特殊魔法は蜜の味

束原ミヤコ

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EP2:シャウラ・エルナト 5

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 これ、この感じ、この感じ、知ってる。
 どくんどくんと心臓の音がうるさく体に響いている。

 体温が急上昇し、感覚が鋭敏になるのがわかる。ぞくりと、体の奥がうずく。

「ぁ……、っ、なんでぇ……」

 シャウラ先生に手を引いて助け起こされた私は、再びがくりと床に膝をついた。
 シャウラ先生は私と手を繋いだまま、にこやかな表情で私を見下ろしている。

「レティ、……やはり、魔力がないというのは嘘だったんだね」

 ひいいい……!
 怖い、笑顔が怖い。シャウラ先生、目が笑っていないわよ。新緑を思わせる瞳が、私を静かに見下ろしている。

(何でよぅ……! 速攻でバレたわよ……!)

 アルス様の時は途中までうまくいっていたのに、シャウラ先生にはすぐにばれたわよ。

 しかも、何故なの。私の魔法、シャウラ先生ではなくて私にかかっているのよ。

 一度自分にかけたことがあるけれど、その時よりももっとずっと、体があつい。
 皮膚がしっとりと汗ばんで、瞳が潤んだ。

「悪い子だ、レティ。魔法を隠す。それは許そう。学園の生徒の持つ力を把握するのは、事故が起こらないようにするために必要なこと。それを見逃してしまったのは、僕の落ち度だからね。君にはそれを隠さなければいけない事情があったのだろう」

「っ、ゃあ、何、これ……!」

 私の足元に、透明な粘度のある水の膜が張った。
 それはまるで生きているかのように、角状に膨れ上がり私を取り囲む。

 魔物のスライムによく似ているそれ。
 これも覚えているわよ。忘れもしないわよ、あの屈辱を。

 これは一年前に私の体を調べ上げた、水のぷにぷにだ。

「レティ、僕には見ての通り、水の精霊の加護がある。そして、エルナト神官家は代々精霊教会を管理する家系でね、だからだろうか、魔法に対する造詣が深いと同時に、少々特殊な体質があるんだ」

「特殊な、体質……」

「そう。あらゆる魔法を、任意の威力で術者に跳ね返す。言わば、人を呪わば穴二つ、やられたら倍返しの守護、と言ったところかな」

「倍返し……っ」

 つまり、つまり、私の体に私の魔法が返ってきているということ。
 薄々は分かっていたけれど、いざ言葉にされると、途端に体がびくびくと震えだして、私は自分の体を自分で抱きしめた。

「任意の威力だからね、二倍返しから百倍返しまで思い通りなんだけど、君の魔法は精神や神経に影響を与えるようだから、あまり威力を強めると廃人になってしまう。けれどレティ、大人に悪い魔法をかけようとした君にはそれ相応のお仕置きが必要だろう。だから、軽く二倍返し程度にしておいたよ」

「ゃ、あ、あ……っ」

 二倍というと、私がアルス様にかけた魔法の分量と一緒!

 こんなに辛いのね、こんなに辛かったのね、それはアルス様も悪魔化してしまうわよね。うん。今度からは一度でやめておきましょう。倍がけはいけないわ、シャウラ先生が今、廃人になっちゃうって言っていたもの。

 次にアルス様に会ったときにもなんとなく勢いで魔法をかけてしまう確信があるけれど、かけるなら一回までよね。気をつけなきゃ。
 なんて恐ろしいのかしら私の魔法。私って実はちょっと、凄い魔女なのではないのかしら。

「ひん……っ、ん、んぅ、ぅう」

 水のぷにぷにが、私の太腿を這う。
 スカートの中から侵入して、ひやひやぬるりとしたものが、肌の上をべとべとと滑った。

 頭がおかしくなるぐらいに、体があつい。
 それなのに水のぷにぷにの触れ方は、ゆっくりで優しくて、まるで真綿で首を締められているように苦しい。

 私を取り囲んでいた水魔法のぷにぷには、更に大きく広がった。
 まるで足元からたくさんの手が生えているようだ。

 水で出来た沢山の手が私の腕や足に巻きついて、体を空中に持ち上げる。
 不安定な姿勢になった私は、逃げようと体を捩った。

 涙目になりながらシャウラ先生を睨むと、先生は妖艶な美女の私があられもない姿を晒しているというのに、興奮した様子もなく、冷静な眼差しで私を観察していた。

「じっくり、調べさせてもらうよ、レティ。君が隠している魔法について」

「ちゃんと言います、言いますからぁ……っ、せんせ、これ、やめて……」

「言っただろう、それは精霊検査。魔力を調べているだけだよ。レティが気持ち良くなるのは君の勝手だから、僕は止めたりはしないけれど」

「ひどいよぉ……」

 身体中を、水のぷにぷにが這いまわっている。
 たくさんの手に一斉に体を弄られているようで、鋭敏になっている私の皮膚はすぐに快楽を拾い上げた。

 脇腹をくすぐり、臍をぬるりと舐めて、背中や脇の下に触れられる。

 服の下を這うそれは私の一番触れて欲しいところを避けているようだった。
 潤んだ瞳から、涙が溢れる。

「これは、……そうだね、欲望を肥大させて、感覚が鋭敏になる魔法? やはり精神操作に近いのかな。精神操作は特殊で危険な魔法だよ、レティ」

「やだ、やだぁ、せんせ、助けて……っ、気持ちいいの、辛いの……っ」

 水のぷにぷにの感触は、たくさんの手に触れられているようにも思えるし、小さな舌に全身をチロチロ舐られているようにも思える。
 気持ち良いのに、中途半端で、とても辛い。

「ひ、ぁああっ、やだぁ、ああ、つらいの、せんせ……っ、まほう、解除してくださ……」

「残念だけれど、僕ができるのは呪い返しだけ。魔法自体を無効化して解除することはできないんだよ。僕は別に困っていないし、レティは僕を今の君の状態にしようとしたわけだから、その苦しみは自業自得だと思って反省なさい」

 うん。正論だわ。
 全く、なんの曇りもない、正論には違いないわよ。

 でもひどい。非道で非情じゃない。いたいけな私が快楽に溺れ死にそうになっているのに、冷静に観察するとか、アルス様のことを機械っぽいって思っていたけれど、シャウラ先生の方がより一層機械っぽいわね。

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