特殊魔法は蜜の味

束原ミヤコ

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二度あることは三度ある

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 ――これ、何回目だっけ。
 靄のかかる頭はうまく働かない。体の芯から指先まで痺れているみたい。
 アルス様が私に啄むような口づけをした後、舌を絡めとるようにされて、ざり、と粘膜が擦れる。

 そもそも呼吸の苦しい私は、鼻で呼吸をし続けるのもままならなくて、口が塞がれてしまうのは苦しいのに、粘膜が擦れるのも、口の裏側を舐められるのも気持ち良くて、もう訳がわからない。

「ふ、ぅう、ぁふ……っ」

 口の端から唾液が溢れているし、繋がっている場所からは、アルス様が腰を揺らすたびに粘稠度の高い液体が滴り落ちていく。
 アルス様の前に散々ユールさんに嬲られていた体は敏感で、触られるところ全てが気持ち良い。
 体に食い込む蔦も、絶えず私の体を這い回り、胸の突起や花芯をつつき爪弾くようにしている細い蔦も、普通に考えたら気持ち悪いはずなのに、全部気持ち良い。

「ふぅぅ、ぁあ、あ゛、ひっ、ある、っす、さま……っ、も、だめ、動かな、で……っ」

 息苦しさに顔を背けても再び重なる唇になすすべもなく、舌を吸われて唇を軽く喰まれる。
 私の中にあるアルス様はまだまだ逞しくて、それはもう逞しくて、ちょっと怖くなっちゃうぐらいにお元気そう。
 好奇心から三倍性欲増し増しにして、三倍分の媚薬を付与して、三倍分の感度を増加させた私が全部悪いのだけれど。

 達したばかりの私は再び激しく突き上げられて、敏感になっている場所を容赦無くもう一度擦り上げられると、許容範囲を超える快楽にぞわりとした悪寒が背筋を這い上がった。

「レティ、お前が私をこのような場所でお前を犯す獣にした。責任をとってくれるな」

 耳元で艶やかな声が響く。
 いまだに足や腕を蔦に拘束されている宙吊りの私の腰を抱いて、アルス様が私を抱きしめるようにしながら、それでも奥をいじめる激しい律動はおさまらない。

 満足って、どれぐらいなのかしら。
 一度アルス様は果てているけれど、それでもまだお元気だし。

「あるす、さまぁ、気持ちい……?」

 あとどれぐらいで終わるのかしら。
 終わりが見えないのは、怖い。だってものすごく気持ち良くて、最近みんなに馬鹿だと言われている私の頭が、もっと悪くなってしまうかもしれないもの。

 そういえばアルス様、感度も三倍になっているのだから、いつもよりも気持ち良くなるのが早いのではないかしら。
 純粋な疑問に突き動かされて、息も絶え絶えになりながらも尋ねてみる。

「あぁ、たまらない。レティ、お前の中はきつく包み込んで、私を離さないと強請っているようだな。一番奥が私に吸い付いているのが分かるか?」 

「あ、あ……っ」

 アルス様は私の行き止まりの入り口を、とん、とん、と小刻みについた。
 そうしながら片方の手で、私の腹の上を同じように軽く指先で弾く。

「飲み込み切れないぐらい、注いでやる。孕め、レティ。国外逃亡などさせない。お前は、私のものだ」

「ゃ、あああっ、あぁ……っ、ひ、ぁう、ぅっ」

 奥の入り口を軽く突かれるだけで、お腹の下を撫でられるだけで、身体中がじんじん痺れるぐらいに気持ち良い。
 アルス様の言葉を理解する間も無いまま、達したばかりの痙攣する内壁を押し開けるように引き抜かれて、奥まで一気に貫かれる。

 脳髄が痺れて、意識が途切れる。
 あたたかいものがお腹に広がったけれど、アルス様の猛ったままのそれは私の中を更にじゅぶじゅぶと行き来した。

「レティ、レティ……、可愛い私のレティ、こんなに奥まで咥え込んで、お前の愛らしい場所は私の形をすっかり覚えただろう」

 熱に浮かされたように、アルス様が囁く。
 その声を聞いていると、快楽に茹だる体がさらに熱くなるのを感じる。
 機械っぽいアルス様が熱心に私を欲しがっているのが、魔法のせいなんだけれど、勝った気がして嬉しいからかしら。
 よくわからないけれど、うまく働かない頭ではまともに考えられない。

「あるす、さまぁ……っ、あるすさま、きもちい、いいよぉ……っ、好き、好きぃ」

 自分が何を言っているのかもよく分からないけれど、ただただ頭に浮かんだ言葉を口にした。
 アルス様は私を抱きしめて、さらに奥にある何かをこじ開けるように腰を打ち付ける。
 耳を甘噛みし、首筋に吸い付き、軽く噛む。
 ピリッとした刺激に、体が勝手に震える。
 気持ち良すぎて逃げたいのに、どうすることもできなくて、ただ与えられる快楽を受け入れることしかできない。

