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第十三章 最終章
第八十一話 吹雪の夜に
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第八十一話 吹雪の夜に。
ブレイメン公国のミナセ侯爵領、領主館。
俺はほぼ完成した大学の敷地を見に来た。
建物は建設中だが春には開校できると思う。
その間暇なので招いた教師陣からこの世界の事について色々と講義してもらっている。
教育、政治に関してこの世界の事を俺は知らないのだ。
「侯爵様」
「なんだい?」
「この大学は素晴らしいですね。私も教師として身が引き締まる思いです」
ミナセ侯爵領で領主館に招いた教師陣の一人が俺にそう感想を述べる。
俺の知識では限界がある。
俺の持っている知識は日本の知識なので異世界フォーチュリアの知識は無い。
だからこうして異世界の人間に講義をしてもらっている訳だ。
「しかし本当によろしいのでしょうか?このような貴重な書物を見せていただいて」
「構わないよ。その為に集めたんだからね」
教師が手にしているのはこの世界だと王侯貴族でなければ手に入らないくらい高価で貴重な本だ。
そんな本を手あたり次第購入している。
いずれアルスラン帝国にある大図書館に匹敵する図書館にするつもりだ。
あと特に貴重な本は文字書きの練習も兼ねて写本してもらっている。
これは貧乏学生の副業兼勉強も兼ねている。
グーテンベルクの印刷機もあるが、これは民衆向けの本を刷るのに使っているから間に合わないのと、あまり知識が広まると困るからだ。
というのも民衆が知識を持つと大公家に対抗する知識階級層が生まれるからだ。
知識階級が常に正しい判断をするとはかぎらない。
そして民衆は扇動に流されやすい。
今のブレイメン公国は大公家がしっかりと国を統治しているから成立している側面が大きい。
民主主義はこの国に早すぎるのだ。
だから民衆向けの本は娯楽や教科書や農学書や医学書などに限定している。
まず識字率を上げないとね。
民衆が知識を持って、かつ扇動に流されない知恵をつけるのはとても良い事だ。
だから大学で庶民向けに授業をするときには、一般向けの娯楽小説なども採用するつもりだ。
識字率向上と娯楽にもなる。
「ハヤト」
そんな教師陣と大学を見て回っていたらクリスが歩いてきた。
俺は微笑み彼女の手を取りキスをする。
クリスは赤面するがその表情には笑顔が浮かんでいた。
「どうした?」
「今年の年越しは家族で過ごすのだろう?」
越冬祭の後は春になるまでの間、オットー大公は毎年のように領地を回って徴税や治安維持をして回るのだ。
今年は戦争のせいで行けなかったが、本来なら俺も同行するはずだった。
それが出来ないくらい忙しい俺は、今年最後の仕事として大学の様子を見に来ていたという訳だ。
オットー大公と一緒に国内を見て回りたかったが、戦争で中断していた大学も大切だからね。
「父上も会いたがっていたぞ」
「この間会ったばかりなんだけどね」
先日フリッツ君が一時帰国して戦況報告してもらった。
その後家族でささやかな宴が開かれたがフリッツ君は宴もそこそこに南部諸州に戻ってしまった。
アカネが来れなかったのがとても残念そうだ。
そして俺は当然フリッツ君がアカネの所に行って、一夜を共に過ごした事など知らない。
俺たちが想像していたよりフリッツ君とアカネが惹かれ合っていると知ったのは後日の事なのだ。
「しかしフリッツ君は本当に忙しいな。冬の間ずっと戦争しているようなもんじゃないか」
「フリッツは竜騎士だ。戦いに赴くのは当然のことだ。私もフリッツと同じ立場ならそうするだろう」
「アルスラン帝国は南部諸州の独立を認めないようだ。またフリッツ君は陣頭指揮を取る事になるだろうな」
アルスラン帝国は何があっても南部諸州の独立を認めず再び遠征軍を編成したそうだ。
いつまで現実から目を逸らすつもりなのか。
軍を維持する資金もそろそろ底をつくだろう。
その証拠に先日手に入れたアルスラン帝国の銀貨は銀の量がさらに減っていた。
こんな事を繰り返しては銀貨として役立たない。
