特殊魔法は蜜の味

束原ミヤコ

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四度目の正直

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 私は、見開いた目を伏せた。

(これは、夢、これは夢、これは夢、是非夢であって……!)

 何度か頭の中で希望的観測を呪文のように唱えて、恐る恐るもう一度目を開く。
 ばっちり、目があってしまうわね。

 私の部屋に、アルス様がいらっしゃる。

 怜悧な眼差しが私を射抜くように見つめている。クリーム塗れでセディといけないことをしている私を、アルス様がじっと見ている。

 いつからいたのかしら。全く気づかなかったわよ。
 目を閉じていたし、人の気配とか気にしてるような余裕はなかったし。

「私のお嬢様はたいへんいやらしく、はしたないでしょう、殿下?」

 セディが椅子に座る私の背後に回った。
 背後から手を回されて、両胸をすくうように持ち上げられる。

 ぷっくり立ち上がった胸の突起を指でしごかれると、アルス様と目があってしまって急速に萎んでいた熱が、再び体に戻ってくる。

「今日は殿下とお嬢様の婚約破棄撤回記念パーティーですので、特別仕様です。美味しそうでしょう」

「……どういうつもりだ。確か、セディと言ったな。私にレティとの行為を見せつけるために、わざと部屋に招いたのか」

 アルス様が深淵から這い上がる怨嗟の声のような、怒りに満ちた低い声音で言う。

 まさしく悪魔なのよ。
 怖い。怖いから、さくっと魔法をかけて全て何となく丸くおさめたいわね。

 でもアルス様の位置は遠くて、いつもみたいに魔法が使えない。

 それに私の胸をセディが何かの料理を作るように、クリームを塗り込みながらぐにぐにと揉んでいるので、我慢しているのに気持ち良くて声が漏れそうになってしまう。

 体は緊張しているのにまるで自由に動かすことができなくて、大きく開いていた両足を閉じることぐらいしかできない。

「ええそうですね。私の予想が正しければ、殿下はお嬢様がいやらしい目にあっているのを見ると、興奮する傾向が」

 セディは全く動揺した様子もなく、いつも通りにこやかに言った。

「お前か、レティにろくでもないことを吹き込んだのは!」

「ち、違います……、私が、セディに、教えてあげたのです……」

 息も絶え絶えになりながら、私はアルス様に説明した。
 アルス様はさらに眉間に皺を寄せて、額をおさえると深いため息をついた。

「殿下、どうですか? 私の手で淫らに快楽を得ながら、殿下の名前を呼ぶお嬢様は。お嬢様の愛らしい姿を、もっと見せて差し上げますね」

 セディは私の胸を揉みしだいていた手を離すと、閉じた両足をぐい、と開いた。

 大きく開かれた足の中心に、下腹部にたまったクリームが流れ落ちていく。
 なんとも言えないどろりとした感触に、いたたまれない気持ちになる。

「ある、す、さま……っ、やだぁ、見ないで……っ」

 いつもと違うわよね、これ。

 だって、いつもはアルス様が助けに来てくれたもの。

 シャウラ先生の時も、ユールさんの時も、アルス様は私を助けてくれて――

 でも今は、セディに触れられている私を、アルス様は不機嫌そうではあるけれど視線を逸らさずにじっと見つめている。

 どうしよう、恥ずかしい。
 見られるの、恥ずかしい。それに、すごくいけないことをしている気がする。

 罪悪感と背徳感がない混ぜになったものが胸を支配して、はらりと涙が溢れた。

「お嬢様、ほら、教えてください。もう、十分にとろけていますよね。ここに、誰が欲しいのです?」

 セディの指先が、私の秘部の柔らかい花弁を割りひらく。
 恥ずかしい格好を、アルス様に見られている。
 意識すると、どういうわけか物欲しそうに蜜壺が収縮した。

「っ、ぁ……っ」

「触れていないのに、こんなに蜜をこぼして。もっと気持ち良くなりたいでしょう、お嬢様。ほら、言って。殿下に教えて差し上げましょうね」

「貴様、まさか……、自分の名前を呼ばせて、私を嘲るつもりなのか」

