上 下
25 / 97

 神官長レーヴェと皇帝シルディス 2

しおりを挟む



 けれど現実は残酷なもので、教団の中で一番偉い、ほぼ神様の私にも仕事がある。

 毎年の神事についての計画書の確認だとか。
 目安箱に寄せられた民の声の確認だとか。
 教団に寄せられた寄付金の確認だとか。

 まぁ、色々だ。
 けれど、シルディスの愚痴をきくのは、私の仕事ではない。

「無理矢理娶れば、嫌われるだろう。赤子にさえわかる。愚か者め」

「レーヴェ……変態の上に辛辣なお前を、なぜルナリア嬢は受け入れてくれたんだ。ミエレのことは、自分の意見をはっきり持っている、素晴らしい女性だと思った。だから妻にと思ったんだが」

「そう思ったのなら、手順を踏めば良い」

「逃げられたくなかった」

「痴れ者め」

 私は書類にサインをした。
 何事も、私の確認と了解がなければ物事が進まないというのも考えものだ。

 とはいえ、それが仕事なので仕方ない。
 毎日の礼拝――というか、正確には大神殿にある護国の貴石に魔力をそそいでいるのだが――と共に、私のやるべきことなので、諦めて真面目に仕事をするに限る。

 屋敷に戻るとルーナが待っていると思うと、頑張ることができる。
 初夜の日から、三日三晩、睡眠と食事以外の時間はずっと交わっていたが、まだ足りない。

 二十五年も我慢を重ねてきた甲斐があったというものだ。
 
「だいたい……そんなものを作られて、ルナリア嬢は嫌がり泣いたのではないか」

「そんなもの?」

「お前のその、手首の下にある、奇妙なものだ」

「あぁ、ルーナの胸だね。とても良い形をしている。さわり心地も最高だ。欲しいのか」

「俺はお前と違い、変質者ではない。ルナリア嬢が不憫だ」

「ルーナは、私のことが好きだと言ってくれる」

「何故なんだ……」

 シルディスは頭を抱える。

 昔から――シルディスは、色事よりも剣を好むような男だった。
 皇帝の座につくつもりもなく、戦闘の気配を感じれば、真っ先に駆けつけるような、血の気の多い男だ。
 そのせいで、言うなれば、朴念仁である。

 ただの朴念仁なら良いのだろうが、言葉よりも先に手足が動くせいで、誤解をされる。
 思ったことも全部口にするせいで、誤解をされる。

 そのくせ照れ屋である。だから、大切なことは言わない。
 当たり前だが、誤解をされる。

 私にとっては愉快な愚か者なのだが、態度と顔立ちのせいで怖がられているようだ。
 ミエレ公爵令嬢は気高く気の強い女性だから、おそらく、そう『なんなのこの偉そうな男は』と思っているのだろう。
 シルディスは私と同じぐらいに偉いのだけれど、偉いのと、偉そうなのは、違う。

「ルーナは、生真面目で、良い子だからね。私のことが好きだから、初夜の儀式も嫌がらずに受け入れてくれたし、この、異形の姿を見ても、好きだと言ってくれた」

 ルーナのことを思い出して、私は嬉しくなって、六本の尻尾をパタパタと動かした。
 初夜の儀式で、湖底神殿で眠っているヴェルニアの分霊に花嫁が認められると、私の清らかなる者の呪縛が解ける。
 そしてヴェルニアは私と融合して、ルーナの中に、ヴェルニアの血の混じった子種を注ぐことができる。

 フィオレイス神官家に嫁いでくる花嫁は、大抵この初夜に行われる儀式を嫌がるらしい。
 それはそうだ。
 ヴェルニアに見られながら初夜を行うなど、どうかしていると私も思う。

 私は、見ないでと言って恥ずかしがるルーナが可愛らしくて、それはもう興奮したけれど。
 私にとってはヴェルニアも私の一部だ。
 実際、私と融合したヴェルニアには、自我が無い。
 耳と尻尾が、ルーナのことを考えるとはえるようになったぐらいである。

 もう少し、有効的に活用できないものか、とも思うけれど。

「私はルーナを愛している。だから、愛していると、何度も伝えているよ。君は、ミエレ公爵令嬢には何を伝えた?」

「お前が嫌がっても、俺はお前を離すつもりはないと。泣き叫んでも誰も助けに来ないと言って、部屋に鎖で繋いでいる」

「……シルディス。それでどうして、ミエレ公爵令嬢に好かれると思うのだろうね。愚か者、城に帰れ」

 私はシルディスの足下に、転移の為の穴を空けた。
 シルディスはソファごと、水たまりのように見える穴の中に落ちていった。
 しばらく来なくて良いと思う。
 誤解をされるどころの話ではない。嫌がる女性を鎖に繋ぐなど。

「私もやってみたいな」

 私はわくわくしながら、ルーナの胸の模型をぐにぐにと揉んだ。
 最高のさわり心地だ。
 薄桃色の乳首が白いレースの下着の上からでも透けて見える。
 乳首が少し硬いのがまた、良い。

「ルーナは、嫌がるだろうか」

 沢山可愛がりたいけれど、好きだと言ってくれるルーナに嫌われるのはとてもつらい。
 金で買ったのだから、嫌悪される可能性も考えてはいたのだけれど。

 そんなこともなく、ルーナは穏やかだ。
 今朝も、恥ずかしがりながら、いってらっしゃいのキスをしてくれた。

 可愛い。嫁というのはとても素晴らしい。
 だから、傷つけたくはない。
 でもできるかぎり、色々なことをしたい。

「ルーナなら、許してくれそうだな……」

 うん。
 縛ろう。
 私は決意を胸に、ルーナの胸を揉んだ。とても良い。
 きっと今頃ルーナは、一人で気持ち良くなっているだろうと思うと、口元が綻んだ。

 ◆◆◆◆

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

散りきらない愛に抱かれて

泉野ジュール
恋愛
 傷心の放浪からひと月ぶりに屋敷へ帰ってきたウィンドハースト伯爵ゴードンは一通の手紙を受け取る。 「君は思う存分、奥方を傷つけただろう。これがわたしの叶わぬ愛への復讐だったとも知らずに──」 不貞の疑いをかけ残酷に傷つけ抱きつぶした妻・オフェーリアは無実だった。しかし、心身ともに深く傷を負ったオフェーリアはすでにゴードンの元を去り、行方をくらましていた。 ゴードンは再び彼女を見つけ、愛を取り戻すことができるのか。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...