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ルナリア・クリーチェ、味見をされる
しおりを挟むレーヴェ様に促されて、大きくて立派でふかふかの白いベッドのベッドサイドに座る私の前に、レーヴェ様は跪くようにして片足をついた。
「ルーナ、良い香りがする。可愛い、ルーナ。白い肌も、小さな手も、貝殻みたいな爪も、全部私のもの」
「レーヴェ様……っ」
ぎゅっと私の腰に、レーヴェ様は甘えるようにして抱きついてくる。
小さな妹などが良く私のお膝に乗るとせがんで、腰に抱きついてくることはあるのだけれど、男性にこんなことをされたのは初めてだ。
レーヴェ様にはさっきからなんだかすごいことを言われ続けている気がするのだけれど。
でも、こうして触れられると、体が甘く切なく疼く。
レーヴェ様は、私や家族の恩人。
そこにどんな理由があったとしても、それは変わらない。
誰も助けてくれなかった、いえ、我が家の困窮は自業自得なのでそれは仕方ないのだけれど、どうしようもなかった私と私の家族を救ってくれた方だ。
私は、レーヴェ様が好き。
逃げ出す気はないし、一緒にいて差し上げたいと思う。
芽生えたばかりの淡い気持ちだけれど、覚悟はもう、できている。
あんまり詳しいことはわからないし、レーヴェ様がどんなことをするのかなんてまるで、想像もできないけれど。
「私で、よければ……今日から、ずっと、……末長く、よろしくお願いします」
「ルーナ……今の話を聞いても、君は、私を怖いと思わない?」
「褥を交わすのは、夫婦であれば当然です。それが多少激しくても、特に問題は……むしろ、激しくしていただけるのは、女の名誉、ともいいますし……」
私は両手を握りしめて言った。
伊達に、お金に困っていた私ではないのよ。
内職を斡旋してくださった職業斡旋所のおかみさんとか、同じ内職をしていた街のお姉さま方が、そのようなことを言っていたもの。
だから、レーヴェ様が私を愛してくださるのなら、それはとても光栄なことなのよね、多分。
愛されないで捨て置かれたりするよりは、ずっと良い。
「君は、私に金で買われたも同然なのに、そんなふうに言ってくれるんだね。好き。……ルーナ、すごく、好きだよ。だから、……いいよね?」
「え? ……っ、あ……」
レーヴェ様は私の体をベッドの上へと沈めた。
夜空に浮かんだ月のような金色の瞳が、私をじっと見つめている。
上から覆いかぶさるようにして私を覗き込んでいるレーヴェ様の、新雪のような髪が私の頬や首に触れて、くすぐったい。
「本当はね、きちんと契りの儀を行ってからじゃないと、君と深く繋がることができないんだよ。でも、ルーナがすごく可愛らしくて、君が私のものになってくれて、……もう我慢しなくて良いのだと思うと、気が急いてしまって。だから、少しだけ、ね?」
「レーヴェ様……私、その、お洋服とか……下着も、あんまり持っていなくて……」
自分の洋服を仕立てるよりも、弟妹のお洋服を優先していたし。
下着も、穴が空いていないだけよかったわね、というぐらいの代物しかない。
レーヴェ様の元にくるにあたって、その中でも一番まともなものを選んできたつもりだけれど。
茶色くて飾り気のないワンピースと、レースも飾りもついていない白い下着を身につけている私。
これが一番まともだったの。
恥ずかしい。せめてもっと、着飾っている私を見てもらいたいのに。
レーヴェ様のお手紙のお言葉に甘えて、荷物も、ほとんど持ってこなかったし。
ドレスも、全部売ってしまったし。
デコレーションケーキみたいなドレスも、花嫁選びの後に、結局、借金取りの方に持っていかれてしまったものね。
「可愛いよ、ルーナ。何も着ていなくてもきっと君は可愛いのだから、問題ない」
「っ、ぁ、ん……っ」
軽く唇が重なる。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて、唇を啄まれるようにされる。
視界が濁って、私は見開いていた目を閉じた。
「レーヴェ、さ……っ、ん、ん……っ、ぁ、う……っ」
「ルーナ、可愛い……唇、柔らかい。舌も、すごく小さい。顔も小さくて、……可愛い、可愛い」
「……ん、ん……っ」
レーヴェ様と会ってからそんなに時間は経っていないのに、何回可愛いと言われたのかしら。
うっとりするぐらいに甘い声で可愛いと言われるたびに、本当に私は可愛いのではないかしらと、思いそうになってしまう。
「っ、あ、……ん」
触れるだけの口づけを何度も繰り返していたレーヴェ様は、そっと離れると、私の唇を長い指で辿った。
「キス、気持ち良いね、ルーナ。こんなに気持ち良いことが、この世にあるんだね。……幸せ」
「…………っ、は、い……」
「ルーナ、顔が赤い。それに、涙も……その顔、すごくいやらしくて、好き」
「は、はじめて、なので……恥ずかしくて、私……」
「可愛い……ねぇ、ルーナ。私は多分、性欲が強い方だと思うから、頑張ろうね」
もう一度確認するように、レーヴェ様は言った。
私は口づけの余韻に浸りながら、その綺麗な顔を見上げてこくりと頷く。
レーヴェ様は私のワンピースの襟口に指をかけると、あっさりとそれを引き裂いてしまった。
「え……っ」
二つに裂かれたワンピースは、シーツの上に何かの間違いのようにはらりと落ちた。
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