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 フィオレイス神官家のしきたり 2

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 私はレーヴェ様のことが、好き。
 一目惚れなんてこの世の中に存在しないと思っていたけれど、こうして手を繋いでくださっているだけで、胸が高鳴ってしまう。

 だから、選んでいただけて嬉しい。
 今のお話を聞いて、寂しい生活を送ってきたレーヴェ様のお側にいたいと、強く思う。

 でも、レーヴェ様はどうして私を受け入れてくださったのかしら。
 私、借金ぐらいしかない女なのに。他の貴族女性たちみたいに家柄が立派とかもないし、家業が立派とかでもない。
 後ろ盾もないし、お父様は騙されやすいお人好しで、弟たちや妹たちはまだ幼い。

 謙遜とかじゃなくて、本当にそうなのよ。
 将来どこかの貴族にお仕えしたり、お城仕えするため通っていた士官学校だって、お金がなくて中退してしまったし。
 結婚相手を探しながら、毎日家族のためにご飯を作って家事をして、それから、紙を丸めて造花をつくる内職と、金具に糸を通して結んで釣りの仕掛けをつくる内職をしていた。

 ともかく私の人生は今までそんな感じで、そこに、女性としての魅力とか価値とかは、まるでないと思うの。
 見た目も、普通だし。
 体つきだって、ごく普通だと思うし。

「ルーナは、大丈夫。だって、ルーナの家は困っていて、私に頼らないと家族が困窮してしまうのだから、ルーナは私に頼るしかないのだよね。それはとても、安心できる。ルーナは、何をされても私から逃げないし、逃げることができないのだから」

「レーヴェ様……あの、私、……レーヴェ様の妻になる以上は、覚悟はできています」

「シルディスから聞いているかもしれないのだけれど、フィオレイス家は先ほど言ったように、少々特殊でね。女性という女性を近づけず、性についても厳格で、自慰さえ許されていない」

「……ええと」

 にこやかに優しくレーヴェ様は言って、私を二階お部屋に案内した。
 大きな扉は開きっぱなしで、お部屋からすぐ、ベッドルームがある。

 こちらも白いシーツに、白い天蓋。どこまでも白いベッドだ。
 驚くほどに大きい。私が伯爵家で眠っていた古くてギシギシ軋むベッドよりずっと大きい。

 お部屋の大きな花瓶には、色とりどりのお花が生けられている。
 窓の外には、湖が広がっている。
 湖は広大で、湖の先の景色は霞んでしまって見えないほどだ。

「だからね。ルーナ。私の性欲の全てを、君にぶつけないといけないんだよ。普通の女性はそんなことをされたら逃げてしまうのではないかと思っていて……けれど、フィオレイス家のしきたりで、離縁は絶対にできないし、私も、ごく普通の女性と結婚したら、相手に遠慮してしまうかもしれなくて」

「私は借金があるから……」

「ルーナは、私から絶対に逃げられないよね。それに、すごく可愛い。本当に、可愛いね、ルーナ」

 ベッドルームに私は通された。
 レーヴェ様に促されてベッドサイドに座った私は、レーヴェ様の言葉の意味が半分ぐらいしかわからなくて、ずっと頭の中に疑問符を浮かべ続けていた。




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