「ひっ、ん、んん、っ、ある、さまっ、も、むり、あ゛、ひぅああ、ゃ、いく、いくの、いっあああああ……っ」 

 奥を突かれるたびに達している気がするのに、終わりが見えなくて、さらに高みへと無理やり連れて行かれたまま戻ってこれない。
 アルス様は幾度目かの絶頂を迎えた私の中に自身を擦り付けるように何度か穿ち、熱いものを迸らせた。
 どくんと私の中で膨れた昂りから、熱いものが私の中を再び満たす。
 それはお腹がいっぱいになるぐらいに量が多くて、最後まで出し尽くす様に腰を打ち付けると、アルス様は大きく息をついた。

「……不本意だ……」

 はくはくと息をつきながら、意識を濁らせている私を抱きしめて、アルス様は地の底を這うような怒りの声音で振り絞るように言った。
 ずるりと私の中からアルス様が引き抜かれると、ぼたぼたと中に残っている残滓がこぼれ落ちていく。
 それと同時に私の体から、するすると拘束の蔦が解かれていった。

 それは初めから何もなかったように、地面の中に吸収されるようにして消えていく。
 支えるものを失った私を、アルス様は抱き上げて、それから近くの大きな木に背中を預けるようにしてずるずると座り込んだ。
 私はアルス様に抱かれながら、ぐったりと体の力を抜いていた。
 意識が半分夢の中にあるみたいだ。

 深い森の中に迷い込んで二人きりでいるような気がしてくる。

 凄かった。
 うん。
 物凄かった。

 やっぱり三倍ってすごいのね。二倍より三倍。私の魔法の効果は計り知れないわね。
 アルス様がまだお話ができる元気があるのが、凄いわよね。
 アルス様の裸体は見たことがないからわからないけれど、筋肉質というよりはどちらかといえば細身に見えるのに。

 やっぱり鍛えているのかしら。第一王子殿下なのだから、智勇に優れていなければいけないものね。
 うつらうつらしながらぼんやりとそんなことを考えていると、アルス様の声が子守唄の様に響いてくる。

「お前の言う好きが、私との性行為が好きだという意味だと理解しているのに、……その言葉を聞いただけで、満足してしまうとは。……それに、なんなんだこの状況は。何故助けにきたつもりが、毎回こんなことに……」

「二度あることは、三度あるのですよ、アルス様」

 最初の方は聞き取れなかったけれど、途中から私の魔法をかけられたことについて嘆いていると理解した私。
 私にもよく分からないけれど、古くから言われている格言を思い出して教えてあげることにした。

「あってたまるか」

 恨みがましい視線を向けられて、私は軽く首を傾げた。

「アルス様、気持ち良いって言いました」

「それはそうだろう。お前の魔法のせいもあるが、それがなくともこの状況だ。私も男だからな、快楽ぐらいは感じる。不本意だが」

 アルス様は片手で乱れた髪を直した。
 いつも片側だけ片耳にかかっている銀の髪が乱れているのを撫で付ける。
 片耳の蝶の耳飾りが揺れた。

「……私との性行為を不本意と思いながらつい行ってしまうということは、アルス様は完全に私に負けましたね」

「そもそも私はお前と勝負をしていない。いつ始まったんだ、その勝負は」

「アルス様が私に婚約破棄を突きつけた瞬間に」

「理由があったと言っただろう。それについては謝る。私が愚かだった。案ずるな、レティ。お前は私の婚約者のままだ。父や宰相が何といっても、自分の意見を通すつもりでいる。私は自分を国の傀儡だと思い込んでいた。……今までが、愚かだった」

「そ、そんな、そんなちょっと悲しそうな表情ぐらいで、はいそうですかと絆される私ではありませんから!」

「お前の怒りは最もだな。こんなことになったのは、私に責任がある」

 どうしちゃったのかしら。
 アルス様、突然殊勝な態度なのよ。

 何か裏があるのではないかしら。素直に謝ったら私が許すとでも思っているのかしら。
 でもなんだか、私、なんで怒っているのか分からなくなってきちゃったわね。
 アルス様の腕の中は気持ち良いし、その声も、心地良い。

「でもアルス様、私のミラクルリリカルエロティックマジックのせいなのですよ? こんなことになったのは。私がアルス様の性欲を滾らせなければ、アルス様は私に触れようとも思わなかったでしょう?」

「……待て、レティ。確かに今、なし崩しでこのような場所でお前を酷く犯してしまったのは、お前のミラクルリリカルエロティックマジックのせいではあるが」

「アルス様の口からそのようにすらすら言われると、とても罪悪感が……」

「そう思うならもう少しまともな名前をつけろ」

「欲望メガ盛り大爆発、とか」

「魔法の名前についてはもう良い。……良いか、レティ。私は」

 アルス様が何か重要なことを話すような声音で、真剣な表情で私をじっと見つめる。
 そして私は――いつものように、果てしない眠気に襲われたのだった。

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