特殊魔法は蜜の味

束原ミヤコ

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EP1:アルス・エルジール 6

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 薄く開いた目には、アルス様の綺麗な顔が映っている。
 口角が釣り上がり、嗜虐的で、満足気な表情を浮かべている。

 誰なのこの人。悪魔が乗り移ったのかしら。

「レティ、美しいな。お前は慣れているのだろう、口付けられることも、触れられることも」

「慣れてなんて……、殿下、どうして、やめてください……っ、嫌ぁ」

 花芯をぐり、と強く押されて、私は腰を浮かせる。
 背中をびりびりと電流のような刺激が流れる。

 両足を閉じようとしたけれど、拘束のせいで腰を揺らめかせることしかできない。

「私、こんな、恥ずかしい……、嫌です、殿下」

 さっきまでの意気込みはどこへやら。

 高笑いをしていた私はすっかり萎縮し、恥ずかしいからやめてとぐすぐず泣いている。

 ある程度、ある程度は想像していたのよ。
 私が魔法を使うことによって性欲を大爆発させたアルス様が、私の体を求めてくること。

 屈辱に塗れながらそれでも肉欲には抗えず、情けなく私の足元に這い蹲って懇願するところなどを。
 それを私は「あら、殿下。嫌いな女の体にも欲情なさるのね」と嘲笑ってやる予定だったのに。

 嘲笑って、ある程度触らせてあげて、それで、「もうこれ以上は駄目ですわ、殿下。ご機嫌よう!」とか言って、逃げてやる予定だったのに。
 発散されない欲望に苦しみながら、私を捨てたことを後悔するが良い。
 そう思っていたのに。

 これでは私が蜘蛛の巣に自分から飛び込んだ胡乱な蝶々みたいじゃない。

「殿下でなはく、名で呼べ、レティ」

「だめです、もう、婚約者でもないのに」

「婚約者ではない。だが、お前を手放す気はなくなった。お前は自由にして良い。その代わり、私も好きなようにさせてもらう」

「どういう意味です……っ、やぁああっ、ああ、だめ、だめ」

 アルス様は私の開かれた足の間に顔を埋める。
 ぬるりと湿ったものが、指で嬲られてじんじんする花芯へと絡み付いた。

 これは、舌?
 舐められているの?
 そんなところを?

 アルス様の舌が、私の、はしたないところを舐めている。
 くちゅくちゅと淫猥な水音が鼓膜を犯して、私はびくびくと体を震わせた。

 なにこれ、なにこれ。
 アルス様のぬめる舌が、尖った舌先が花芯をつつき、小さな突起をまるで食べてしまうとでもいうように、きつく吸い上げる。

 両手両足を拘束されている私は、指先ぐらいしか動かすことができない。

(嫌ー! 何してるの、何してるの……!)

 私の頭の中はお祭り会場ぐらいに大混乱の上に大騒ぎだ。
 両足を大きく広げているだけでもかなり情けなく恥ずかしい姿勢なのに、そんな場所を見られてあまつさえ舌で触れられているなんて。

 いたたまれなくなって、私は目を閉じた。
 けれどそうすると、より鮮明に舌の感触が感じられてしまう。

 気持ち悪いのに、ぞくぞくする。
 淫らな快楽が背中を這い上がり、脳髄を痺れさせた。

「ぁ、ぁううっ、……っ、殿下、いけません、だめ、ぃやぁ」

「愛らしい声だ、レティ。いつもの無表情がこうも歪むとは、中々良い」

「それは、っ、あ、あぁ……」

「嫌いな男に触れられても濡れるのか、淫らだなレティ」

 するりと黒いショーツが引き抜かれる。
 愛液がとろりと糸を引いているのが自分でも分かる。アルス様は嘲るように言った。

「それは、殿下がひどいことをなさるから……っ、もう、やめてください、殿下には、ユエルさんがいるではありませんか」

「それは義務だ。私は今まで、義務を優先し、己の感情を殺してきた。だが、もう辞める。お前が全て悪い」

 確かに私が全部悪いんですけれど!

 どうしよう、どうしよう、私の魔法、解けないのよね。私の任意で解除できれば今すぐ解除してアルス様を正気に戻しているけれど、それができないのよ。

 性的に満足するまで効果が続いてしまうのだから、困ったものよね。

 しみじみ困っている場合ではなかったわ。
 アルス様の指が私の狭い蜜口へと差し入れられる。
 濡れてはいるけれど、容赦無く二本。たおやかだけれどしっかり太い男性の指が、私の中に入ってくるのがわかる。
 圧迫感に、私は息を詰める。
 目尻から涙がボロボロ流れた。

(酷いよぅ、けだものだわ……! セディは優しかったのに……)

 浮気じゃないわよ。
 あれは不可抗力だったのよ。
 私が自分の体で魔法を試してしまったから、セディが仕方なく私を慰めてくれただけで、いわばあれば治療。
 でも優しかったわよね。アルス様とは違うわよ。
 アルス様、私が泣けば泣くほど喜んでいるように見えるし。
 怖い。鉄面皮の下には悪魔が住んでいたのね。
 私は悪魔を呼び起こしてしまったのだわ。

「あっ、ぁ……ん、ん」

「狭いな、レティ。まるで、男を受け入れたことがないようだ」

 ないわよ、ないもの。
 アルス様、噂を鵜呑みにしてるんじゃないわよ。
 いえ、確かにセディにはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ気持ちよくしてもらったことがあるけれど、アレは事故なんだってば。

 でもアルス様は知らないわよね,知っているはずがないわよね。

 まさか、知ってるの?
 まさかね、そんなことないわよね。

「執事の男にも毎夜慰めてもらっているのだろう?」

 知られてるわ!
 怖い。怖いわよ。どうして知ってるのよ。悪魔だから? 悪魔だからなんでもお見通しなの、アルス様?
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