なら民衆はどうするかというと、ブレイメン銀貨とシリカ銀貨は銀の含有量が高いから、いざ物々交換や闇市で取引するとき用にしまい込む。
銀の含有量が多いブレイメン銀貨やシリカ銀貨がタンスにしまい込まれ、日々の取引は粗悪なアルスラン銀貨が市場に出回る。
アルスラン銀貨は流通しているけど信用がないから価値が下がり続ける。
こうして経済は行き詰る。
「さっさと南部諸州に見切りをつけて独立を認めて国交を結べばいいんだけど、それやると他の地域も独立したがるからなあ」
「一度独立を認めるとアルスラン帝国は空中分解するという事か?」
「そうなるだろうね。そしてそうなれば内乱だ。沢山の人が死ぬだろう」
「悲劇だ」
「本当に悲劇だよ。でもそれも今までのアルスラン帝国の政治がまずかったからなんだよ」
俺はそう言ってクリスの手を取った。
アルスラン帝国の政治は腐敗していた。
このままでは各地の属州が独立を求めるだろう。
それを押さえ込む力が今のアルスラン帝国にはない。
逆にアルスラン帝国が内戦を始めたら周辺国は漁夫の利を得るだろう。
もっとも恩恵を受けるのがブレイメン公国で、国外が揉めている間平和が続くはずだ。
酷い話だが仕方がない。
俺たちは生き残るのに必死なんだ。
俺の頭の中で今後の方針が導き出される。
独立したい属州に武器を輸出して代わりに特権を得るのだ。
他国人の流した血のうえにブレイメン公国の繁栄を乗せる。
間違いなく俺は地獄行きだろう。
だが愛妻クリスと家族とブレイメン公国の為なら地獄に堕ちてもいい。
政治家なんて職業は地獄に堕ちる覚悟がないと出来ないからな。
「フリッツ君には本当に迷惑をかけるけど。勝って欲しいね」
「フリッツなら大丈夫だ。私の可愛い弟だからな」
「大丈夫か。俺に出来ることはフリッツ君が負けて、南部諸州が再びアルスラン帝国に占領された時の事を考えておく事かな」
その心配は杞憂に終わる。
南部諸州に攻め込んだアルスラン帝国軍五十万人がフリッツ君率いる南部諸州軍により撃滅された。
決定的敗北をしたアルスラン帝国は南部諸州を正式に独立国家シャーとして認め講和条約が結ばれる。
こうしてアルスラン帝国瓦解の第一歩が始まったのだ。
ブレイメン公国のミナセ侯爵領、領主館。
俺はほぼ完成した大学の敷地を見に来た。
建物は建設中だが春には開校できると思う。
その間暇なので招いた教師陣からこの世界の事について色々と講義してもらっている。
教育、政治に関してこの世界の事を俺は知らないのだ。
「侯爵様」
「なんだい?」
「この大学は素晴らしいですね。私も教師として身が引き締まる思いです」
ミナセ侯爵領で領主館に招いた教師陣の一人が俺にそう感想を述べる。
俺の知識では限界がある。
俺の持っている知識は日本の知識なので異世界フォーチュリアの知識は無い。
だからこうして異世界の人間に講義をしてもらっている訳だ。
「しかし本当によろしいのでしょうか?このような貴重な書物を見せていただいて」
「構わないよ。その為に集めたんだからね」
教師が手にしているのはこの世界だと王侯貴族でなければ手に入らないくらい高価で貴重な本だ。
そんな本を手あたり次第購入している。
いずれアルスラン帝国にある大図書館に匹敵する図書館にするつもりだ。
あと特に貴重な本は文字書きの練習も兼ねて写本してもらっている。
これは貧乏学生の副業兼勉強も兼ねている。
グーテンベルクの印刷機もあるが、これは民衆向けの本を刷るのに使っているから間に合わないのと、あまり知識が広まると困るからだ。
というのも民衆が知識を持つと大公家に対抗する知識階級層が生まれるからだ。
知識階級が常に正しい判断をするとはかぎらない。
そして民衆は扇動に流されやすい。
今のブレイメン公国は大公家がしっかりと国を統治しているから成立している側面が大きい。
民主主義はこの国に早すぎるのだ。
だから民衆向けの本は娯楽や教科書や農学書や医学書などに限定している。
まず識字率を上げないとね。
民衆が知識を持って、かつ扇動に流されない知恵をつけるのはとても良い事だ。
だから大学で庶民向けに授業をするときには、一般向けの娯楽小説なども採用するつもりだ。
識字率向上と娯楽にもなる。
