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 ミエレ・マルベリはへこたれない 2

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 うとうとして起きると――ベッドサイドに皇帝陛下が偉そうに、腕を組んで座っていた。

「起きたか、ミエレ」

「私の半径一メートル以内に近づかないでくださいまし!」

 目覚めのよい私は、ぱっと目を覚ますと同時に、皇帝陛下にむかってベッドにたくさん積まれているクッションをおもいきり投げつけた。

「……お前は力が弱い。そんなものを投げつけても、威嚇にすらならん」

「私を開放してくださいまし。私、動物ではありませんわ。逃げるなと言われたら、大人しくしていますわよ」

「嘘だな。嘘をつきなれていないのだな、お前は。わかりやすい」

「私が嫌いだからといって、この仕打ち。不毛ですわよ。嫌いな女に嫌がらせする時間があったら、好きな女性を作った方がよろしいのではなくて?」

「……俺は、……お前を妻にすると、何度も言っただろう。一度決めたことは、最後まで貫き通す主義でな」

「貫き通さない方がよいこともございましてよ」

「お前を苦しめたいというわけではない。不自由があれば言え。侍女の手配もしよう」

「お気遣いは無用です。私、このような姿、誰にも見られたくありませんの」

 私は、皇帝陛下を睨みつけながら言った。
 鎖に繋いでおいて不自由はさせないとか、蛮族なのかしら。見栄えの良い、蛮族なのかしら。
 確かに今まで皇帝陛下は、皇位を継ぐ気がないという噂もたつぐらいに、人の前に姿を見せることさえめったになかったし。
 私は詳しいことは知らないけれど、他民族との争いなどがあれば嬉々として駆け付けたり、国をあらす夜盗などの集団があれば、嬉々として駆け付けたり、人を襲う動物などが出没すれば、一目散に駆け付けたりしていたらしいし。
 うん。蛮族なのかもしれない。

「……ミエレ。相談が一つある」

 皇帝陛下は表情を変えることなく、平坦な声で言った。

「クリーチェ伯爵令嬢のことだが」

「ルナリアさんがどうかしましたの?」

「俺はクリーチェ伯爵令嬢のことを思い違いをして、酷い言葉を投げつけてしまっただろう。詫びに、相応しい結婚相手を選ぶと約束したのだが……その相手を、な。フィオレイス家の神官長、レーヴェにしようかと、考えているのだが」

「まぁ! それは、大変よろしいのではないでしょうか。ルナリアさんは困窮しておりますのよ。神官長様であれば、ルナリアさんを救ってくださるのではないでしょうか」

 私は大きく頷いた。
 よくよく考えてみれば、女を無理やり監禁するような皇帝陛下に、ルナリアさんが選ばれなくて良かったような気がする。
 ルナリアさんが辛い思いをするのなら、選ばれたのが私で良かったわよね。
 他のご令嬢がこんな目にあったら、きっと、悲しみで心が壊れてしまっていたかもしれないもの。
 私は、負けないけれど。

「レーヴェは……少々、変わった男だ。それに、フィオレイス神官家にも、独特なしきたりがある。それでも良いかと、悩んでいてな」

「皇帝陛下よりはまだまともだと思いますわ」

 私は皇帝陛下に嫌味を言った。
 伝わっているのかいないのか、皇帝陛下は「それでは、レーヴェに連絡をしよう」といって、部屋から出て行った。
 私はほっと胸をなでおろした。

 家族を抱えて路頭に迷うルナリアさんについて想像していただけに、安心したわね。
 神官長様ならルナリアさんを幸せにしてくださるわね、きっと。


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