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神官長と皇帝その弐
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ルーナに張り型を渡した私は、うきうきしながら大神殿の奥にある護国の間で、護国の貴石に魔力を注いでいた。
朝のお務めである。
ヴェルニアの力を受けている、いわばこの国の神である私。
その私が護国の貴石に魔力を注ぐことで、この国に私の魔力が満ちて、土地の豊饒が約束されるという仕組みだ。
ついでに聖都が他国から攻め込まれないための結界を、張ることもできたりする。
私という存在は、結構万能なのである。
護国の貴石が置かれた護国の間は、四方が清らかな水で満たされている場所で、扉から続く橋を渡って祭壇があり、祭壇には赤い絨毯が敷かれている。
祭壇の真上に私を三人分ぐらいした青く尖った切り出したばかりの宝石のような巨大な石が、ふわふわ浮かんでいる。
私は祭壇に敷かれた絨毯の上に置かれた立派な椅子に座って、魔力を貴石に注いでいる。
この、魔力を注ぐという行為。
表向きは国の安寧を願い朝のお務めとしてお祈りを捧げているということになっているのだけれど、別に祈りなど捧げなくても、ヴェルニアとは私なので、問題ない。
魔力をそそぐだけの行為ではあるのだけれど、貴石は大きいので、たっぷり貴石がぎらぎらに輝くほどに魔力をそそぐには、結構時間がかかる。
まぁ、暇なのだ。
暇なのである。一瞬で魔力が満タンになればよいのだけれど、そういうわけにもいかない。
巨大な桶を水で満たすのに時間がかかるのと同じだ。
何事も、燃料を注ぐには時間がかかるというわけだ。
「ふふ……でも今日は、暇ではないのだよ。だって、ルーナに張り型を渡したし」
張り型とは、男根を模した木製の物が一般的だ。
けれど私は、ルーナの中に私以外の形の何かが入るのは許せないので、私の形をきちんとジェルスライムに覚え込ませて、変化させたものを渡した。
ジェルスライムは魔生物だけれど、まぁ、植物とさして変わらないので、問題はない。
ルーナは恥ずかしがっていたけれど、手に握っていたし。
張り型には媚薬を塗りたくってあるので、皮膚から媚薬が吸収されて、そのうちどうしてもはしたないことをしたい気持ちになる筈。
つまり、張り型の出番というわけだ。
ルーナが可愛すぎて、色々しようと思っていた色々がなかなかできない私だけれど、極力、めいっぱい、毎日のように、ルーナの可愛らしい姿が見たい。
ルーナが悲しむのは嫌だし、辛い思いをするのは嫌だ。だって愛しているから。
でも、可愛い姿は見たい。それはもう、見たい。
なんせ、私の張り型を使用して、私を求めながら一人ではしたないことをするルーナの姿が見たい。
「あぁ、最高だね。嫁というのは、なんとすばらしいものなのだろう。ルーナ、可愛い。好き。愛してる」
私は法衣の袂に忍ばせていたルーナの胸の模型を取り出して、頬擦りした。
政務室にいつも置いてあるし、私がいないときは誰にも触れられないように厳重にしまってあるのだけれど、最近持ち歩くのが一番安全だということに気づいてしまった私。天才かもしれない。
やっぱり、神様だから。
「……何故、お前のような変態が、ルナリア嬢とうまくいっているんだ」
先程から護国の間の橋の欄干に座って私を見つめている暇人が、私に話しかけてくる。
私が一生懸命国のために、身を粉にして貴石に魔力を注いでいるというのに、朝から何の用なのだろう、この暇人は。
暇人の名前は、シルディスという。私以外立ち入り禁止のこの場所に唯一入ることを許可されている、この国の皇帝である。
「仕事をしろ、暇人め」
私はそう思ったので、素直に感想を口にした。
こんな朝から大神殿に来るとか、暇でしかない。
神である私が神官長で、どうしてシルディスが皇帝かといえば、神獣ヴェルニアが国の礎として選んだ人間が、シルディスの皇帝家の者たちだからだ。
私は神なので、まぁ、細々とした仕事はあるのだけれど、国を治めるのは皇帝の仕事である。
国を治めるとはなかなか厄介で、なんせ仕事量が多い。神官長の倍ぐらいはあるのではないかな。
私は国民すべての心を掌握できるわけではないし、小競り合いはそこここで起こったりもする。
国境での小競り合いもないわけではないし、蛮族との戦いもあったりもする。
天災は私のおかげでおこらないけれど、まぁ、色々あるのだ。皇帝の仕事とは。
だから、シルディスが朝っぱらから護国の間を訪れるのは、完全におかしい。職務放棄も甚だしい。
「張り型とはなんだ、レーヴェ。どうせろくでもないものだろうが」
「君はなんにも知らないのだね、シルディス。その分では、ミエレ嬢もさぞがっかりしていることだろう」
「ぐ……」
シルディスは心臓のあたりをおさえる。
どうやら図星のようだね。哀れなことだ。
「張り型とは、男根を模したものだよ。性行為に使う、玩具のこと」
「そのようなものを、ルナリア嬢に渡したというのか、お前は。蒙昧な。……ルナリア嬢は、泣きながら嫌がっていたのではないか」
「ルーナは、ありがとうございますって言って、喜んでいたよ」
私は嘘をついた。
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