 アルス様の声音が殺気立っている。
 セディは吃驚したように、俄かに目を見開いた。

「まさか。そんな。殿下は、私が思うよりも上級者でいらっしゃる……?」

「アルス様、アルス様の前でセディを欲しがると、嬉しいのですか……?」

 セディの言葉に私も吃驚して、アルス様を見た。

「どうしてそうなる!」

 アルス様が苛立ったように、ばん、とテーブルを叩く。こんな時にもツッコミを忘れないアルス様、偉いわね。

「願望を口に出されたのかと思いまして」

「そろそろ怒っても良い気がしてきた」

「アルス様、さっきから結構、怒っていますけれど……」

「お前たちのせいでな」

 アルス様は椅子から立ち上がり、揺るぎない足取りで真っ直ぐに私の目の前まで歩いてくる。
 両足を開かされたままのクリームでべとべとの私は、まな板の上の鯉の気持ちを味わっていた。

「良い姿だな、レティ。……私しか、受け入れたことがないと、先ほどお前は言っていたが。今は、どうだ? ここに欲しいのは、私か。それとも、男なら誰でも良いのか?」

 ふるふると、私は首を振った。
 誰でも良いなんて、思わない。

 アルス様に抱きしめられて、奥までいっぱいにされたときの充足感を思い出し、頭が痺れる。
 アルス様はいつだって優しくて、私のせいで体が辛いはずなのに、私を気遣ってくれていて。

 だから、私は――

「っ、ある、すさま、欲しい、アルス様が良いです……」

 ごくりと、アルス様の咽頭が上下するのがはっきりとわかる。
 口角が酷薄につりあがり、薄い青い瞳の色が、濃くなった気がする。

 唇を軽く舐める仕草が淫靡で、色香が増したアルス様を見ているだけで、体がぞくぞくした。

「あぁ、分かった。レティ、存分に味わえ」

 アルス様が服の前を寛げると、すっかり起立した昂りが、綺麗なアルス様の中心に何かの間違いのように顔を出す。
 服の中にどうやってしまっていたんだろうと思うぐらいに、大きく、お腹につくぐらいに反り返っている。
 
「私、アルス様に、魔法、使っていないのに……っ、どうして、そんなに大きくしているのですか……?」

「……お前のお嬢様は、馬鹿なのか」

「否定はしかねます。ですが、馬鹿な子ほど可愛いという言葉もございます」

「そうだな」

 私を挟んで会話をしないで欲しいのよ。
 セディの言葉に納得したように頷くと、アルス様は私の足を片手で掴んだ。

「好きな女の淫らな姿を見て、興奮しないわけがないだろう……!」

「っ、アルス様……っ」

 中途半端に高められて足りないと収縮する蜜壺に、アルス様の昂りがぬちゅりと入れられる。

 嬉しそうにアルス様を飲み込む私のその場所は、硬く太いそれに押し開かれて、いやらしく絡みついた。
 ずるりと中にそれが入り込むたびに、脳髄が焼けつくぐらいに気持ち良い。

「っ、あ、は、ぁうう……っ、あるすさまぁ、っるす、さま……っ」

 一番奥に、こつんと先端が触れる。
 まるで口づけをするように一番柔らかい場所がアルス様のそれを受け入れて、目の前がちかちか点滅した。

「っあ、ああ、あ――っ」

「達したのか、レティ。入れただけで? 余程、執事に可愛がって貰ったようだな」

「アルス、様、まって、まだ……っ、ゃあっ、あ、あ」

 最奥をこじ開けるように、円を描くようにして肉壁をなぞられる。
 体を突き抜けるような快楽が走り、腰が跳ねる。
 私の体が椅子から落ちないように、強すぎる快楽から逃げないように、セディが私の体を抱きしめるようにして支えている。

「ひっ、ぁ、ゃああっ、あっ、まって、あるすさまぁっ」

「待てない」

 引き抜かれては、奥を穿つ質量の大きな熱塊に、高みに昇ったまま戻ってこれないような快楽がずっと続いている。
 お話したいのに言葉が紡げず、考えたいのに、頭も働かない。

(アルス様、私を、好きって言ったわよね)

 好き、という言葉が頭に浮かんでは、消えていく。
 好き。
 その単語を思い浮かべるだけで、快楽とは別の、満たされる何かがあるような気がした。

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