上 下
6 / 97

ルナリア・クリーチェ、味見をされる

しおりを挟む


 レーヴェ様に促されて、大きくて立派でふかふかの白いベッドのベッドサイドに座る私の前に、レーヴェ様は跪くようにして片足をついた。

「ルーナ、良い香りがする。可愛い、ルーナ。白い肌も、小さな手も、貝殻みたいな爪も、全部私のもの」

「レーヴェ様……っ」

 ぎゅっと私の腰に、レーヴェ様は甘えるようにして抱きついてくる。
 小さな妹などが良く私のお膝に乗るとせがんで、腰に抱きついてくることはあるのだけれど、男性にこんなことをされたのは初めてだ。

 レーヴェ様にはさっきからなんだかすごいことを言われ続けている気がするのだけれど。
 でも、こうして触れられると、体が甘く切なく疼く。
 レーヴェ様は、私や家族の恩人。

 そこにどんな理由があったとしても、それは変わらない。
 誰も助けてくれなかった、いえ、我が家の困窮は自業自得なのでそれは仕方ないのだけれど、どうしようもなかった私と私の家族を救ってくれた方だ。

 私は、レーヴェ様が好き。
 逃げ出す気はないし、一緒にいて差し上げたいと思う。

 芽生えたばかりの淡い気持ちだけれど、覚悟はもう、できている。
 あんまり詳しいことはわからないし、レーヴェ様がどんなことをするのかなんてまるで、想像もできないけれど。

「私で、よければ……今日から、ずっと、……末長く、よろしくお願いします」

「ルーナ……今の話を聞いても、君は、私を怖いと思わない?」

「褥を交わすのは、夫婦であれば当然です。それが多少激しくても、特に問題は……むしろ、激しくしていただけるのは、女の名誉、ともいいますし……」

 私は両手を握りしめて言った。
 伊達に、お金に困っていた私ではないのよ。

 内職を斡旋してくださった職業斡旋所のおかみさんとか、同じ内職をしていた街のお姉さま方が、そのようなことを言っていたもの。

 だから、レーヴェ様が私を愛してくださるのなら、それはとても光栄なことなのよね、多分。
 愛されないで捨て置かれたりするよりは、ずっと良い。

「君は、私に金で買われたも同然なのに、そんなふうに言ってくれるんだね。好き。……ルーナ、すごく、好きだよ。だから、……いいよね?」

「え? ……っ、あ……」

 レーヴェ様は私の体をベッドの上へと沈めた。
 夜空に浮かんだ月のような金色の瞳が、私をじっと見つめている。
 上から覆いかぶさるようにして私を覗き込んでいるレーヴェ様の、新雪のような髪が私の頬や首に触れて、くすぐったい。

「本当はね、きちんと契りの儀を行ってからじゃないと、君と深く繋がることができないんだよ。でも、ルーナがすごく可愛らしくて、君が私のものになってくれて、……もう我慢しなくて良いのだと思うと、気が急いてしまって。だから、少しだけ、ね?」

「レーヴェ様……私、その、お洋服とか……下着も、あんまり持っていなくて……」

 自分の洋服を仕立てるよりも、弟妹のお洋服を優先していたし。
 下着も、穴が空いていないだけよかったわね、というぐらいの代物しかない。

 レーヴェ様の元にくるにあたって、その中でも一番まともなものを選んできたつもりだけれど。
 茶色くて飾り気のないワンピースと、レースも飾りもついていない白い下着を身につけている私。
 これが一番まともだったの。

 恥ずかしい。せめてもっと、着飾っている私を見てもらいたいのに。
 レーヴェ様のお手紙のお言葉に甘えて、荷物も、ほとんど持ってこなかったし。
 ドレスも、全部売ってしまったし。

 デコレーションケーキみたいなドレスも、花嫁選びの後に、結局、借金取りの方に持っていかれてしまったものね。

「可愛いよ、ルーナ。何も着ていなくてもきっと君は可愛いのだから、問題ない」

「っ、ぁ、ん……っ」

 軽く唇が重なる。
 ちゅ、ちゅ、と音を立てて、唇を啄まれるようにされる。
 視界が濁って、私は見開いていた目を閉じた。

「レーヴェ、さ……っ、ん、ん……っ、ぁ、う……っ」

「ルーナ、可愛い……唇、柔らかい。舌も、すごく小さい。顔も小さくて、……可愛い、可愛い」

「……ん、ん……っ」

 レーヴェ様と会ってからそんなに時間は経っていないのに、何回可愛いと言われたのかしら。
 うっとりするぐらいに甘い声で可愛いと言われるたびに、本当に私は可愛いのではないかしらと、思いそうになってしまう。

「っ、あ、……ん」

 触れるだけの口づけを何度も繰り返していたレーヴェ様は、そっと離れると、私の唇を長い指で辿った。

「キス、気持ち良いね、ルーナ。こんなに気持ち良いことが、この世にあるんだね。……幸せ」

「…………っ、は、い……」

「ルーナ、顔が赤い。それに、涙も……その顔、すごくいやらしくて、好き」

「は、はじめて、なので……恥ずかしくて、私……」

「可愛い……ねぇ、ルーナ。私は多分、性欲が強い方だと思うから、頑張ろうね」

 もう一度確認するように、レーヴェ様は言った。
 私は口づけの余韻に浸りながら、その綺麗な顔を見上げてこくりと頷く。
 レーヴェ様は私のワンピースの襟口に指をかけると、あっさりとそれを引き裂いてしまった。

「え……っ」

 二つに裂かれたワンピースは、シーツの上に何かの間違いのようにはらりと落ちた。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

散りきらない愛に抱かれて

泉野ジュール
恋愛
 傷心の放浪からひと月ぶりに屋敷へ帰ってきたウィンドハースト伯爵ゴードンは一通の手紙を受け取る。 「君は思う存分、奥方を傷つけただろう。これがわたしの叶わぬ愛への復讐だったとも知らずに──」 不貞の疑いをかけ残酷に傷つけ抱きつぶした妻・オフェーリアは無実だった。しかし、心身ともに深く傷を負ったオフェーリアはすでにゴードンの元を去り、行方をくらましていた。 ゴードンは再び彼女を見つけ、愛を取り戻すことができるのか。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

処理中です...