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EP2:シャウラ・エルナト 1
しおりを挟む抜き足差し足忍足。
私は再びこそこそと、学園の迷路のように広い校舎の中を彷徨っている。
彷徨っているというのは違うわよね。目的があるのだから、彷徨ってるわけじゃない。
確固たる目的意識を持って突き進んでいるといった方が正しいのだわ。
(アルス様の時は大成功だったわ。大成功したけれど、特に状況が変わったわけではないけれど)
アルス様に逆襲を果たすことができたので、別にもう王国から出奔しても良いといえば良いのよ。
でも、まだ足りないわよね。
あと二人。
あと二人、やり返さなければいけない相手がいるのよ。
(アルス様の側近の皆様もみんなユエルさんに夢中に見えるけれど、それは別に良いわね。私とは直接関係ないし)
ユエルさんに浮気をしている男性たちの中で私に関係あるのはアルス様だけだった。
あとは騎士団長の御子息とか、宰相の御子息とか、私とは違う公爵家の御子息とか、アルス様の側近と言える方々もユエルさんと仲良くしているけれど、それは別にどうでも良い。
ユエルさんのことが好きな男性たち全員に悋気を向けるほど、私はお馬鹿さんじゃないのよ。
あの人たちとは顔見知り程度で別に親しいわけじゃない。
それなので、どうでも良いと言えばどうでも良い。
学園に引き続き通うとなるとアルス様ともう一度顔を合わせる可能性があるので、ちょっとだけ気が引けたけれど、勝者は私だし、私がこそこそするのは違う気がするのよね。
私を心配するセディに、「アルス様が私に物理的に危害を加えようとしたら、今度は三倍のミラクルハイパーエロティックマジックをお見舞いしてあげるから大丈夫」と言うと、セディは私の心配ではなくアルス様の心配をしていた。
「お嬢様は、大丈夫ですね。強い子に育ってくれて私は嬉しいですよ」と目尻をハンカチで押さえながら言われた。
そうでしょう、そうでしょう。
セディが感動するぐらいに立派に育った私。
お父様にも義理のお母様にもあんまり相手にしてもらえなかったけれど、セディが一生懸命私の面倒を見てくれたし、シシリアちゃんは可愛いので、アルス様に仕返しできるぐらいに立派に育つことができたのよ。
きっと亡くなったお母様も草葉の陰で喜んでくれているわよね。
私は心の中で高笑いをした。この調子で残り二人も骨抜きにしてやるわよ。見ていらっしゃい。
(いたわ、今日も近寄りがたいわね)
私は校舎の裏口を抜けて、裏庭を通り抜けて礼拝堂までやってきていた。
空からは明るい日差しが燦々と降り注いでいる。
王国は一年を通して穏やかで暖かい気候だけれど、冬の終わりの今は少しだけ涼しい。
爽やかな風が吹く、心地良い昼下がり。
当たり前だけれど、授業の真っ最中である。
午前中は真面目に授業を受けていたけれど、昼休憩の時間を見計って抜け出してきた私。
昼休憩中は空き教室でやり過ごした。どうやらアルス様が私を探しているらしいので、捕まったら面倒なので隠れていたのである。
アルス様に会うのが怖いとかじゃないわよ。
私には心強い欲望を大爆発させる魔法があるのだし、アルス様といえども公衆の面前で私に対して欲望を大爆発させたりはしないだろうし。この力が有る限り、私の勝ち確よね。
ただ、やっぱり逆襲の邪魔をされるのはちょっと面倒なので、やり過ごすのが賢いと思うの。
空き部屋に隠れて昼休憩を終えた私は、みんながきちんと授業に出ている教室に背を向けて、礼拝堂にやってきたというわけである。
礼拝堂には、皆の懺悔を聞いてくれる神官様がいらっしゃる。
神官の名前はシャウラ・エルナト先生。
シャウラ先生は魔法学と精霊学、医学の先生も兼任していて、授業がない時は礼拝堂にいる。
礼拝堂の椅子に座って本を読んでいるシャウラ先生は、今日も宗教画の様に美しかった。
長く癖もなく、ほつれ毛一本なさそうなたおやかな金髪に、ステンドグラスから差し込む光で光の輪ができている。
背は高いけれど細身で女性のように美人。
長い睫毛に縁取られた瞳は新緑を思わせる青緑色で、涼やかな美貌の先生だ。
年齢は知らない。多分二十代後半ぐらいだと思う。
エルナト神官家の嫡男で、お父様であるエルナト神官が未だ現役ばりばりに王都の精霊教会を管理しているので、シャウラ先生は暇を持て余して学生指導などをしているらしい。
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