ! 今すぐ離婚して。実家に帰らせていただきます!」

「ミエレ……! やはり、怒っているのだな……レーヴェの言う通りだ。本当にすまなかった……!」

 鬼の形相でシルディスの前の政務机に、ばん、と、両手を叩きつけて身を乗り出した私に向かって、シルディスは、深々と頭をさげた。
 まさか謝られると思っていなかった私は、驚いて、次に言おうとしていた文句が喉の奥にひっこんでしまった。

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