「ハヤト」
そんな教師陣と大学を見て回っていたらクリスが歩いてきた。
俺は微笑み彼女の手を取りキスをする。
クリスは赤面するがその表情には笑顔が浮かんでいた。
「どうした?」
「今年の年越しは家族で過ごすのだろう?」
越冬祭の後は春になるまでの間、オットー大公は毎年のように領地を回って徴税や治安維持をして回るのだ。
今年は戦争のせいで行けなかったが、本来なら俺も同行するはずだった。
それが出来ないくらい忙しい俺は、今年最後の仕事として大学の様子を見に来ていたという訳だ。
オットー大公と一緒に国内を見て回りたかったが、戦争で中断していた大学も大切だからね。
「父上も会いたがっていたぞ」
「この間会ったばかりなんだけどね」
先日フリッツ君が一時帰国して戦況報告してもらった。
その後家族でささやかな宴が開かれたがフリッツ君は宴もそこそこに南部諸州に戻ってしまった。
アカネが来れなかったのがとても残念そうだ。
そして俺は当然フリッツ君がアカネの所に行って、一夜を共に過ごした事など知らない。
俺たちが想像していたよりフリッツ君とアカネが惹かれ合っていると知ったのは後日の事なのだ。
「しかしフリッツ君は本当に忙しいな。冬の間ずっと戦争しているようなもんじゃないか」
「フリッツは竜騎士だ。戦いに赴くのは当然のことだ。私もフリッツと同じ立場ならそうするだろう」
「アルスラン帝国は南部諸州の独立を認めないようだ。またフリッツ君は陣頭指揮を取る事になるだろうな」
アルスラン帝国は何があっても南部諸州の独立を認めず再び遠征軍を編成したそうだ。
いつまで現実から目を逸らすつもりなのか。
軍を維持する資金もそろそろ底をつくだろう。
その証拠に先日手に入れたアルスラン帝国の銀貨は銀の量がさらに減っていた。
こんな事を繰り返しては銀貨として役立たない。
なら民衆はどうするかというと、ブレイメン銀貨とシリカ銀貨は銀の含有量が高いから、いざ物々交換や闇市で取引するとき用にしまい込む。
銀の含有量が多いブレイメン銀貨やシリカ銀貨がタンスにしまい込まれ、日々の取引は粗悪なアルスラン銀貨が市場に出回る。
アルスラン銀貨は流通しているけど信用がないから価値が下がり続ける。
こうして経済は行き詰る。
「さっさと南部諸州に見切りをつけて独立を認めて国交を結べばいいんだけど、それやると他の地域も独立したがるからなあ」
「一度独立を認めるとアルスラン帝国は空中分解するという事か?」
「そうなるだろうね。そしてそうなれば内乱だ。沢山の人が死ぬだろう」
「悲劇だ」
「本当に悲劇だよ。でもそれも今までのアルスラン帝国の政治がまずかったからなんだよ」
俺はそう言ってクリスの手を取った。
アルスラン帝国の政治は腐敗していた。
このままでは各地の属州が独立を求めるだろう。
それを押さえ込む力が今のアルスラン帝国にはない。
逆にアルスラン帝国が内戦を始めたら周辺国は漁夫の利を得るだろう。
もっとも恩恵を受けるのがブレイメン公国で、国外が揉めている間平和が続くはずだ。
酷い話だが仕方がない。
俺たちは生き残るのに必死なんだ。
俺の頭の中で今後の方針が導き出される。
独立したい属州に武器を輸出して代わりに特権を得るのだ。
他国人の流した血のうえにブレイメン公国の繁栄を乗せる。
間違いなく俺は地獄行きだろう。
だが愛妻クリスと家族とブレイメン公国の為なら地獄に堕ちてもいい。
政治家なんて職業は地獄に堕ちる覚悟がないと出来ないからな。
「フリッツ君には本当に迷惑をかけるけど。勝って欲しいね」
「フリッツなら大丈夫だ。私の可愛い弟だからな」
「大丈夫か。俺に出来ることはフリッツ君が負けて、南部諸州が再びアルスラン帝国に占領された時の事を考えておく事かな」
その心配は杞憂に終わる。
南部諸州に攻め込んだアルスラン帝国軍五十万人がフリッツ君率いる南部諸州軍により撃滅された。
決定的敗北をしたアルスラン帝国は南部諸州を正式に独立国家シャーとして認め講和条約が結ばれる。
こうしてアルスラン帝国瓦解の第一歩が始まったのだ。
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