42 / 97
神官長と皇帝その弐
しおりを挟む◆◆◆◆
ルーナに張り型を渡した私は、うきうきしながら大神殿の奥にある護国の間で、護国の貴石に魔力を注いでいた。
朝のお務めである。
ヴェルニアの力を受けている、いわばこの国の神である私。
その私が護国の貴石に魔力を注ぐことで、この国に私の魔力が満ちて、土地の豊饒が約束されるという仕組みだ。
ついでに聖都が他国から攻め込まれないための結界を、張ることもできたりする。
私という存在は、結構万能なのである。
護国の貴石が置かれた護国の間は、四方が清らかな水で満たされている場所で、扉から続く橋を渡って祭壇があり、祭壇には赤い絨毯が敷かれている。
祭壇の真上に私を三人分ぐらいした青く尖った切り出したばかりの宝石のような巨大な石が、ふわふわ浮かんでいる。
私は祭壇に敷かれた絨毯の上に置かれた立派な椅子に座って、魔力を貴石に注いでいる。
この、魔力を注ぐという行為。
表向きは国の安寧を願い朝のお務めとしてお祈りを捧げているということになっているのだけれど、別に祈りなど捧げなくても、ヴェルニアとは私なので、問題ない。
魔力をそそぐだけの行為ではあるのだけれど、貴石は大きいので、たっぷり貴石がぎらぎらに輝くほどに魔力をそそぐには、結構時間がかかる。
まぁ、暇なのだ。
暇なのである。一瞬で魔力が満タンになればよいのだけれど、そういうわけにもいかない。
巨大な桶を水で満たすのに時間がかかるのと同じだ。
何事も、燃料を注ぐには時間がかかるというわけだ。
「ふふ……でも今日は、暇ではないのだよ。だって、ルーナに張り型を渡したし」
張り型とは、男根を模した木製の物が一般的だ。
けれど私は、ルーナの中に私以外の形の何かが入るのは許せないので、私の形をきちんとジェルスライムに覚え込ませて、変化させたものを渡した。
ジェルスライムは魔生物だけれど、まぁ、植物とさして変わらないので、問題はない。
ルーナは恥ずかしがっていたけれど、手に握っていたし。
張り型には媚薬を塗りたくってあるので、皮膚から媚薬が吸収されて、そのうちどうしてもはしたないことをしたい気持ちになる筈。
つまり、張り型の出番というわけだ。
ルーナが可愛すぎて、色々しようと思っていた色々がなかなかできない私だけれど、極力、めいっぱい、毎日のように、ルーナの可愛らしい姿が見たい。
ルーナが悲しむのは嫌だし、辛い思いをするのは嫌だ。だって愛しているから。
でも、可愛い姿は見たい。それはもう、見たい。
なんせ、私の張り型を使用して、私を求めながら一人ではしたないことをするルーナの姿が見たい。
「あぁ、最高だね。嫁というのは、なんとすばらしいものなのだろう。ルーナ、可愛い。好き。愛してる」
私は法衣の袂に忍ばせていたルーナの胸の模型を取り出して、頬擦りした。
政務室にいつも置いてあるし、私がいないときは誰にも触れられないように厳重にしまってあるのだけれど、最近持ち歩くのが一番安全だということに気づいてしまった私。天才かもしれない。
やっぱり、神様だから。
「……何故、お前のような変態が、ルナリア嬢とうまくいっているんだ」
先程から護国の間の橋の欄干に座って私を見つめている暇人が、私に話しかけてくる。
私が一生懸命国のために、身を粉にして貴石に魔力を注いでいるというのに、朝から何の用なのだろう、この暇人は。
暇人の名前は、シルディスという。私以外立ち入り禁止のこの場所に唯一入ることを許可されている、この国の皇帝である。
「仕事をしろ、暇人め」
私はそう思ったので、素直に感想を口にした。
こんな朝から大神殿に来るとか、暇でしかない。
神である私が神官長で、どうしてシルディスが皇帝かといえば、神獣ヴェルニアが国の礎として選んだ人間が、シルディスの皇帝家の者たちだからだ。
私は神なので、まぁ、細々とした仕事はあるのだけれど、国を治めるのは皇帝の仕事である。
国を治めるとはなかなか厄介で、なんせ仕事量が多い。神官長の倍ぐらいはあるのではないかな。
私は国民すべての心を掌握できるわけではないし、小競り合いはそこここで起こったりもする。
国境での小競り合いもないわけではないし、蛮族との戦いもあったりもする。
天災は私のおかげでおこらないけれど、まぁ、色々あるのだ。皇帝の仕事とは。
だから、シルディスが朝っぱらから護国の間を訪れるのは、完全におかしい。職務放棄も甚だしい。
「張り型とはなんだ、レーヴェ。どうせろくでもないものだろうが」
「君はなんにも知らないのだね、シルディス。その分では、ミエレ嬢もさぞがっかりしていることだろう」
「ぐ……」
シルディスは心臓のあたりをおさえる。
どうやら図星のようだね。哀れなことだ。
「張り型とは、男根を模したものだよ。性行為に使う、玩具のこと」
「そのようなものを、ルナリア嬢に渡したというのか、お前は。蒙昧な。……ルナリア嬢は、泣きながら嫌がっていたのではないか」
「ルーナは、ありがとうございますって言って、喜んでいたよ」
私は嘘をついた。
5
お気に入りに追加
2,132
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる